OPECプラス、23年1月以降も「現状維持(日量200万バレルの協調減産)」決定

~G7などの対ロ制裁の効果は見通せないなか、OPECプラスは価格下支え重視の姿勢は崩さず~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済はスタグフレーションが意識される状況にある。コロナ禍を経て主要産油国であるOPECプラスは過去最大の協調減産に動くも、昨年以降は世界経済の底入れを理由に減産の段階的縮小に動いてきた。しかし、世界経済の減速懸念の高まりが国際価格の頭打ちを招くなか、OPECプラスは11月から日量200万バレルの協調減産再開で合意し、価格下支えを優先する考えをみせた。足下の国際価格は世界経済の減速懸念を理由に一段と頭打ちする一方、G7などによるロシア産原油の価格上限決定の影響が見通せないなか、OPECプラスは4日の閣僚会合において現状維持(日量200万バレルの協調減産)を決定した。G7による「1バレル=60ドル」の価格上限設定はギリギリの判断である一方、中国やインドが「抜け穴」となることは必至である。他方、世界経済の一段の減速が意識され国際価格が調整の動きを強めればOPECプラスは追加減産に動くと見込まれ、価格の高止まりが世界的なインフレを招く展開が続くことは必至である。

中国による厳格な行動制限を伴う『動態ゼロコロナ』戦略への拘泥は、幅広い経済活動に悪影響を与えることで中国景気の足かせとなるとともに、サプライチェーンの混乱を通じて中国経済と連動性が高い国々にも悪影響が伝播することで世界経済の足かせとなる状況が続いている。さらに、ウクライナ情勢の悪化による供給不安を理由とする商品高が世界的なインフレを招くなか、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀は物価抑制を目的にタカ派傾斜の動きを強めており、物価高と金利高の共存を受けてコロナ禍からの回復が続いた欧米など主要国景気に冷や水を浴びせる動きがみられる。結果、足下の世界経済はスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。また、米FRBなどによるタカ派傾斜の動きは世界的なマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出の動きが強まるとともに景気の足を引っ張ることが懸念され、そうした動きを受けて金融市場はリスクオフの動きを強める悪循環もみられた。なお、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出ている上、こうした動きを反映して新興国からの資金流出の動きも落ち着きを取り戻しており、商品高と資金流出に伴う通貨安による輸入物価の押し上げがインフレを招く事態に直面してきた多くの新興国にとってはそうした懸念も後退している。他方、一昨年来のコロナ禍による世界経済の減速に対応して過去最大規模の協調減産に動いたロシアを含む主要産油国(OPECプラス)は、その後の世界経済の回復による需要底入れを受けた原油価格の上振れを受け、昨年以降は段階的に協調減産を縮小させた。当初の計画では協調減産自体は今年9月末時点において実質終了する予定であったものの、年明け以降はウクライナ情勢の悪化を理由とする欧米などによる対ロ制裁強化を受けた供給不安を理由に国際原油価格は上振れする事態を招いた。こうした事態を受け、米国など主要原油消費国は戦略原油備蓄の放出に加え、米国はOPECプラスの一員であるサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などに増産を要求するなど『圧力』を掛ける動きをみせたものの、コロナ禍対応を目的にOPECプラスは枠組強化による価格安定を実現する一方、中東諸国の間に米国の対中東戦略への不信感がくすぶるなかで両国は米国の圧力に対して態度を明確にすることを避けた(注1)。他方、その後はロシア産原油の供給減やアフリカ諸国での生産低迷などを理由に世界的な需給のひっ迫が高まり国際価格が一段と上振れしたため、OPECプラスは今年9月末の協調減産終了という前提を維持しつつ、9月の協調減産分を7月、及び8月に均等に上乗せする実質増産により、増産を要求する米国にも、枠組を重視するロシアにも双方の顔を立てる対応をみせた(注2)。しかし、国際原油価格はその後も一段と上振れしたことから、米国のバイデン大統領は7月の中東歴訪に際してサウジのムハンマド皇太子(現首相)と初の会談に臨むとともに、同氏の関与が疑われるトルコでのサウジ人記者殺害事件をきっかけに悪化した関係修復に動くとともに、湾岸協力会議(GCC)拡大首脳会議に出席して増産要請を行った。OPECプラスは9月の産油量を日量10万バレルの小幅追加増産を決定するなど米国の要請に『気持ちばかり』の対応をみせたが(注3)、その後の国際価格は一転調整したことを受けて10月には日量10万バレルの小幅減産を決定するなど『帳消し』する動きをみせた(注4)。さらに、その後も上述のように世界経済のスタグフレーションが意識されていることを受けて国際価格は一段と頭打ちの動きを強めたことから、OPECプラスは11月から日量200万バレルの協調減産を決定するとともに、閣僚会議の頻度を大きく減らす一方で必要に応じて臨時会合を開催することで機動性を高める方針を明らかにした(注5)。なお、その後の国際価格は世界経済の減速が意識され一段と頭打ちの動きを強めるなかでOPECプラスは4日に閣僚会合を開催し、1月からの産油量について日量200万バレルとする現状維持を図ることを決定した。11月からの協調減産決定を受けて、主要産油国であるサウジなど中東の産油国は大きく減産に動いていることが確認され、さらに、中国によるゼロコロナ政策、欧州経済の減速懸念を理由に、OPECプラスは来年、及び再来年の需要見通しを日量10万バレルずつ縮小させている。他方、G7(主要7ヶ国)とEU(欧州連合)、豪州は今日(5日)からロシア産原油について「1バレル=60ドル」とする上限を設ける措置を発効することで合意しているが(注6)、この水準はロシア産原油の欧州での取引価格であるウラル原油の直近に近い水準であり、ロシア産原油価格の上振れを避けつつ、過度な価格下落により採算ラインを下回ることでロシアが原油輸出を止める懸念にも一定程度の配慮を示したものと捉えられる。ただし、中国やインドなどアジアにおいてはロシア産原油に適用されるエスポ原油価格はウラル原油を大きく上回る推移が続いており、現実には中国やインドがG7などによる措置の『抜け穴』となることは必至であろう。また、ロシアはG7などの決定に反発する動きをみせている上、OPECプラスは今回の閣僚会合、及び直前に行われたOPECの閣僚会合においてこの問題について協議していない模様であり、現時点においては国際原油価格への影響を判断しあぐねている様子もうかがえる。ただし、11月からの協調減産を巡っては、OPECプラスは枠組維持による価格下支えを重視する姿勢を鮮明にしており、世界経済の減速が一段と意識される事態となれば枠内で追加減産に動く可能性も共有されている模様である。次回の合同閣僚監視委員会(JMMC)は来年2月1日、閣僚会合は6月3~4日に開催する予定としているものの、当面は様子見姿勢を維持する一方で国際価格の一段の下振れが意識される事態となれば価格下支えを目的に緊急で追加減産に動く可能性もあり、先行きも相場の高止まりが世界的なインフレ要因となる展開が続くことは避けられないであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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