OPECプラス、2022年11月からは日量200万バレルの協調減産を決定

~現実に供給減に繋がるかは不透明だが米バイデン政権は反発、世界経済の不透明要因も増す懸念~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は全体として景気減速が警戒されている。さらに、米FRBなどのタカ派傾斜はマネーフローに影響を与えており、世界経済の足を引っ張る悪循環に陥る懸念も高まっている。コロナ禍対応を目的に主要産油国の枠組(OPECプラス)は過去最大の協調減産に動いたが、昨年以降は世界経済の回復に歩を併せて段階的な減産縮小に動いた。ウクライナ情勢の悪化後の原油価格の上振れを受けて米国などは増産を要請してきたが、世界経済の減速に伴い原油価格は調整の動きを強めており、OPECプラス内では減産に向けて思惑が一致し、5日の閣僚協議で11月からは日量200万バレルの協調減産を決定した。なお、8月時点のOPECプラスの産油量は目標に対して日量約360万バレル未達であり、今回の決定が現実的な供給減となるかは不透明である。他方、米バイデン政権は中間選挙前のタイミングも重なり反発を強めており、原油高による世界的なインフレが世界経済の不透明要因を増す可能性も高まっていると判断出来る。

足下の世界経済を巡っては、中国の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足を引っ張っているほか、商品高による世界的なインフレを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、欧米など主要国の景気も頭打ちするなど全体的に景気減速が警戒されている。さらに、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜の動きは国際金融市場におけるマネーフローに影響を与えており、米ドル高の動きを反映して多くの国で資金流出の動きが強まり、なかでも経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国に資金流出が集中する動きもみられる(注1)。こうした状況も世界経済の足かせになるとみられるなか、国際金融市場においては世界経済の減速懸念を嫌気したリスク回避の動きも広がりをみせるなど、そうした動きが世界経済の足をさらに引っ張る悪循環に陥る可能性も高まっている。一昨年来のコロナ禍による世界経済の減速に対応して過去最大規模の協調減産に動いたロシアを含む主要産油国(OPECプラス)は、その後の世界経済の底入れに歩を併せる形で昨年以降は段階的に協調減産の縮小に動いてきた。なお、当初の計画において協調減産は9月末で実質的に終了するとされたものの、世界経済の回復が進む一方で年明け以降はウクライナ情勢の悪化を受けた欧米などの対ロ経済制裁強化による供給懸念が意識されて国際原油価格は上振れした。よって、米国をはじめとする主要原油消費国は戦略原油備蓄を放出するとともに、米国はOPECプラスの一員であるサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)に対して増産を求めるなど『圧力』を強める動きをみせた。他方、OPECプラスは全会一致を原則としており、コロナ禍を経てOPECプラスの国々はロシアを含む枠組強化を通じて価格安定に動いたためにロシアの意向を無視することが出来ない一方、中東諸国の間には米国の対中東戦略に対する不信感が高まっている上、ここ数年の世界的な『脱炭素』の潮流を受けて増産投資が無駄撃ちとなる可能性も警戒されるなかで両国は米国の圧力に対して態度を明確にしなかった(注2)。ただし、その後も戦略備蓄の放出や米国などでのシェールオイル増産にも拘らず、ロシア産原油の供給減やアフリカ諸国の生産低迷に加え、ウクライナ情勢の悪化を受けた欧米のロシア産原油の輸入縮小やロシア産原油価格への上限設定なども重なり、世界的な需給はひっ迫感が強まり国際原油価格は一段と上振れした。これを受けて、OPECプラスは9月末の協調減産終了を前提としつつ、9月の協調減産縮小分を7月及び8月に均等に上乗せして実質的な増産とする決定を行い、OPECプラスに増産を求める米国、枠組を重視するロシアの双方の顔を立てる対応をみせた(注3)。しかし、その後も国際原油価格は一段と上振れしたため、米国のバイデン大統領は7月の中東歴訪に際してサウジのムハンマド皇太子(現首相)と初めての会談に臨み、同皇太子の関与が疑われるトルコでのサウジ人記者殺害事件を契機に悪化した関係の修復に動くとともに、湾岸協力会議(GCC)の拡大首脳会議に出席して増産を要請した。これを受けて、OPECプラスは9月の産油量を日量10万バレルと小幅に追加増産するなど米国の要求に対して『気持ちばかり』の対応をみせる一方(注4)、その後は国際原油価格が一転調整の動きを強めたため、10月の産油量は日量10万バレルの小幅減産で合意するなど9月の小幅増産を『帳消し』にする対応をみせた(注5)。なお、OPECプラスはさらなる価格下落に際しては緊急会合の開催に含みを持たせたものの、上述のように世界経済を巡る不透明感が強まるなかで国際原油価格は調整の動きを強めたため、11月の産油量を協議する閣僚会合前には大幅減産に動くとの見方が強まった。なお、閣僚会合前に開かれるJTC(合同専門委員会)は直前に突如開催が中止されるなどドタバタ劇もみられたが、5日に開催された閣僚会合では11月からの産油量についてOPECプラス全体として世界需要の2%に相当する日量200万バレルの減産で合意した。なお、会合後に公表した声明では、OPECプラスの枠組を2023年末まで延長した上で、今後は閣僚会合の前提となるJMMC(合同閣僚監視委員会)の実施頻度を2ヶ月に1度、閣僚会合もOPEC(石油輸出国機構)の定期会合に併せて6ヶ月に一度に変更する一方、必要に応じて臨時会合を開催するとして機動性を高める方針を明らかにした。また、この決定に伴い次回の閣僚会合は12月4日に開催するとしている。今回OPECプラスが一転大幅減産に動いた背景には、このところの急激な原油価格の調整を受けてOPEC枠内の主要産油国にとって財政均衡水準を一時下回る事態となり(1バレル当たりサウジは79.2ドル、UAEは76.1ドル、イラクは75.9ドル)、原油価格の上振れを前提にした歳出増計画の当てが外れたことも影響している。さらに、ここ数年ロシアでは財政均衡水準が低下したものの、ウクライナ侵攻による軍事費増大に加えて、欧米などの禁輸措置を受けて中国やインドなど新興国向けに国際価格から一定程度の割引価格での売り渡しを余儀なくされており(注6)、財政均衡水準が1バレル=80ドル程度に上昇しているとの見方も出ている。したがって、OPECプラス全体としては前回の閣僚会合時点から一段と『価格維持』が急務になっていたと捉えられる。ただし、今回は11月以降の産油量について日量200万バレルの減産を決定したものの、8月時点でOPECプラス全体の産油量は目標に対して日量約360万バレル未達となるなど減産を上回っていることを勘案すれば、現実的には供給の動きが大きく変化する可能性は低いと見込まれる。一方、今回の決定を受けて上述のようにサウジやUAEに対して増産を求めてきた米国は「OPECプラスの短絡的な決定に失望している」との声明を発表するなど反発しており、仮に原油価格の上振れによりガソリン価格が上昇すれば、来月に中間選挙を控えるバイデン政権にとり痛手となる可能性も高まる。ただし、米国内のシェール企業の間では増産に後ろ向きの模様とされるなか、バイデン政権が戦略備蓄の追加放出に動くとともに、石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案の支持が拡大するなど、OPECプラスと欧米との距離が急速に広がる可能性も考えられる。原油高による世界的なインフレを受けた米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜は新興国経済に打撃を与える動きもみられるなか(注7)、世界経済にとって不透明要因が増す懸念も高まるであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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