ロシア・プーチン政権が通算5期目入り、終身化を念頭にした対応が必要

~ウクライナ戦争を巡って国民に団結を訴え、「グローバルサウス」にウイングを広げる可能性も~

西濵 徹

要旨
  • ロシアでは7日、3月の大統領選で勝利したプーチン氏が大統領就任式に臨み、通算5期目となる政権がスタートした。ウクライナ戦争を巡って当初は欧米などの制裁により経済に深刻な悪影響が出たが、足下では影響を克服している。ただし、戦時経済の長期化による労働力不足やインフレが国民生活を直撃しており、プーチン氏はバラ撒き政策による支持集めが財政上の圧迫要因となる懸念はくすぶる。原油高や金価格の上昇は対外準備資産を押し上げる一方、財政補填の観点から外貨準備の取り崩しを余儀なくされている。就任式でプーチン氏は国民に団結を呼び掛けるなどウクライナ戦争の完遂を目指す姿勢をみせる。他方、欧米などに対話の可能性を示唆する一方でBRICSなど「グローバルサウス」にウイングを広げる考えをみせる。プーチン氏は最長で2036年まで大統領を務める「終身化」も可能な上、今後は中央アジアやコーカサス地域への介入も懸念され、こうした可能性を念頭に関係性を構築していく必要があると考える。

ロシアでは7日、3月に実施された大統領選において勝利したプーチン氏による大統領就任式が開催されるとともに、通算5期目となる政権がスタートした。3月の大統領選にはプーチン氏を含む4人が立候補するもプーチン氏を脅かす候補者の居ない実質的な『無風選挙』となるとともに、選挙直前には反体制派に対する圧力が一段と強まるなどプーチン氏再選を既定路線とする流れもみられた(注1)。なお、3年目に突入したウクライナ戦争を巡っては、欧米などによる経済制裁強化を受けて一時的に同国経済に深刻な悪影響が出るも、その後は世界的に分断の動きが広がるなかで中国やインドをはじめとする新興国との貿易拡大の動きが事実上の『抜け穴』になるとともに、軍事産業の拡大の動きも重なり足下ではその影響を克服していると捉えられる。他方、戦時経済が長期化するなかで動員に伴う労働者不足が幅広い経済活動の足かせとなる状況に直面しているほか、インフレを昂進させるなど国民生活を直撃する事態を招いている。さらに、昨年の国際金融市場においては経済面で中国と関係深化が進むなかで通貨ルーブルは人民元との連動性を強めるなか、ルーブル安が進んで輸入インフレが加速する動きもみられたため、中銀は物価と為替の安定を目的に累計850bpもの利上げを余儀なくされるなど、難しい対応を迫られている。他方、プーチン氏は大統領選を前にインフラ投資やハイテク産業の育成、少子化対策の拡充をはじめとするバラ撒き政策を打ち上げるなど支持集めに奔走する動きをみせたものの、これらの政策実現には年間歳出額の約半分を擁するとみられる。今年度予算においては戦時経済の長期化による軍事費増大が財政悪化を招く動きが顕在化しているが、これらの歳出拡大を受けて財政状況は一段と圧迫されることは避けられなくなっている。なお、欧米などの経済制裁強化を受けて外貨準備の一部は事実上凍結状態にあるとみられるものの、主力の輸出財である原油や天然ガスなどの国際価格の高止まりに加え、近年の金の積み上げや国際価格の上昇も追い風に対外準備資産は拡大が続く一方、足下の外貨準備高は減少の動きを強めており、財政補填を目的とするソブリン・ウェルス・ファンドを取り崩している様子もうかがえる。なお、過去には新たな任期の開始直後に多くの国民にとって耳障りな政策を打ち出す動きがみられたことを勘案すれば、高所得者を対象とする所得税増税などに動くとの観測が出ているものの、戦時経済の終了が見通せないなかで財政状況の劇的な改善を促すことができるかは不透明と考えられる。他方、就任式においてプーチン氏は国民に対して「我々は団結した偉大な国民であり、ともにあらゆる障害を乗り越えてすべての計画を実現する。ともに勝利しよう」と呼びかけるなど、ウクライナ戦争の完遂に向けた団結の必要性を訴えた。その一方、ウクライナ戦争を巡って批判を強める欧米などを念頭に「我々は西側諸国との対話を拒否している訳ではなく、選択は彼ら次第」とした上で、「戦略的関係を含む対話は双方の国益を尊重する対等なものでなければならず、他国との関係についてはオープン」「多極化する世界秩序の形成に取り組む」と述べるなど、同国が加盟するBRICSを軸にしたいわゆる『グローバルサウス』と称される新興国にウイングを広げる可能性に言及したものと捉えられる。なお、2020年の憲法改正を受けてプーチン氏は通算5期目となる政権入りが可能になったものの、2030年の次期大統領選に出馬することもできるため、最長では2036年まで大統領で居続けることができる事実上の『終身大統領』を見据えた動きを強めることも予想される。プーチン氏が首相を経て大統領に再登板した政権3期目入りした直後には、クリミア危機をきっかけにクリミア半島に介入するとともに、その後のウクライナ戦争に繋がる動きに繋がったことを勘案すれば、今後は旧ソ連諸国の中央アジアやコーカサス地域などを対象に同様の動きを展開させる懸念もくすぶる。プーチン政権の長期化とこうした振る舞いや行動様式を念頭に如何にロシアと対峙するか、わが国をはじめとする西側諸国はきちんと戦略を練っていく必要性があることは間違いないであろう。

図1 実質GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移
図1 実質GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移

図2 対外準備資産規模の推移
図2 対外準備資産規模の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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