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2022.06.03
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OPECプラス、米国・ロシア双方の「顔を立てる」(2022年7月及び8月は日量64.8万バレルの増産)
~米国の増産要求に応えるも、ロシアを含むOPECプラスの枠組維持で需給ひっ迫が続く可能性は大~
西濵 徹
- 要旨
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- 国際金融市場では、コロナ禍からの世界経済の回復が続く一方、ウクライナ問題に伴う欧米諸国などの対ロ制裁強化も影響して商品市況は上振れしている。こうした状況ながら、OPECプラスは協調減産の段階的縮小を維持して米国などの増産要求を拒む対応が続いた。しかし、中国経済は最悪期を過ぎつつあり、アフリカ諸国の供給減が続くなかでEUもロシア産原油の停止で合意するなど需給ひっ迫懸念が高まっている。こうしたなか、増産余力があるサウジとUAEは米国からの「譲歩」を模索しつつ、OPECプラスの会合に臨んだ。閣僚級会合では、ロシアを含むOPECプラスの枠組維持を図る一方、ロシアの生産減を補填すべく9月の協調減産縮小分を7月及び8月に均等で上乗せして協調減産枠を日量64.8万バレルとする実質増産で合意した。これは、米国などからの増産要求に応える一方、ロシアに対してOPECプラスの枠組維持という両方の顔を立てた格好である。OPECプラスは米国など主要消費国とロシアを両天秤に測る一方、今後も全体としては供給減に伴う需給ひっ迫が意識されやすく、結果的に原油高が続く可能性は高いと見込まれる。
国際金融市場においては、欧米など主要国を中心とする世界経済のコロナ禍からの回復により需要の底入れが続く一方、ウクライナ情勢の悪化を理由に欧米諸国などはロシアへの経済制裁を強化しており、供給減による需給ひっ迫を警戒する形で原油をはじめとする国際商品市況は上振れする展開が続いている。一昨年来のコロナ禍に伴う世界経済の減速を理由に国際原油市況は大きく調整したため、ロシアを含む主要産油国(OPECプラス)は過去最大規模の協調減産を実施したが、その後の景気回復を受けて昨年以降は減産幅を段階的に縮小させてきた。なお、上述のように足下では需給のひっ迫が懸念される状況が続くなか、米国をはじめとする原油の主要消費国は戦略原油備蓄の放出に動いているほか、米国がOPECプラスの一員であるサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)に増産を求めるなど『圧力』を強めてきた。しかし、OPECプラスは『全会一致』を原則とするなか、ここ数年両国はロシアとの関係強化に腐心してきた経緯がある一方、中東諸国の間に米国に対する不信感が強まるなか、増産投資が『無駄撃ち』に終わるリスクもくすぶるなかで両国は『のれんに腕押し』の対応を続けてきた(注 )。他方、幅広い国際商品市況の上振れを理由に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めるなど景気に冷や水を浴びせる懸念がある一方、足下では中国当局の『ゼロ・コロナ』戦略が足かせとなってきた中国経済を巡る状況は最悪期を過ぎつつあるなど、需要を取り巻く環境に変化の兆しが出ている。さらに、先月末に開催されたEU(欧州連合)の首脳会議において、ロシア産原油の輸入について海上輸送分の即時停止、ドルジバパイプラインを通じた分も年内いっぱいで停止するなど、輸入全体の約9割を停止することで合意している。ロシア産原油を巡っては、国際市場への供給減を米国などの戦略備蓄の放出や米国内でのシェールオイルの増産で補う動きをみせているものの、充分に補うことが出来ない状況が続くなど需給のひっ迫が続いており、結果として足下における国際原油価格の高止まりを招く一因になっている。さらに、OPECプラス全体としてもすでにリビアやナイジェリア、アンゴラなどアフリカ諸国の生産低迷により生産目標を下回る推移が続いており、今後ロシア産原油の供給が細ることはさらなる供給減を招く可能性が高まっている。米国では11月に中間選挙を控えるなか、足下の物価高はバイデン政権及び与党・民主党にとって逆風となっており、一段の物価上昇を避けるべく米バイデン政権はサウジ及びUAEに対して増産を求める動きを強めてきた。他方、サウジ及びUAEにとってはイエメン北部を支配する親イラン派武装組織(フーシ派)が安全保障上の脅威となるなか、米国はトランプ前政権の下でフーシ派をテロ組織に一旦指定したが、バイデン現政権はイラン核合意の再構築を見据えて指定を解除するなど米国の対応に警戒感を抱いており、何らかの『譲歩』を模索していた。こうしたなか、2日のOPECプラスの閣僚級会合前に開催されたJTC(合同専門委員会)やJMMC(合同閣僚監視委員会)では、ロシアを含むOPECプラスの枠組を維持する考えが共有される一方、ロシアの生産減少分を他の国々が補填する形で供給確保を図ることで合意が図られた模様である。結果、閣僚級会合においては昨年7月の協調減産スケジュール(注 )を順守することを改めて強調する一方、同計画では今年9月末に協調減産を終了する予定のなか、生産下振れ懸念に対応する形で9月の協調減産縮小分(日量43.2万バレル)を7月及び8月(それぞれ日量21.6万バレル)に上乗せする形で実質的な増産(日量64.8万バレル)とすることで合意した。こうした対応は、上述のように増産を求める米バイデン政権などの要求に応える一方、OPECプラスの枠組を重視するロシアに対しても全体としての協調減産の枠組を維持したと説明可能であるなど、どちらに対しても『顔を立てる』内容となっている。なお、OPECプラスは先々月(注 )、及び先月の会合(注 )においてロシアとの協調を重視して欧米諸国と距離を置く姿勢をみせてきたが、国際原油価格は上振れするなど価格カルテルとしての存在意義が問われるとともに、米国をはじめとする原油消費国からの風当たりが強まる懸念が高まっており、最終的に米国とロシアを両天秤に測ったと捉えられる。ただし、OPEC内で増産余力を有するのはサウジとUAEくらいである一方、大幅増産はロシアの顔に泥を塗るとともにOPECプラスの瓦解を招くリスクがあるなか、上述のように能力不足を理由とする生産低迷に見舞われる国が少なくない上、ロシア産原油の供給減も重なり、全体としては需給ひっ迫状態が続く可能性は高いと見込まれ、原油価格も高止まりが続くと予想される。また、OPECプラスがロシアを含めた枠組を重視する姿勢を改めて強調したことは、米国など消費国からの増産要請に対して容易に応じない姿勢を示していると捉えられる。
注1 3月14日付レポート「OPECプラスは米国の増産要請に応えるだろうか」
注2 2021年7月19日付レポート「OPECプラス、閣僚級会合の決裂を経て年末までの減産縮小で合意」
注3 4月1日付レポート「OPECプラスは欧米諸国などと距離を置く姿勢を一段と明確に」
注4 5月6日付レポート「OPECプラス、2022年6月も小幅増産維持で欧米と距離を置く姿勢」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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