「米ドル一強」で新興国は苦境に直面も、コロンビア中銀は利下げ

~実質金利の大幅プラスや原油相場が利下げを後押しするも、政治、経済ともに見通しは立ちにくい~

西濵 徹

要旨
  • コロンビア中銀は30日の定例会合で政策金利を50bp引き下げ11.75%とする決定を行った。同行は物価と為替の安定を目的に2021年以降に累計1150bpの利上げを実施したが、昨年初めにインフレは24年ぶりの高水準となった。その後もインフレが高止まりして中銀は引き締め姿勢を維持したが、景気が頭打ちの様相を強めるなか、中南米で利下げの流れが広がったことも重なり、昨年12月に利下げに舵を切るも、その後もインフレは中銀目標を上回る推移が続く。足下の金融市場では「米ドル一強」の動きが強まり一部の新興国は通貨防衛の利上げや為替介入を迫られているが、同国では原油相場の底入れを受けて通貨ペソ相場は堅調に推移しており、利下げを後押ししたとみられる。先行きの政策運営はデータ次第とするが、実質金利が大幅プラスとなるなかで米ドル高に直面する新興国とは異なる状況が続くであろう。他方、ペトロ政権は苦境に見舞われるなかで経済、政治ともに見通しが立ちにくい状況が続く可能性は高い。

30日、コロンビア中銀は定例の金融政策委員会を開催して政策金利を50bp引き下げて11.75%とする決定を行った。昨年来の中南米諸国においては、商品高や米ドル高が一巡したことによるインフレの頭打ちを受けて利下げに転じる動きが広がりをみせてきた。ここ数年の同国では商品高や米ドル高に加え、異常気象による歴史的大干ばつを受けて電源構成の6割を水力発電が占めるなかで火力発電の再稼働を余儀なくされたため、インフレは大きく上振れして昨年初めに24年ぶりの高水準となる事態に直面した。こうした事態を受けて、中銀は2021年10月以降に物価と為替の安定を目的に累計1150bpもの断続利上げを余儀なくされたほか、昨年初めを境にインフレは頭打ちに転じたものの、インフレは中銀目標を大きく上回る推移が続いたことで高金利政策を維持してきた。しかし、物価高と金利高の共存状態が長期化しているほか、世界経済の減速懸念が高まるなかで主要輸出財である原油の国際価格も弱含みする展開をみせたことも重なり、景気は勢いを欠く推移が続いている。結果、昨年の経済成長率は+0.6%と前年(+7.3%)から大幅に伸びが鈍化して景気は頭打ちの動きを強めている上、今年の経済成長率のゲタは▲0.2ptと昨年(+0.1pt)からマイナスに転じていることを勘案すれば先行きの景気も勢いを欠く推移が続く可能性が高まっている。こうしたなか、中銀はインフレが中銀目標を大きく上回る推移が続いているにも拘らず、昨年12月に3年強ぶりとなる利下げを決定するなど景気下支えに舵を切るとともに(注1)、年明け以降も1月、3月と断続利下げに動いてきた。なお、その後もインフレは頭打ちの動きを強めているものの、直近3月時点においても前年同月比+7.4%と中銀目標(3±1%)の上限を大きく上回る推移が続いている上、足下ではエルニーニョ現象を理由に食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレ圧力が高まるなど、インフレ収束と判断するのは些か早計な状況にある。さらに、足下の国際金融市場においては米国におけるインフレの粘着度の高さがあらためて確認されており、米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営に対する見方が変わるなかで『米ドル一強』とも呼べる動きがみられるとともに、新興国のなかには通貨防衛に向けた利上げや為替介入を迫られる動きがみられる(注2)。こうした状況ながら、同国については実質金利(政策金利-インフレ率)のプラス幅拡大による投資妙味の向上に加え、中東情勢を巡る不透明感の高まりを理由とする国際原油価格の底入れの動きが通貨ペソ相場を下支えする展開が続いており、輸入インフレ圧力が高まりにくい状況にあることが中銀の利下げを後押ししたと捉えられる。なお、会合後に公表した声明文では5人の政策委員がすべて利下げを後押ししており、利下げ幅を巡って3人が50bpとする一方、他2人がそれぞれ100bp、75bpと大幅利下げを提案するなど一段の金融緩和の可能性が探られた模様である。今回の決定について同行のビジャル総裁は「景気下支えに向けた利下げを継続するが、来年半ばまでにインフレを目標に収束させる政策スタンスを維持する」とした上で、「今後の決定はデータ次第で決定される」との考えを改めて強調している。今回の利下げで昨年12月以降の利下げ幅は累計150bpとなるも、実質金利は依然として大幅プラスで推移していることを勘案すれば米ドル高の背後で通貨安に苦しむ新興国と異なる状況が続く可能性は高い。一方、一昨年の大統領選を経て誕生した左派のペトロ政権を巡っては、議会との対立を理由に公約に掲げた保険制度や労働制度、年金制度などの改革は遅々として進まず、政権内や親族によるスキャンダルが相次ぐなど苦境に立たされており、経済のみならず政治の見通しも立ちにくい状況にあることに注意する必要がある。

図1 実質GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移
図1 実質GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

図3 ペソ相場(対ドル)の推移
図3 ペソ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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