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2021.12.03
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OPECプラス、2022年1月も現状維持(日量40万バレルの協調減産縮小)を維持
~原油価格は財政均衡水準を下回る懸念も、米国との衝突回避という「政治的要因」が決定を後押し~
西濵 徹
- 要旨
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- このところの世界経済は新型コロナ禍からの回復の動きに一服感が出ていたが、足下では再び底打ちする動きがみられる。他方、年明け以降OPECプラスは協調減産の段階的縮小に動いたが、世界経済の回復による需給ひっ迫懸念を理由に国際原油価格は上昇傾向を強めた。こうしたことから、米国などは価格抑制に向けて戦略石油備蓄の放出を決定する一方、OPECプラスは慎重姿勢を崩さず対抗措置に動く懸念もあった。しかし、その後はオミクロン株の発見を受けて原油価格は調整の動きを強めるなど環境は一変している。
- なお、OPECプラスはオミクロン株の影響を注視すべく当初予定された閣僚級会合の日程を後ろ倒しした。原油価格の調整により財政均衡水準を下回ったことで増産縮小や停止も選択肢に上った模様だが、最終的には米国との対立激化を避けるという「政治的要因」が後押しして現状維持(日量40万バレルの協調減産縮小)に落ち着いた。次回会合は1月3~4日に開催予定だが、オミクロン株の状況や市場環境如何で前倒しされる可能性もある。原油高は世界経済のリスク要因となってきたが、当面はオミクロン株に焦点が移ろう。
このところの世界経済を巡っては、欧米など主要国を中心にワクチン接種の進展を追い風に経済活動の正常化が進んでいるほか、感染力の強い変異株による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大の中心地となったアジア新興国においても感染拡大が一服して経済活動の再開に舵が切られるなど、景気回復を促す動きがみられた。年明け以降の企業マインドは新興国を中心に弱含む推移が続いたほか、比較的堅調な推移をみせてきた先進国においてもサプライチェーンの目詰まりなど供給要因が重石となる形で頭打ちする動きがみられたものの、上述のような動きを受けて底打ちしている。なお、昨年来の新型コロナ禍による世界経済の未曾有の減速やそれに伴う国際原油価格の低迷を受けて、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど一部の非加盟国の枠組(OPECプラス)は昨年5月から過去最大規模となる協調減産を実施ですること合意した(注1)。しかし、上述のようにその後の世界経済は回復して原油需要の底入れが進み、国際原油価格は底入れしたことで協調減産幅を段階的に縮小させたほか、年明け以降は当初予定通り月次ごとに協調減産幅の縮小を進めた(注2)。一方で、需要の回復拡大が進む一方で協調減産の縮小が小幅に留められたことで需給ひっ迫が意識されるとともに、新型コロナ禍対応を目的とする全世界的な金融緩和を背景に国際金融市場は『カネ余り』の様相を呈するなかで国際原油価格は上昇ペースを強めてきた。こうした事態を受けて、今年7月にOPECプラスの枠内で協調減産縮小に関する意見の隔たりが表面化する動きがみられたものの(注3)、増産を主張したUAE(アラブ首長国連合)への譲歩により枠組は維持された(注4)。さらに、その後の国際金融市場は米FRB(連邦準備制度理事会)の量的緩和政策の縮小が意識されて混乱したほか、国際原油価格に調整圧力が掛かって一時的にUAEの財政均衡水準を下回ったことでOPECプラスの結束が強まる動きに繋がった(注5)。その後の国際原油価格は上昇の動きを一段と強めたことで米国など原油消費国は増産実施に向けて『圧力』を掛ける動きがみられたものの(注6)、OPECプラスは過去の価格上昇局面における米国のシェール・オイルを巡る動きや、世界的な化石燃料関連投資の先細りによる悪影響を懸念して慎重姿勢を崩さなかった(注7)。ただし、足下の世界経済は底打ちが意識されるなど需要拡大期待が強まるなかで国際原油価格は上昇傾向を強めたため、米バイデン政権は日本や英国、中国、インド、韓国と協調して戦略原油備蓄の放出を決定するなど、国際原油価格の上昇に歯止めを掛けるべく『実弾』投入に動いた。これを受けて国際原油価格は頭打ちの動きをみせたものの、上述のようにOPECプラスは慎重姿勢をみせるなかで減産拡大により供給を絞るなど『対抗措置』に動くとの見方も強まるなど、米国などによる実弾の実効性には疑問が残った。こうしたなか、先月末に南アフリカで新たな変異株(オミクロン株)が発見されたことを理由に国際金融市場に動揺が広がるとともに、国際原油価格は大きく下落するなど原油需給を取り巻く状況に不透明感が広がった。
なお、OPECプラスは先月29~30日に来年1月の協調減産枠を協議する共同技術委員会(JTC)及び共同閣僚監視委員会(JMMC)の開催を予定していたものの、オミクロン株の出現による世界的な原油需給及び価格への影響を見定めるべく、開催日を今月1~2日に2日間後ろ倒しする決定を行った。これらの会合に先立つ形で、OPECプラスの枠内で議論を主導するサウジアラビアとロシアはオミクロン株を前提とした早急な対応は必要ないとの考えを示す一方、議長国であるアンゴラは「先行きが不透明な時期には慎重な姿勢を維持し、市場の状況に応じて積極的に行動する準備をしておくことが重要」との慎重姿勢を呈するとともに、「戦略石油備蓄の放出も予定されるなど、需給不均衡を避けるために注視する必要性は高まっている」との考えを示すなど、米国が主導する戦略石油備蓄への対抗策の行方にも注目が集まった。協議内容に基づけば、OPECプラスは原油市場について来年1月に日量200万バレル、2月に日量340万バレル、3月には日量380万バレルの供給過剰になるとの予測が共有されるとともに、オミクロン株を巡ってすでにアフリカと欧州を中心に影響が出ている上、先行きは欧州における悪影響が深刻化する可能性が示された模様である。こうした前提を元に、現行の増産維持(日量40万バレルの協調減産縮小)と増産幅の半減(日量20万バレルの協調減産縮小)、増産休止という選択肢のなかで協議が行われたとされる。なお、先月後半以降における国際原油価格の調整を受けて、サウジアラビアの財政均衡水準(1バレル=82.4ドル)を大きく下回るのみならず、一時的には過去に増産を主張したUAE(同69.0ドル)、クウェート(同65.8ドル)、イラク(同64.2ドル)の財政均衡水準を下回ったことで増産幅の縮小や休止といった選択肢も俎上に載せられたとみられる。ただし、最終的には増産幅の縮小や休止といった判断を行った場合、大幅増産を要求するとともに戦略備蓄放出という実弾投入に動いた米バイデン政権との対立が激化する可能性があり、そうした『政治的要因』が重視されて現状維持(日量40万バレルの協調減産縮小)という現行計画が踏襲された格好である。次回会合は来年1月3~4日の日程で開催されることが示されたものの、市場の状況に応じて予定日に先立つ形で再度会合が開催される可能性が示された。これは、協議のなかでオミクロン株による欧州経済及び原油需給への影響の詳細が今後2週間程度で判明するとの見方が共有されていることがあり、仮にそれに伴って国際原油価格に対する調整圧力が強まれば、一転して慎重姿勢が強まる可能性もある。過去数ヶ月は国際原油価格の高騰が世界経済のリスク要因となってきたものの、足下ではそうした懸念は後退している一方、当面はオミクロン株の行方に左右される展開が続くと予想される。
注1 2020年4月13日付レポート「ロシア、減産再開の一方で新型肺炎の猛威が景気を大きく揺さぶる」
注2 2020年12月4日付レポート「OPECプラス、来年1月から協調減産幅の小幅縮小(日量50万バレル)で合意」
注3 7月6日付レポート「OPECプラス、意見の隔たりが埋まらず閣僚級会合は中止に」
注4 7月19日付レポート「OPECプラス、閣僚級会合の決裂を経て年末までの減産縮小で合意」
注5 9月3日付レポート「OPECプラス、協調減産の段階的縮小を維持、結束が強まる動きも」
注6 10月5日付レポート「OPECプラス、11月も日量40万バレルの協調減産縮小を維持」
注7 11月5日付レポート「OPECプラス、12月も現状維持(日量40万バレルの協調減産縮小)を決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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