インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ペルー大統領3代連続で罷免、米中対立の新たな舞台の行方は

~大統領選へ政治混乱の深刻化に懸念も、選挙結果は米中双方の動向、重要鉱物の供給にも影響か~

西濵 徹

要旨
  • ペルー議会は、2月17日に複数の疑惑を抱えるホセ・ヘリ暫定大統領を賛成多数で罷免した。ヘリ氏は昨年10月のカスティジョ前大統領の罷免に伴い暫定大統領に就任したが、4ヶ月で罷免された。同氏は過去の疑惑に加え、昨年末以降に中国人実業家との密会や不適切な人事など新たな疑惑が浮上し、支持率が急落していた。これによりペルーでは3代連続で大統領が罷免されるなど、政治混乱が深刻化している。

  • ペルーは重要鉱物の主要供給国であり、中国は「一帯一路」を通じて同国への影響力を強めている。一方、米国は中南米での中国の存在感拡大を警戒し、チャンカイ港への中国関与にも懸念を示す。地政学的緊張のなか、ペルーでは政治の不安定化が常態化している。4月の大統領選の行方も見通せず、中南米では右派政権が増えるなか、ペルーの政治動向は世界の重要鉱物市場にも影響を与える可能性がある。

  • 一方、政治的な混乱にもかかわらず、ペルー経済は鉱物価格の堅調さを背景に+3%程度の成長を維持している。インフレは落ち着きを取り戻し、中銀は利下げを進めてきた。通貨ソルも高い実質金利と資源価格の上昇に支えられ堅調に推移しているが、今後は選挙結果が資源政策を変化させることも考えられる一方、引き続き外部環境の影響を受けやすい展開が続くと見込まれる。

ペルーの共和国議会(一院制)は、2月17日にホセ・ヘリ大統領の罷免を求める動議を採決した結果、賛成75票(反対24票、棄権3票)で承認し、同氏の罷免が決定した。ヘリ氏を巡っては、2025年10月に議会がボルアルテ前大統領に対する罷免を決定し、議長であった同氏が今年4月12日に実施予定の大統領選で選出される次期大統領が就任するまでの暫定大統領に指名された(注1)。ヘリ氏は就任時の年齢が38歳と、歴代大統領のうち就任時の年齢が3番目に若かった。しかし、過去にコロナ禍の外出規制の最中の外食、性的暴行容疑(その後に証拠不十分を理由に不起訴)、女性蔑視疑惑、不当利得疑惑、贈収賄疑惑など複数の疑惑が出ていた。ヘリ氏はこれらの疑惑を否定したうえで、贈収賄疑惑について捜査当局に協力する意向を示したものの、国民の間では暫定大統領への昇格に反発が根強かったとされる。さらに、暫定大統領就任後も、ヘリ氏がエネルギー関連企業に関係する中国人実業家と密会して何らかの便宜を図ろうとしたとの疑惑が出た。現地メディアによれば、当該中国人実業家が経営する企業は水力発電所事業を受注したものの、工期が大幅に遅延するなど問題化していると報じられている。また、深夜に大統領府で密会した複数の女性を大統領府や環境省などで不適切に雇用した疑惑も出ていた。ヘリ氏はいずれの疑惑も否定したものの、一連の報道を受けて支持率は一段と低下するとともに、暫定大統領就任からわずか4ヶ月で罷免されることとなった。

ペルーは南米有数の資源国であるうえ、銅や亜鉛、銀のほか、金、錫、ホウ素、モリブデン、そして原油や天然ガスなど世界にとって不可欠な重要鉱物を供給している。中国は近年、外交戦略である「一帯一路」を通じて中南米諸国との関係強化を図るなか、ペルーはその筆頭格のひとつとなってきた。2024年には、一帯一路の一環として中国国有の海運大手企業(中国遠洋運輸集団(COSCO))が6割出資して同国の首都リマ郊外にチャンカイ港を開港するなど、中国と中南米との貿易拠点となる動きは着実に前進してきた。一方、トランプ米政権は国家安全保障戦略(NSS)の重点地域に西半球を掲げる「ドンロー主義」を志向しており、中南米地域における中国の影響力排除を目指しているとされる。米国(国務省)も今月、チャンカイ港への中国の影響力が強まることを懸念する旨を表明するなど関心を強めてきた。同国では、2018年以降に就任した計6人の大統領のうち3人が現在服役中のうえ、3代連続で大統領が罷免されるなど政治の不安定化が深刻化している。議会が疑惑のある大統領を度々罷免してきたことは、議会と大統領の間に強いけん制関係があると捉えられる。しかし、現実には、政府が犯罪や汚職など有権者からの懸念に対処できない一方、議会は不人気な指導者の解任を通じて支持を得る展開が続いており、結果的に短命政権が繰り返される事態に陥っている。4月12日に実施される大統領選と議会選挙まで残すところ2ヶ月を切るなか、政党による泥仕合の様相を強めるとともに、政治の迷走状態が一段と深刻化することも懸念される。世論調査では、2021年の前回大統領選で3位となった右派で前リマ市長のラファエル・ロペス・アリアガ氏がわずかに優位とされるが、前回大統領選では事前調査に反して急進左派カスティジョ氏が勝利したことに鑑みれば、選挙戦の行方は見通しにくい。中南米諸国ではアルゼンチンに続いてボリビア、チリでも右派政権が誕生し、ドミノ倒し的に左派政権が誕生した「ピンクの潮流」に変化の兆しが出ているなか、ペルーの行方は世界的な重要鉱物の需給にも影響を与えるであろう。

一方、政治的には混乱が続いているにもかかわらず、鉱物資源価格が堅調な推移をみせていることがけん引役となって、足元のペルー経済は前年比+3%前後の成長が続いている。コロナ禍以降はインフレが大きく上振れするとともに、中銀は物価と為替の安定を目的とする金融引き締めを迫られたことが景気の足を引っ張った。しかし、2023年以降はインフレが鈍化に転じ、2024年以降は中銀目標の域内で推移するなど落ち着きを取り戻している。中銀は2023年9月にコロナ禍後初の利下げに動き、その後も一時休止を挟みつつ、2025年9月まで断続的な利下げを実施しており、累計の利下げ幅は350bpとなるなど金融緩和を進めてきた。1月のインフレ率は前年比+1.7%、コアインフレ率も同+2.2%と中銀目標(2±1%)の中央値近傍で推移しており、中銀は2月12日に開催した定例会合で政策金利を4.25%に据え置き、先行きも様子見姿勢を維持する可能性は高いと見込まれる。こうしたなか、通貨ソルの対ドル相場は実質金利(政策金利-インフレ率)が高止まりしているうえ、主要輸出財である銅や金の国際価格が高止まりしていることも追い風に堅調に推移している。政治的には不透明な展開が見込まれるうえ、選挙結果によっては資源政策の行方も大きく変化することが考えられるものの、為替相場は引き続き外部環境に左右される状況が続くであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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