OPECプラス、意見の隔たりが埋まらず閣僚級会合は中止に

~世界経済の回復の一方で協調減産は緩和せず、需給のタイト化が相場の上振れ要因となる可能性~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は、主要国で景気回復が進む一方、新興国などで変異株による感染再拡大を受けて景気に冷や水を浴びせる懸念が高まるなど好悪双方の材料が混在する。OPECプラスは過去最大の協調減産に動いたが、年明け以降は世界経済の回復による需要増を受けて段階的な減産縮小に動いてきた。今月までは協調減産は段階的に縮小される一方、主要国を中心とする世界経済の回復による需給のタイト化が国際原油価格を押し上げる動きがみられるなか、来月以降の協調減産の動きに注目が集まってきた。
  • 当初は今月1日に予定されたOPECプラスの閣僚級会合は翌2日にずれ込み、サウジとロシアが来月から年末までの段階的縮小と協調減産の来年末までの継続を求める一方、UAEは協調減産のさらなる縮小を求めるなど意見が対立した。また、継続協議が予定された5日の会合は中止される異例の事態となった。協調減産の枠組は維持されるなか、当面は需要増が進む一方で協調減産が維持されることで需給が一段とタイト化する可能性が高まっている。米国がサウジやUAEなどと協議を行う模様だが妥結に時間を要すると見込まれるなか、国際原油価格の上振れが世界経済、国際金融市場に与える影響に要注意と言える。

足下の世界経済を巡っては、欧米や中国など主要国において新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染収束が進むとともに、ワクチン接種の広がりも追い風に経済活動の正常化の動きが進むなど景気回復を促す流れが強まっている。他方、新興国や一部の先進国では感染力の強い変異株による感染再拡大の動きが広がりをみせており、感染対策を名目に行動制限の再強化に追い込まれる動きがみられ景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。このように、世界経済は主要国の景気回復が世界貿易を押し上げるなど景気回復を促すと期待される一方、変異株に対する脅威は世界的な人の移動の阻害要因となる状況も続いており、好悪双方の材料が混在する展開が続いている。このところの国際金融市場を巡っては、全世界的な金融緩和を追い風に『カネ余り』の様相を一段と強める一方、米国の景気回復は米FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和政策の縮小を促すとの見方も強まるなど、その思惑によって市場が右往左往する展開がみられる。なお、年明け以降の世界経済は主要国を中心とする景気回復の動きが世界的な原油需要を押し上げる一方、昨年にOPEC(石油輸出国機構)加盟国やロシアなど一部の非OPEC加盟国による枠組(OPECプラス)が実施した過去最大規模の協調減産は年明け以降に段階的に縮小に転じるなど(注1 )、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けた対応は大きく変化した。さらに、今年5月以降は主要国を中心に世界経済の回復が一段と進んでいることを理由に協調減産枠が7月まで段階的に縮小されたものの(注2)、枠組のなかではロシアなどの国々が国際原油価格の底入れなどを理由に増産(協調減産枠の縮小)を主張する一方、原油価格の安定を重視するサウジアラビアは協調減産の維持ないし拡大を主張するなど議論が平行線をたどる動きもみられた。なお、5月以降の協調減産枠の段階的縮小決定を巡っては、国際原油価格の急速な上昇による景気への悪影響を懸念した米バイデン政権による『圧力』も影響したとみられる一方、その後の国際原油価格は協調減産の小幅縮小による供給拡大以上に世界経済の回復による需要拡大が進むとの期待を受けて、一段と底入れの動きを強めてきた。国際原油価格が底入れの動きを強めるなかで先月初めのOPECプラスの閣僚級会合では7月に協調減産枠の追加的な縮小が実施されるか否かが注目されたものの、先月18日に実施された世界第8位の産油量を誇るイランの大統領選の結果如何では、イラン核合意の行方やそれに伴う米国によるイランに対する経済制裁の行方に影響を与えるなど、世界的な原油供給が大きく変化することが懸念されたことで最終的に据え置かれた(注3)。なお、イラン大統領選は、事前審査において改革派や穏健派の有力候補が門前払いされたほか、保守派のなかでもイラン核合意を支持する候補も失格とされた結果、保守強硬派のライシ氏が圧勝したことで再構築が進められたイラン核合意を巡る協議の行方は不透明となっている上、米バイデン政権との関係も見通しが立ちにくくなっている。こうしたことから、米国との関係改善による経済制裁の解除を受けたイラン産原油の供給拡大が需給の緩みをもたらす懸念が後退したこともあり、国際原油価格は一段と上値をうかがう展開をみせてきた。

図表
図表

なお、来月以降の協調減産枠については、今月1日のOPECプラスの閣僚級会合によって決定される予定であったものの、事前協議においては世界的な原油需要は年末にかけて持ち直しの動きを強めるとの見方が示される一方、世界的に感染拡大の動きが広がる変異株の動向がリスク要因になるとの見方が共有された。その上で、協調減産幅(7月は日量580万バレル)は8月以降も来年4月にかけて段階的に縮小される方針が共有される一方、来年後半にかけては一転して供給過剰に陥るとの慎重な見方が示されるなど、来年4月以降も協調減産が維持される可能性を示唆する動きがみられた。こうしたことから、事前協議ではこれまでの協議で対立する動きがみられたサウジアラビアとロシアが今年12月にかけて毎月40万バレルずつ協調減産枠を縮小するほか、新たな過剰供給を避ける観点から協調減産の実施を来年末まで延長する提案を行ったとみられる一方、アラブ首長国連邦(UAE)はこの提案を拒否するとともに、協調減産枠の設定の元になっているベースラインの変更(日量316.8万バレル→日量384万バレル)を要求するなど議論のし直しを求めるなど紛糾し、1日に予定された閣僚級会合は延期された。閣僚級会合の開催は翌日(2日)に持ち越されたものの、UAEは引き続きサウジとロシアが主導する議論に反対する姿勢を維持したため『全会一致』を原則とする協議では珍しく、UAEの反対を押し切る形で年末までの協調減産枠の段階的縮小と協調減産そのものの来年末までの延長で合意がなされた。しかし、UAEは最終的に年末までの協調減産枠の段階的縮小に賛成したものの、来年末までの協調減産の延長については受け入れを拒否する姿勢をみせたため、週明けの5日に閣僚級会合の再開による協議継続が模索されたが、UAEとサウジアラビアなどとの隔たりは埋まらず最終的に会合は中止された。なお、昨年のOPECプラスの『瓦解』では協調減産の枠組みが崩れるとともに無秩序な増産の動きが強まることで国際原油価格に調整圧力が掛かる懸念が高まったものの(注4)、現状のOPECプラスは協調減産の必要性について共通認識を有するなど枠組は維持されており、足下では主要国を中心とする世界経済の回復による需要増が期待される一方で協調減産の緩和が進まず、需給が一段とタイト化することが意識されている。上述のように、4月の閣僚級会合の前には米バイデン政権による『圧力』が議論の流れを変えたことを勘案すれば、今後は米国とサウジ及びUAEの間で協議が行われると見込まれるものの、協議が最終合意に至るには時間を要する可能性が高く、当面の国際原油価格は一段の上振れが予想される。足下の国際金融市場においては米ドル高圧力が強まる動きがみられるものの、国際原油価格の上昇を受けていわゆる産油国通貨は底堅い動きをみせる一方、変異株による感染再拡大の動きも相俟って原油輸入国であるアジア新興国通貨などは軒並み調整の動きを強めており、当面はそうした傾向が続く可能性が高い。さらに、今後の世界経済を巡っては国際原油価格が物価動向を通じて景気の行方に影響を与えるリスクにも注意が必要になっていると言えよう。

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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