OPECプラス、閣僚級会合の決裂を経て年末までの減産縮小で合意

~増産を主張したUAEへの譲歩で最終合意、堅調な原油価格による世界経済への影響に要注意~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は、主要国で新型コロナウイルスの感染収束やワクチン接種により景気回復が進む一方、新興国などで感染再拡大を受けた行動制限の再強化など景気に冷や水を浴びせる動きもみられ、好悪の材料が混在する。昨年の世界経済の減速を受けてOPECプラスは過去最大の協調減産を実施したが、年明け以降は段階的に縮小されてきた。ただし、今月初めに開催予定の閣僚級会合は事前協議で枠組内での意見集約が図られず、結果的に会合が中止に追い込まれるなど枠組の瓦解が懸念される事態となった。
  • 国際原油価格は様々な思惑が影響して不安定な動きが続いた。協議は難航が予想されたが、8月から年末まで毎月日量40万バレルずつ段階的な減産縮小、協調減産の来年末までの延長で合意する一方、来年5月以降の事実上の増産容認により来年9月頃の協調減産終了を目指すなど増産を主張したUAEへの譲歩により最終合意に至った。当面の原油価格は世界経済の回復が進む一方、協調減産は小幅縮小に留まるなど堅調な推移が見込まれ、新型コロナ禍からの回復が進む世界経済への影響に要注意と言える。

足下の世界経済を巡っては、欧米や中国など主要国において新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染一服に加え、ワクチン接種の拡大を追い風に経済活動の正常化が進むなど景気回復を促す動きが広がる一方、アジアを中心とする新興国や一部の先進国では感染力の強い変異株による感染再拡大に伴い行動制限が再強化されるなど景気に冷や水を浴びせる動きもみられるなど、好悪双方の材料が混在している。ただし、全世界的な金融緩和を背景に『カネ余り』の様相を一段と強める国際金融市場は、主要国を中心とする景気回復の動きを材料に活況を呈する展開が続いており、国際金融市場の活況を追い風に主要国経済の回復が促されるとの期待に繋がってきた。こうしたなか、昨年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う世界経済の減速を受けて、OPEC(石油輸出国機構)加盟国やロシアなど一部の非OPEC加盟国による枠組(OPECプラス)は過去最大規模の協調減産をしたものの、世界経済の回復を理由に年明け以降は協調減産枠を段階的に縮小させてきた(注1)。さらに、今年5月から7月までは協調減産枠を一段と縮小させたものの(注2)、世界経済の回復に伴う需要拡大が進む一方で協調減産の段階的な縮小は小幅に留まったことで原油需給のタイト化が意識され、国際原油価格は底入れの動きを強める展開をみせてきた。国際原油価格の急激な上昇は新型コロナ禍からの回復が進む世界経済にとって新たなリスク要因となることが懸念される一方、枠組の間には先行きの世界経済に対する見方の違いを理由に協調減産の在り方を巡る対立が生じたため、7月までの協調減産枠の段階的縮小を維持しつつ、8月以降の協調減産に関する協議は今月初めまで持ち越された(注3)。なお、今月初めに開催が予定されたOPECプラスの閣僚級協議は事前協議がまとまらず、開催そのものが後ずれするとともに、OPECプラスにおいては抜け駆けの回避を通じた協調減産の円滑な実現を重視する観点から『全会一致』による合意を原則としてきたため、一旦は反対意見を押し切る形で今年末までの協調減産枠の段階的縮小に加え、協調減産そのものの来年末までの延長を決定したものの、全会一致の実現に向けた継続協議が模索された。しかし、その後に予定された閣僚級会合は最終的に中止に追い込まれるなど(注4)、OPECプラスの枠組は再び瓦解することが懸念された。事前協議では、過去の協議において対立する動きがみられたサウジアラビアとロシアが今年末まで毎月40万バレルずつの協調減産枠の縮小に加え、新たな供給過剰を避けるべく協調減産そのものを来年末まで延長する提案を行う一方、アラブ首長国連邦(UAE)は協調減産枠設定のベースラインの変更による事実上の増産を求めたほか、協調減産を当初想定された来年4月までに維持する考えをみせた結果、対立が激化するとともに議論が決裂する事態となった。

閣僚級会議の中止を受けて、国際金融市場においては、協調減産枠が維持されるなかで世界経済の回復による需要拡大が進むことで需給がひっ迫するとの見方の一方、OPECプラスの国々が協調減産の枠組そのものを無視して増産に動いて需給が大きく緩むとの見方も出るなど、こうした思惑が影響して国際原油価格は不安定な値動きをみせた。こうした背景には、閣僚級会議の中止後に実施された協議が難航するなど長期化することが懸念されたことが影響したとみられるほか、足下ではアジア新興国を中心に変異株による感染再拡大の動きが広がりをみせるなど、世界経済に対する不透明要因が再燃したことも影響したと考えられる。こうしたなか、OPECプラスは18日に開催したオンライン閣僚級会議において、8月以降の協調減産枠を今年末まで月40万バレルずつ段階的に縮小するとともに、来年4月末までとされた協調減産の期限も来年末まで延長することで最終合意に至った。これにより今年末時点におけるOPECプラスによる協調減産枠は日量380万バレルまで縮小するとともに、世界的な原油需要の動向如何では協調減産枠を一段と段階的に縮小して来年9月頃までに協調減産を終了することを目指すなど、早期の協調減産の終了を求めたUAEの主張に一定の譲歩を図ったことで対立収束が図られた。さらに、来年5月以降における新たな生産枠の割り当てを巡っても一部の国を対象に見直しを行うことで合意しており、UAEについてはベースラインの生産量は現行の日量316.8万バレルから同350万バレルに(元々UAEは日量384万バレルを主張)、サウジアラビアとロシアについても現行の同1100万バレルから同1150万バレルに引き上げられるなど、事実上増産が容認される格好となった。また、これら以外の国では、イラクとクウェートについてもベースラインの生産量の見直しが行われるほか、ナイジェリアやアルジェリアについても見直しが行われる可能性が示唆されるなど、多くの国で増産に向けた動きが広がることが期待される。他方、先月に実施された大統領選において保守強硬派のライシ氏が勝利したため、核合意を巡る協議の行方が不透明となるなど原油供給の行方も見通しにくいイランを巡っては、仮に合意がまとまり原油供給が再開される場合には協調減産枠が再調整される可能性が示唆されるなど慎重姿勢は維持された。当面の国際原油価格を巡っては、引き続き世界経済の回復期待が強まる一方、OPECプラスによる協調減産の縮小は小幅に留まるなど慎重姿勢が維持されていること、さらに、過去の国際原油価格の上昇局面では米国のシェールオイルの増産圧力が強まり世界的な需給の『かく乱要因』となってきたものの、環境政策を重視する米バイデン政権下では増産が進んでいない状況を勘案すれば、需給がタイト化しやすい展開が続くことで堅調な推移が見込まれる。上述のように、新型コロナ禍からの回復の動きを強める世界経済にとって国際原油価格の急激な上昇は新たなリスク要因となることが見込まれる一方、OPECプラスの枠内では変異株による感染再拡大に伴う世界経済への悪影響を慎重にみる向きもみられるなか、急激な増産に動く可能性は低いことを勘案すれば、原油高による影響を冷静に見定める必要に迫られる展開が続くであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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