OPECプラス、協調減産の段階的縮小を維持、結束が強まる動きも

~前回会合後の原油市況の調整を受けて、OPECプラス内の結束は強まったとみられる~

西濵 徹

要旨
  • このところの世界経済は、主要国を中心に新型コロナ禍の克服が進む一方、新興国などで変異株による感染再拡大の動きが広がるなど好悪双方の材料が混在する。さらに、国際金融市場は米FRBのテーパリングによる「カネ余り」の縮小など環境変化が見込まれる。OPECプラスは7月の閣僚級会合が一旦中止されるもその後は段階的縮小で合意する一方、世界経済を巡る不透明感が強まるなど需要への影響が懸念されるなか、このところの国際原油価格は上下に大きく振れるなかで閣僚級会合の行方に注目が集まってきた。
  • 閣僚級会合では今年の需要見通しを据え置く一方、米国の「圧力」が影響して来年の需要見通しは上方修正された。他方、前回会合以降の原油価格が不安定な動きとなるなか、現行の段階的縮小(毎月日量40万バレル)を維持した。前回会合前にはOPECプラス内で意見集約が困難になる動きがみられたが、このところの原油価格の調整の動きは結束を強めることに作用したとみられる。ただし、当面の国際原油価格は世界経済を巡る不透明感、国際金融市場を取り巻く環境変化も相俟って不安定な展開が続くと予想される。

このところの世界経済を巡っては、欧米など主要国を中心に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染一服やワクチン接種を追い風に経済活動の正常化が進んで景気の底入れが促される展開が続く一方、ワクチン接種が遅れる新興国や一部の先進国などで感染力の強い変異株による感染再拡大の動きが広がり、行動制限が再強化されるなど景気に冷や水を浴びせる動きが出ており、好悪双方の材料が混在している。さらに、足下では変異株による感染拡大を受けた行動制限の影響により新興国の企業マインドに急速に下押し圧力が掛かるとともに、景気減速が意識される水準となっているほか、変異株による感染再拡大の動きが主要先進国にも忍び寄るなかで先進国の企業マインドに下押し圧力が掛かるなど、幅広い国で景気の頭打ちが意識される動きがみられる。他方、新型コロナ禍を経て全世界的な金融緩和の動きが広がったことで、国際金融市場は『カネ余り』の状況が続いてきたものの、米FRB(連邦準備制度理事会)は年内にも量的緩和政策の終了に動く可能性が高まっているほか、一部の国ではすでに金融引き締めに舵を切る流れも生まれるなど、金融市場を取り巻く環境は変化しつつある。昨年、OPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアなど非加盟国による枠組(OPECプラス)は新型コロナ禍を経た世界的な原油需要の減少への対応を目的に過去最大規模の協調減産に動いたものの、昨年後半以降は世界経済の回復による需要増が進んだほか、それに伴い国際原油価格が底入れしたことを受けて協調減産枠を段階的に縮小させる対応をみせてきた。ただし、このところは上述のように世界経済を取り巻く状況に不透明感が高まる一方、OPECプラスは7月初めに開催予定の閣僚級会合を前に、枠内での協調減産を巡る意見対立が解消出来ず、一旦は閣僚級会合そのものが中止される事態となった(注1)。なお、その後の再協議を経て、8月から年末までを対象に段階的な減産縮小とともに、協調減産の枠組そのものは来年末まで延長しつつ実質的に来年9月頃に協調減産の終了を目指すというスケジュールで合意に至った(注2)。他方、上述のように新興国を中心に減速が意識されているほか、先進国景気も頭打ちの様相をみせるなど世界経済の先行きに対する警戒感が強まるなか、国際金融市場を巡る環境変化も重なり底入れの動きを強めてきた国際原油価格も一転して頭打ちするなど、OPECプラスによる協調減産の動きに影響を与えるかに注目が集まった。

図表
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先月末に開催されたOPECプラスの合同専門委員会(JTC)においては、今年の世界原油需要について日量595万バレル増加とする従来見通しを維持する一方、来年については日量328万バレル増加との従来見通しから同420万バレル増加に上方修正された模様である。この見通しに基づく需要動向に対して現行の協調減産が実施された場合、年内いっぱいは引き続き日量90万バレル程度の供給不足が続くと見込まれるものの、来年以降は供給拡大を受けて日量160万バレル程度の供給過剰に転じると考えられる(来年の増加が日量328万バレルに留まれば供給過剰は日量250万バレル)。また、これによりOECD(経済協力開発機構)加盟国による商業用石油在庫については、2022年5月までは2015~19年の平均値を下回る水準に留まると見通されるなど、従来見通し(2022年1月)から後ろ倒しされる。なお、来年の需要見通しが上方修正された背景には、サウジアラビアをはじめとするOPECプラスの国々が価格安定を重視する一方、米国などは世界経済の下支えを名目に増産を求めて『圧力』を掛けてきたことも影響したと考えられる。この見通しを前提に1日に開催されたOPECプラスの閣僚級会合では、当面は7月の前回会合で決定された協調減産の段階的縮小(月ごとに日量40万バレルずつ縮小)の合意を維持することを決定した。なお、次回の閣僚級会合は10月4日に開催予定であり、今回の決定に基づけば10月についても9月に続いて日量40万バレル規模の協調減産枠の縮小が実施されることとなる。会合後に公表された声明文では「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による影響は引き続き不透明であるものの、市場のファンダメンタルズは力強く、景気回復が加速するなかでOECD加盟国の原油在庫は継続的に減少している」として、現行の協調減産の小幅縮小による価格安定を重視する姿勢がOPECプラス内で共有されていると判断出来る。こうした背景には、7月の前回会合が中止に追い込まれるなど枠組の瓦解が懸念された際に国際原油価格が大きく調整したほか、その後も世界経済の減速懸念を理由に頭打ちするなど、多くの産油国にとって財政及び対外収支の行方に悪影響を与える動きが顕在化したことも影響している。なお、IMF(国際通貨基金)の推計に基づけば、今年の原油価格の財政均衡水準はサウジアラビアが76.2ドル/バレル、イラクが71.3ドル/バレルと足下の水準を上回る一方、これまで増産を主張してきたUAE(アラブ首長国連邦)も64.6ドル/バレルと先月の調整により一時下回る水準となったことも、OPECプラスの結束を強めたと考えられる。足下の国際原油価格はOPECプラスの結束が確認されたことで安定した動きをみせているが、世界経済そのものの不透明感が高まっているほか、国際金融市場を取り巻く環境の変化も予想されるなかで、しばらくは不安定な展開が続く可能性に留意が必要である。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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