中国・習近平政権3期目は「側近だらけ」、党大会閉幕で経済指標も一気に公表

~「習近平氏の習近平氏による習近平氏のため」の党大会、統計への疑念は拭えない状況に~

西濵 徹

要旨
  • 中国では今月16日から22日までの日程で共産党大会が開催された。ここ数年は習近平氏への権力集中が進むなかで習近平指導部の3期目入りは既定路線となる一方、党規約の改正のほか、人事を巡る慣例が破られるなかで政権3期目がどのような形でスタートが切られるか、国内外から注目が集まってきた。
  • 党大会初日に公表された活動報告では、今後の政策運営の柱に「中国式現代化」が据えられ、中長期的な目標が示されるなど習近平政権の長期化を見据えた動きがみられた。党規約改正では習近平氏の個人崇拝化に繋がる動きは抑えられる一方、台湾統一に加え、強軍思想を具現化することを目的とする方針が盛り込まれた。他方、人事面では李克強氏、汪洋氏、胡春華氏など共青団出身者が排除され、習近平氏の「子飼い」が重用される格好となった。世代交代も読めず習氏による長期政権を前提にしたものと捉えられる。
  • 党大会を理由に公表が延期された経済指標は、党大会閉幕を受けて24日に一気に公表された。7-9月の実質GDP成長率は前年比+3.9%、前期比年率+16.5%と景気の底入れが確認された。世界経済の減速懸念にも拘らず外需が底堅く推移し、インフラなど公共投資の進捗が景気を下支えする一方、当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥は家計消費や不動産投資の足かせとなる状況が続く。党大会では公的部門が幅広い経済活動に関与する方針が示されたが、現時点においてもすでに国進民退色が強まっていると捉えられる。
  • 習近平氏は1中全会後に党大会でほとんど触れなかった改革開放を強調する考えをみせたが、政権3期目では改革派官僚が姿を消す予定であり、経済政策面では統制色が強まることも予想される。人口減少による潜在成長率の低下も予想されるなか、中国経済が世界経済のリスク要因となる可能性は高まっている。

中国では、今月16日から22日までの日程で5年に一度の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)が開催された。党最高指導部(党中央政治局常務委員)人事を巡っては、鄧小平氏による改革開放路線に舵が切られて以降は2期ごとに交代することが慣例となっており、そうした前例に倣えば2012年に発足した習近平指導部は今回の党大会を以って交代することとなる。さらに、党最高指導部人事には『七上八下(67歳以下は留任、68歳以上は退任)』という慣例もあり、習近平氏は今年6月に69歳となったことを勘案すれば、前例に倣えば今回の党大会を以って退任することとなる。しかし、この10年のうちに様々な形で習近平氏への権力集中が進められており、政権1期目の残りの任期が1年となった6中全会(第18期中央委員会第6回全体会議)で習近平氏を党の「核心」とする方針が示され、政権1期目を締め括る7中全会(第18期中央委員会第7回全体会議)においてもそうした姿勢が大きく後押しされた(注1)。さらに、前回党大会(中国共産党第19回全国代表大会)では党規約が改正され、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」という現職の指導者として自らの名を冠する思想体系を行動指針に盛り込んだ(注2)。また、翌年の全人代(第13期全国人民代表大会第1期全体会議)では憲法改正を行い、国家主席と副主席の任期規定(連続での3選禁止)を廃止して、習氏は国家主席として3期目入りのみならず『終身化』を図ることも可能となった(注3)。そして、政権2期目の残りの任期が1年となった昨年11月の6中全会(第19期中央委員会第6回全体会議)では「歴史決議」を採択するとともに、そのなかに習氏に関する「二つの擁護(党中央・全党の核心としての地位、党中央の権威と集中的・統一的指導の断固とした擁護)」と「二つの確立(党中央・全党の核心としての地位、その政治的思想の指導的地位の確立)」を明記するなど、党及び国家のかじ取りをすべて習氏に託すことが示された(注4)。今月に開催された政権2期目を締め括る7中全会(第19期中央委員会第7回全体会議)では上述した二つの擁護と二つの確立を盛り込む方向での党規約の改正が討議されるなど、習氏を中心とする党の団結を支持するとともに、習氏による路線に従うことを求めることが改めて強調された(注5)。よって、今回の共産党大会を経て習近平指導部は異例となる3期目入りを果たすことは既定路線とみられたほか、習氏以外の最高指導部人事についても様々な『慣例破り』が行われる可能性は高いと見込まれた。

共産党大会の初日に示された活動報告においては、過去10年の習近平指導部の下での政権運営について自画自賛のオンパレードとなる総括がなされた。さらに、先行きの政権運営については、党及び政府があらゆる経済活動に積極的に関与する「中国式現代化」を推進することにより、あらゆる面で統制色の強い発展を目指す方針が示された。その上で、2035年を目途に「社会主義現代化」のほぼ実現、並びに2050年を目途に「社会主義現代化強国」の実現を目指すという中長期的な目標を掲げるなど、習近平政権の長期化を示唆する内容も示された(注6)。なお、党大会の最終日に採択された党規約の改正案では、「台独(台湾独立)に断固として反対し抑え込む」とする文言のほか、その実現を念頭に「科技強軍(科学技術力を有する強力な軍隊)、世界一流の軍隊を建設する」といった文言が盛り込まれるなど、活動報告同様に安全保障を前面に打ち出す姿勢が示された。他方、事前に予想された「二つの確立」については深く理解することを要求するも党規約に盛り込むことはなされず、習近平氏の地位(「党主席」の復活、「領袖」の呼称)についても実現されなかった。また、党大会後の党中枢人事を担う中央委員(205人)の名簿に李克強氏(67歳:国務院総理)及び汪洋氏(67歳:人民政治協商会議主席)の両氏がなく、七上八下に抵触しない両氏が党最高指導部から外れることとなった。なお、両氏は共産党の若手エリート養成機関である共産党青年団(共青団)出身で習近平指導部のなかでは習氏と距離があるとされる一方、年齢の面で問題がないことから、事前にはそれなりの処遇を受けるとみられたなかで『サプライズ人事』となった。さらに、23日に開催された1中全会(第20期中央委員会第1回全体会議)で明らかになった最高指導部の中央政治局常務委員人事では、江沢民氏、胡錦濤氏、習近平氏と3代に亘って政治思想及び内政・外交のブレーンとして仕えた王滬寧氏が中立派として残る一方、習近平氏を除く5人はいずれも『習近平派』が占める。また、常務委員は習氏の側近だらけとなる一方で5年後にはほぼ全員が七上八下に抵触するなど次世代の『ポスト習』は見当たらず、最も若い丁薛祥氏も地方政府のトップを担った経歴が無いなど実務者を超える形での職務経験は乏しく、世代交代を全く考えていないと捉えられる。さらに、中央政治局員人事を巡っては、10年前から政治局員に名を連ねた胡春華氏(59歳:国務院副総理)が外れる事実上の『降格』となった。胡春華氏も李克強氏、汪洋氏と同じ共青団出身で両氏同様に習氏と距離があるとされる一方、習氏の次を担う『第6世代』の筆頭格のひとりとして早くから注目を集めてきたものの、習近平指導部3期目では完全に中枢を外れる結果となり、来春の全人代では国務院副総理職を外れる可能性も高まっている。そして、同時に明らかになった中央軍事委員会人事も副主席に張又侠氏(72歳)が留任する異例の内容となったほか、台湾有事や対米戦略への対応に加え、習氏の側近も登用されるなど習近平政権が重視する『強軍思想』を具現化する方向性が強まると見込まれる。中央規律検査委員会人事でも書記に李希が就任し、李氏は習氏と直接的な関係は薄いながら実績面で習氏への忠心を示してきたことが登用に繋がってきたなか、習近平指導部の下で進められた『反腐敗運動』が推進されるとみられる。その意味では、今回の党大会は前回以上に『習近平氏の習近平氏による習近平氏のための』共産党大会の色合いが強まったと判断出来る。

図表1
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なお、党大会の最中である18日に予定された7-9月のGDP統計や9月の経済指標のほか、その前の14日には9月の貿易統計の公表が突如見送られるなど、通常の国では『あり得ない』対応が採られたものの、党大会が終了し、習近平指導部3期目の陣容が決まった直後の24日に一斉に公表された。7-9月の実質GDP成長率は+3.9%と前期(同+0.4%)から伸びが加速し、前期比年率ベースでも+16.5%と前期(同▲10.4%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じたと試算されるなど、最大都市である上海市でのコロナ禍再燃を受けたロックダウン(都市封鎖)実施などで下振れした前期から回復が進んだとしている。ただし、月次の企業マインドを巡る統計の動きは、上海市などでのロックダウンの解除後も当局の『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が幅広い経済活動の足かせとなり頭打ちの様相を強めていることを勘案すれば、足下の状況は悪化の度合いを強めている可能性が考えられる(注7)。ただし、9月の鉱工業生産は前年比+6.3%と前月(同+4.2%)から伸びが加速しており、前月比も+0.84%と前月(同+0.35%)から拡大ペースが加速するなど、生産活動は底入れの動きを強めていることが確認されている。補助金や減税などによる需要喚起策を受けた自動車販売の拡大の動きを反映して自動車の生産は底入れが続いているほか、インフラ関連など投資拡充による景気下支えの進捗を反映して鉄鋼や非鉄金属関連、セメント、板ガラスなどの生産が底入れの動きを強めていることも影響している。一方、米中摩擦や世界経済の減速懸念の高まり、サプライチェーンの混乱などが重石となる形で半導体やマイコンの生産は弱含む推移が続いているほか、スマートフォンなどの生産も前年割れの推移が続くなど外需関連の生産活動は弱含んでいる。また、家計消費の動向を示す9月の小売売上高(社会消費支出)は名目ベースでは前年比+2.5%と前月(同+5.4%)から伸びが鈍化しているものの、前月比は+0.43%と前月(同▲0.05%)から2ヶ月ぶりの拡大に転じるなど底打ちしているようにみえる。ただし、9月は生活必需品を中心にインフレが顕在化する動きがみられるなか、実質ベースでは前年比▲0.7%と前月(同+2.3%)から2ヶ月ぶりに前年を下回る伸びに転じたと試算されるなど頭打ちの様相を強めていると捉えられる。補助金や減税などを通じた需要喚起策を反映して自動車販売は堅調な推移が続く一方、当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥を反映して外食関連支出が大きく下振れしているほか、雇用回復の遅れが家計部門の財布の紐を固くするなかで幅広く日用品に対する需要が低迷している上、不動産需要の低迷が耐久消費財の重石となるなど、家計消費を取り巻く状況は厳しい。このように家計消費は弱含んでいるにも拘らず生産活動が堅調な推移をみせている背景には、9月の輸出額(米ドルベース)が前年比+5.7%と前月(同+7.1%)から伸びが鈍化するも、当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比は3ヶ月ぶりの拡大に転じるなど、欧米など主要国景気に不透明感が高まるなかでも底堅い動きが続いていることが影響していると捉えられる。一方、9月の輸入額(米ドルベース)は前年比+0.3%と前月(同+0.3%)と同じ伸びで推移するも輸出額と比較して勢いの乏しい推移が続いている。前月比も2ヶ月ぶりの減少に転じるなど弱含む展開が続いている。家計消費など内需の弱さに加え、ロシア産原油を割引価格で大量に輸入する動きをみせているほか、世界経済の減速懸念の高まりを受けた商品市況の調整の動きも輸入額を下押ししているとみられる。他方、インフラ投資や不動産投資の動向を示す9月の固定資産投資は年初来前年比+5.9%と前月(同+5.8%)からわずかに伸びが加速しており、単月ベースで試算した前月比は+6.5%と前月(同+6.4%)からわずかに伸びが加速するなど底入れの動きを強めている様子がうかがえる。うち不動産投資については年初来前年比▲8.0%と前月(同▲7.4%)からマイナス幅が拡大しており、単月ベースの前月比も▲11.9%と前月(同▲10.8%)からマイナス幅が拡大するなど一段と弱含む展開が続いている。ただし、固定資産投資の前月比は+0.53%と前月(同+0.39%)から拡大ペースが加速しており、不動産投資や民間投資は弱含む展開が続く一方でインフラ関連などの公共投資や国有企業による投資活動が投資全体を押し上げていると捉えられる。上述のように党大会では『中国式現代化』が経済運営の柱になるとの考えを示したものの、足下の状況はすでに国進民退色の強い展開が続いているものの、今後も公的部門の存在感が一段と高まる展開となることは避けられない。

図表2
図表2

図表3
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図表4
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図表5
図表5

図表6
図表6

図表7
図表7

1中全会後の記者会見において、習近平氏は足下の経済動向について「中国経済は強靭であり、潜在力も充分であり、政策の選択肢も多く、長期的にみてもファンダメンタルズは変わらない」とした上で、「改革開放の扉は益々広がり、今後も改革開放を全面的に深化して質の高い発展を推進する」と述べるなど、党大会においてほとんど言及がなかった改革開放に触れる動きをみせた。ただし、現実的にはコロナ禍を経て人口減少局面入りが前倒しされるなど潜在成長率の低下が避けられず、不動産に対する需要低下が見込まれる一方、同国経済の成長は不動産投資に依存するなど極めて歪な状況にあるなかで構造転換が進むかは極めて覚束ない。こうした状況にも拘らず、景気下支えの軸足が依然としてインフラ建設支援が中心であることは、構造問題を温存し続けるとともに将来的な問題解決をこれまで以上に困難なものにすることも考えられる。とはいえ、習近平政権3期目の最高指導部には習氏を諫める存在は居らず、習氏の『子飼い』だらけとなることで結果的に習氏の意向のみが政策に反映される状況がこれまで以上に進むことは避けられない。経済政策面では、改革派官僚とされる易鋼氏(64歳:中国人民銀行総裁)や郭樹清氏(66歳:中国銀行保険監督管理委員会主席、中国人民銀行党委主席)が中央委員及び中央委員候補から外れており、習近平政権3期目の運営を離れることは必至とみられる。一方、最高指導部入りした李強氏(63歳:上海市党委書記)や中央政治局員入りした何立峰氏(67歳:国家発展改革委員会主任)が代わりに習近平政権3期目の経済政策を担うとみられるが、李氏は上海市のロックダウンを巡って政策運営に疑問符が付いているほか、何氏もその手腕が未知数のなかで如何なる方策が採られるかは見通せない。市場経済の後退を示唆する『人民経済』という言葉に注目が集まる動きもみられるなど、高い経済成長の実現を後押しした改革開放路線は掛け声とは裏腹に逆行の度合いを強めることも考えられる。2000年代以降の世界経済は中国経済の高い成長におんぶに抱っことなることでその成長を享受することが出来たものの、今後はそうした構図が完全にリスク要因となる可能性に注意が必要と言える。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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