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2022.10.14
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中国、党大会間近も景気の不透明感は一段と高まる展開が続く
~「異質性」がこれまで以上に高まるなか、中国経済が世界経済のリスク要因となる可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国では、16日に開幕する共産党大会を前に7中全会が開催され、習近平指導部の3期目入りが既定路線となっている。コミュニケに拠れば、党規約改正を通じて習氏への忠誠が義務化されるとともに、仮に異論を唱えれば「重大な規律違反」を理由に処罰される可能性が高まる。党内宥和に一定の配慮が示されたが、「共産党=習氏」の図式が一層強まるとともに、中国の異質性がこれまで以上に強まることは避けられない。
- 中国当局の「ゼロ・コロナ」戦略への拘泥に加え、世界的なインフレによる米FRBなどのタカ派傾斜も世界経済の足かせとなる動きがみられる。商品高は中国でも企業部門を中心にインフレ圧力を招く一方、世界経済の減速懸念を受けて商品市況は頭打ちしており、9月の生産者物価は調達価格が前年比+2.6%、出荷価格も同+0.9%に鈍化している。ただし、当局による事実上の価格転嫁禁止が影響して調達価格の調整が出荷価格に反映されにくいが、価格競争の激化を受けて財価格に下押し圧力が掛かりやすい状況にある。
- 川下の9月の消費者物価は食料品価格の上昇を受けて前年比+2.8%に加速する一方、コアインフレ率は同+0.6%に鈍化する対象的な動きをみせる。雇用回復の遅れがサービス物価の重石となっている上、不動産市況の低迷も物価の足かせとなるなど、家計のみならず、不動産関連や銀行セクターを取り巻く状況は厳しさを増している。当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなる展開が続くことは避けられない。
- 中銀は従来からの姿勢による景気下支えを図る考えを強調するが、インフラ頼みは限界が近付いている上、人口減少局面入りするなかでの投資依存構造は問題が多い。ただし、政策面で異論を差し挟むことが困難になるとみられるなか、中国経済の行方が世界経済のリスク要因となる可能性は高まっていると考えられる。
中国では、16日に開幕する共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)を前に7中全会(第19期中央委員会第7回全体会議)が開催され、習近平指導部の3期目入りを前提にした党規約の改正案などが討議された(注1)。7中全会後に公表されたコミュニケでは、昨年11月の6中全会(第19期中央委員会第6回全体会議)にて採択された『歴史協議』で示された『二つの確立(習近平氏の党中央・全党の核心としての地位の確立と、その政治思想の指導的地位の確立)』を巡って「全党は二つの確立の決定の意義を深く理解する必要がある」とするとともに、『二つの擁護(習近平氏の党中央・全党の核心としての地位の擁護と、党中央の権威と集中的・統一的指導の擁護)』を巡って「二つの擁護を達成する必要がある」とされた。これは、党内全体に習近平氏への絶対的な忠誠を誓わせるとともに、習氏を核心とする党中央の権威の順守を求めることとなり、党規約にこれらの言葉が盛り込まれることは、仮に習氏の考えや方針に公然と異を唱えた場合には『重大な規律違反』を理由に処罰することが可能になることを意味する。さらに、コミュニケでは『四つの意識(政治、大局、党の核心、党の団結への意識)』を巡って「強化する必要がある」、『四つの自信(習近平の中国の新時代の特色ある社会主義、党の理論、制度、文化への自信)』を巡って「強固にする必要がある」とするなど、改めて強調された格好である。なお、これらの言葉はすでに党規約に盛り込まれているものの、改めて強調したことで習氏を中心とする党の団結を支持するとともに、習氏による路線に従うことを求めていると捉えられる。その意味では、習近平指導部の3期目についてはこれまで以上に習近平氏への権限が集中していく流れが進むと考えられる。他方、事前には『習近平思想』への名称変更のほか、台湾問題を巡る表現振り、そして最高指導部トップ(党主席)の扱いなどに注目が集まったものの、これらについてコミュニケでは従来の表現振りが踏襲されるとともに、党主席については触れられず穏便に事を済ませることで事態収拾を図った可能性が考えられる。さらに、党の思想を巡っても「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、『三つの代表』重要思想、科学的発展観を堅持し、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に貫く」と歴代の思想体系を列記するなど、習近平氏への個人崇拝を警戒する長老などに配慮する動きもみられるなど、党内宥和を第一に据えたものと考えられる。とはいえ、一連の決定は党大会を経て3期目入りが規定路線となる習近平指導部の下では『習近平氏=中国共産党』となることを意味しており、これまで以上に異論を排除することにより如何なる形でも共産党体制の護持を図る姿勢を強めることは間違いないと捉えられる。
なお、このところの中国経済を巡っては習近平指導部による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が幅広い経済活動の足かせとなっており、ここ数年の世界経済は中国経済の成長に大きく依存する展開が続いてきたなかで世界経済にとってのリスク要因のひとつとなっている。また、ウクライナ情勢の悪化による供給不安を理由に幅広い商品市況は上振れして世界的に食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招くなか、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、欧米など主要国においても物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。さらに、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜は世界的なマネーフローに影響を与えている上、米ドル高は新興国などからの資金流出を招いており、中国においても資金流出を反映して人民元相場への調整圧力が強まる事態に直面している。商品高によるインフレの動きは中国においても企業部門を中心とする物価上昇を招き、人民元安による輸入物価の押し上げも一段のインフレ昂進に繋がる懸念があるものの、ゼロ・コロナ戦略が景気の足を引っ張る展開が続くなかで中銀(中国人民銀行)は預金準備率の引き下げに加え、5月(注2)と8月(注3)に利下げを実施しており、金融政策の方向性の違いが一段の資金流出を招いているとみられる。他方、世界経済の減速懸念が強まるなかで上振れした商品市況はここ数ヶ月に亘って頭打ちに転じており、この動きを反映して企業部門のインフレ圧力は後退するなか、9月の生産者物価(調達価格)は前年同月比+2.6%と前月(同+4.2%)から一段と伸びが鈍化しているほか、前月比も▲0.5%と前月(同▲1.4%)からペースこそ縮小するも3ヶ月連続で下落している。原油の国際価格が調整の動きを強めていることに加え、割引価格によるロシア産原油や石炭などの輸入拡大に動いていることも重なり(注4)、エネルギー関連を中心とする資源など原材料価格を中心に下押し圧力が掛かっていることが影響している。このように調達価格に下押し圧力が掛かっていることを反映して、9月の生産者物価(出荷価格)も前年同月比+0.9%と前月(同+2.3%)から一段と鈍化して20ヶ月ぶりの伸びとなるとともに、前月比も▲0.1%と前月(同▲1.2%)から3ヶ月連続で下落するなど、川中及び川下段階に向けてインフレ圧力が後退している様子がうかがえる。ただし、調達価格の下落幅に対して出荷価格の下落幅は小さい展開が続いており、この背景には商品市況の上振れによるインフレ懸念が高まったことを受けて、当局は消費者物価への影響を懸念して企業部門に対して商品価格への転嫁を事実上禁止したことが影響している。結果、足下では原材料価格に下押し圧力が掛かっているにも拘らず、製品価格に反映される度合いが弱い一因となっていると考えられる。さらに、ゼロ・コロナ戦略への拘泥による雇用回復の遅れは家計消費の足かせとなる展開が続いている上、近年のEC(電子商取引)の普及拡大も追い風に価格競争が激化していることも価格転嫁を困難にしているとみられる。
上述のように、川上の段階では物価上昇圧力が後退する動きがみられるものの、川下の段階に当たる9月の消費者物価は前年同月比+2.8%と政府が今春の全人代で掲げたインフレ目標(3%前後)を下回る推移が続いているものの、前月(同+2.5%)から加速して2020年4月以来となる高い伸びとなっている。前月比も+0.3%と前月(同▲0.1%)から2ヶ月ぶりの上昇に転じており、上述のように国際原油価格の調整などを反映してエネルギー価格は低下しているものの、食料品価格は上昇の動きを強めるなど生活必需品を巡る物価の動きはまちまちの状況にある。ただし、世界的に飼料用穀物価格の高止まりが続くなかで豚肉(前月比+5.4%)をはじめとする食肉関連や卵(同+5.4%)の価格が上振れしている上、野菜(同+6.8%)や果物(同+1.3%)など生鮮品を中心に食料品価格に上昇圧力が掛かっている。他方、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+0.6%と前月(同+0.8%)から鈍化して18ヶ月ぶりの伸びとなっているほか、前月比も±0.0%と前月(同±0.0%)から2ヶ月連続の横這いで推移しており、生活必需品を除けば物価上昇圧力が高まりにくい状況にあることを示唆している。なお、エネルギー価格の調整の動きを反映して輸送コストに下押し圧力が掛かる動きがみられる一方、金融市場における人民元安を受けた輸入物価の押し上げを受けて日用品を中心に財価格が押し上げられる動きがみられる。ただし、価格競争力の激化の動きを反映して耐久消費財価格に下押し圧力が掛かる動きもみられるなど、家計消費の弱さが物価の重石となっている様子がうかがえる。さらに、雇用環境の回復の遅れを反映してサービス物価にも下押し圧力が掛かるなど賃金上昇圧力も後退しているとみられ、家計部門を取り巻く状況は一段と厳しさを増しているとみられる。また、景気を巡る不透明感など高まりを受けて不動産市況に調整圧力が掛かっていることを反映して住宅価格も下振れしており、家計部門では逆資産効果が消費の足かせとなる懸念があるほか、不動産関連や銀行をはじめとする金融セクターにおいては金融市場を巡る環境変化も重なり資金繰りに対する懸念が再燃する可能性も高まる。なお、中銀が5月及び8月に利下げに動いた背景には不動産に対する需要喚起が目的であったと考えられるものの、当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥に伴う行動制限が足かせとなる展開が続いている。
中銀の易鋼総裁(党委副書記)は、G20(主要20ヶ国・地域)の財務相・中央銀行総裁会合において当面の政策運営について、穏健な金融政策を強化するほか、実体経済を一段と支援すべくインフラ建設支援を軸足に置くとともに、融資拡大を通じて住宅建設の完成を促すほか、製造業をはじめとする主要産業の設備更新を促す融資を後押しするとの考えを示している。こうした対応は従来からの姿勢を維持しているものと捉えられる一方、同国では過去20年以上に亘ってインフラ投資による景気下支えが図られてきたものの、足下では追加的なインフラ投資による生産性の押し上げ効果は生まれにくくなっている可能性があることに留意する必要がある。さらに、昨年以降の不動産セクターを巡る資金繰り懸念をきっかけに未完成の不動産が問題となるなかで完成を促す対応は意味がある一方、不動産投資がGDPの少なくとも15%を占めると試算されるなど、実体経済が過度に投資に依存している体質は異常と捉えられる。人口減少局面入りが間近に迫るなかで、先行きは不動産需要そのものが細ることも懸念されるなかで現状の構造を温存し続けることは将来的な問題解決をこれまで以上に困難にする可能性も考えられる。他方、上述のように『習近平氏=中国共産党』になっていると捉えられるなど、政策面で異論を受け入れない体質となるなかでは問題に真正面から取り組むかは見通しが立たず、中国経済の行方が世界経済のリスク要因となる可能性は急速に高まることにも注意が必要と言えよう。
注1 10月11日付レポート「7中全会開幕、習近平政権2期目を如何に総括するか」
注2 5月20日付レポート「中国、政策金利引き下げで不動産市況のテコ入れなるか」
注3 8月23日付レポート「中国も「逆走状態」に突入も、物価高や人民元安を理由に慎重な対応が続く」
注4 8月8日付レポート「ウクライナ情勢悪化の背後でロシアと中国の関係深化は着実に進展」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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