トルコ中銀、物価下落まで引き締め継続の意思も、市場の反応は

~中銀や政府は正統的な政策への意思を強調も、エルドアン大統領の「胸の内」への警戒はくすぶる~

西濵 徹

要旨
  • トルコ中銀は25日の定例会合で政策金利を50%に据え置く決定を行った。昨年の大統領選以降、同行は物価と為替の安定に向けて断続利上げに動き、政府も保護預金制度を解除するなど正統的な政策に舵を切った。しかも、先月末の統一地方選の直前にも同行は追加利上げを決定するなど政策運営の「本気度」を示す動きをみせた。一連の対応を金融市場は評価する一方、長年のリラ安で国民の間のリラへの信認が失われるなかでリラ相場はジリ安の展開が続く。足下のインフレは一段と加速するなかで中銀は様子見姿勢を維持した上で、インフレが収束するまで引き締め姿勢を続ける考えを示した。利上げ局面は終了したと判断できる一方、金融市場では引き続きエルドアン大統領の「胸の内」を意識する展開が続くと見込まれる。

トルコ中銀は、25日に開催した定例会合において政策金利である1週間レポ金利を50.0%に据え置く決定を行った。同国では長年に亘ってインフレ率が中銀目標を上回る推移にも拘らず、『金利の敵』を自任するエルドアンの下で中銀は利下げを迫られる展開が続き、結果的に通貨リラ相場の下落がインフレに拍車を掛けることに繋がった。しかし、昨年の大統領選後に実施した内閣改造では国際金融市場からの評価を意識した陣容配置がなされ、中銀は物価と為替の安定を目的とする断続利上げに動いてきた。さらに、政府もリラ安阻止を目的に導入した保護預金制度(KKM:リラ建定期預金を対象にリラ相場が想定利回りを上回る水準に減価した場合に当該損失分を政府が全額補償する制度)を解除するなど、正統的な政策に舵が切られた。中銀や政府による一連の対応を受けて、主要格付機関は同国に付与する長期信用格付の見通しを引き上げるなど評価する動きがみられる一方、長年に亘るリラ安を理由に国民の間ではリラに対する信認が失墜しており、その後もリラ安の動きに歯止めが掛からない展開が続いてきた。なお、同国では先月末に統一地方選挙の実施が予定されており、金融市場では中銀が一段の引き締めに動くのは選挙後になるとの見方が強まったものの、中銀はその直前に実施された前回会合で予想外の利上げに動くなど政策運営に対する『本気度』の高さを示す姿勢をみせた(注1)。他方、統一地方選では長期に亘るインフレとリラ安に加えて金利高も重なり国民生活が疲弊している上、エルドアン政権下では度々国論を二分する政策運営が採られてきたことに対する『うんざり感』、そして、昨年来のパレスチナ問題へのエルドアン政権の対応を巡りエルドアン政権の岩盤指示層とされる敬虔なイスラム教徒の間で離反の動きが広がり、エルドアン氏の下で実施される選挙で初めて与党AKP(公正発展党)の得票率がトップの座を失うなど惨敗を喫した(注2)。なお、エルドアン大統領は統一選挙後の敗北宣言において、選挙結果を「ターニングポイント」とした上で今後の政策運営について「自己批判の上で国民のメッセージを吟味した上で必要な措置を講じる」と述べるなど、如何様にも解釈可能な考えを示した。よって、その後のリラ相場はエルドアン大統領の動きを警戒して上値が抑えられて最安値を更新する展開が続いている上、足下のインフレ率は前年に頭打ちの動きを強めた反動に加え、最低賃金の大幅引き上げやリラ安による輸入インフレ、このところの中東情勢の不透明感の高まりを受けた国際原油価格の底入れの動きも重なり加速に歯止めが掛からない状況が続いている。上述のように中銀は先月の定例会合で利上げに動いており、今回は様子見に転じた格好であるが、会合後に公表した声明文では足下の物価について「基調は予想以上に高い」との認識を示す一方、今回の決定について「利上げの効果発現に時間を要する点を考慮して現状維持を決定した」としている。その上で、先行きの政策運営について「インフレリスクに細心の注意を払いつつインフレ基調が大幅かつ持続的な低下が確認されてインフレ期待が予想通り収束するまで引き締め姿勢を維持する」として、中銀としては現行の引き締め姿勢の長期化によるインフレ鈍化を期待していると捉えられる。その意味では、中銀による昨年6月以降の利上げ局面は終了したと判断できる一方、先行きの金融市場はエルドアン大統領の『胸の内』を意識した展開が続くことは避けられないであろう。

図1 リラ相場(対ドル)の推移
図1 リラ相場(対ドル)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

以 上


西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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