オーストラリアのインフレが加速、インフレの粘着度の高さを確認

~金融市場での利下げ期待の後退不可避、当面の豪ドル相場は堅調な推移をみせる可能性~

西濵 徹

要旨
  • オーストラリアでは過去2年以上に亘ってインフレが中銀目標を上回る推移が続く。中銀は物価と為替、不動産価格の安定を目的に累計425bpの利上げに動いたが、足下の不動産価格は需給ひっ迫を理由に上昇が続く。他方、足下の景気は物価高と金利高の共存長期化により頭打ちの動きを強めるが、生活必需品を中心にインフレ圧力がくすぶり、雇用も底堅く推移している。さらに、3月のインフレ率は前年比+3.5%に加速し、非貿易財やサービス物価の上昇が確認されるなどインフレの粘着度の高さが確認されている。金融市場では中銀による利下げ期待を織り込む動きがみられるが、インフレの粘着度の高さを勘案すれば見直しを余儀なくされるなど、当面の豪ドル相場は堅調な推移をみせる可能性が高いと見込まれる。

オーストラリアにおいては、過去2年以上に亘ってインフレが中銀(準備銀行)の定めるインフレ目標(2~3%)の上限を上回る推移が続いている。なお、商品高や国際金融市場における米ドル高による豪ドル安を受けた輸入インフレに加え、コロナ禍一巡による経済活動の正常化の動きも重なりインフレは中銀目標を大きく上回るとともに、一時は33年ぶりの高水準となった。さらに、経済活動の正常化の進展による雇用回復やコロナ禍を経た生活様式の変化に加え、国境再開による外国人来訪者数の回復の動きも重なり、不動産市況も底入れの動きを強めるなどバブル化が懸念される事態に見舞われた。こうした事態を受けて、中銀は一昨年5月以降に物価と為替の安定に加え、不動産市況の鎮静化を目的に累計で425bpもの断続利上げに動いてきた。一昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡するなどインフレ圧力の後退に繋がる動きがみられたことを受けて、インフレは頭打ちに転じるなど鎮静化に向かう動きが確認された。他方、インフレは依然として中銀目標を上回る水準で推移している上、中銀はその後も引き締め姿勢を維持して物価高と金利高の共存状態が続いているほか、最大の輸出相手である中国経済を巡る不透明感が高まるなど、内・外需双方で景気の頭打ちが意識される状況にある。しかし、足下の不動産市況は金利高による供給不足の一方、雇用環境の堅調さや移民流入の動きを追い風とする需要の底堅さを追い風にした需給ひっ迫を反映して1年以上に亘って上昇しており、足下の水準は過去最高を更新する展開が続いている。さらに、異常気象による生育不良を受けた穀物をはじめする価格上昇による食品インフレの動きに加え、中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格の底入れを反映してエネルギー価格も上昇するなど、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まる動きがみられる。また、足下の雇用環境を巡っても大都市部や正規雇用者を中心に堅調な推移をみせている上、労働需給は引き続きタイトな状況が続くなど賃金上昇圧力が掛かりやすい展開が続いている。こうしたなか、3月のインフレ率は前年同月比+3.5%と前月(同+3.4%)からわずかに伸びが加速しているほか、中銀がコアインフレ指標としているトリム平均値ベースの伸びも同+4.0%と前月(同+3.9%)から同様に加速している。また、中銀が重視する物価変動が大きい項目と旅行を除いたベースでも3月は前年同月比+4.1%と前月(同+3.9%)から伸びが加速しており、いずれも中銀目標の上限を上回るとともに収束の動きが遠のいている様子がうかがえる。前月比でもインフレ率は+0.66%と前月(同+0.16%)から上昇ペースが加速している上、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレの動きが顕在化しており、財価格は上昇傾向を強めるとともに、貿易財のみならず非貿易財を中心に上昇圧力を強める動きが確認されている。さらに、上述のように雇用の堅調さを反映してサービス物価も上昇しており、インフレの粘着度の高さをうかがわせる動きもみられる。金融市場においては、上述のように実体経済が頭打ちの動きを強めるなかで中銀が早晩利下げに舵を切るとの期待を織り込む動きをみせているものの、中銀は先月の定例会合において金融市場におけるそうした見方をけん制する動きをみせてきた(注1)。しかし、その後も金融市場においては中銀による利下げ期待を反映して豪ドルの対米ドル相場は上値が抑えられる展開が続いたものの、米国同様に同国においてもインフレの粘着度の高さが確認されたことで当面はそうした見方の修正を迫られる可能性は高まっている。また、日本円に対しては日本銀行がゼロ金利の解除に動くも『その次』の見通しが立ちにくい状況が続くなかでは堅調な推移が続く可能性が高いと見込まれる。

図 1 コアロジック住宅価格指数(前月比)の推移
図 1 コアロジック住宅価格指数(前月比)の推移

図 2 インフレ率の推移
図 2 インフレ率の推移

図 3 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 3 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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