中国景況感はゼロ・コロナに伴うサービス業の悪化が深刻に

~民間製造業とサービス業の悪化が示唆されるなど、頭打ちが続く世界経済の重石となる懸念~

西濵 徹

要旨
  • 年明け以降の中国経済は当局の「ゼロ・コロナ」戦略への拘泥が景気の足かせとなる状況が続いている。景気減速の元凶となった上海などでの都市封鎖解除により企業マインドの底打ちが確認されたが、その後も感染に際して行動制限が再強化される展開が続く。商品高による世界的なインフレに加え、米FRBなどによるタカ派傾斜を受けて世界経済の景気頭打ちが意識されるなど、中国経済を巡る状況は厳しさを増している。
  • 不透明要因は山積だが、国家統計局が公表する9月の製造業PMIは50.1と3ヶ月ぶりに50を上回った。増産の動きが確認される一方、国内外の受注動向は悪化しているほか、雇用回復も遅れている上、サプライチェーンの混乱が足かせとなる動きもみられる。他方、非製造業PMIは50.6と50を維持するも、ゼロ・コロナ戦略がサービス業を中心にマインドの重石となっている。7-9月全体では4-6月に比べて改善しているが、月を追うごとに状況は悪化するなど、党大会直前ながら中国経済を取り巻く状況は一段と頭打ちしている。
  • 政府統計と対照的に、9月の財新製造業PMIは48.1と2ヶ月連続の50割れとなるとともに、前月から低下するなど民間企業を取り巻く状況は厳しい。減産の動きに加え、国内外で受注も悪化するなど政府統計と全く異なる様相をみせている。民間統計は世界経済との連動性が高いことを勘案すれば、中国の製造業を取り巻く状況の厳しさが示唆されることは、頭打ちしている世界経済のさらなる重石となることは避けられない。

年明け以降の中国経済は、感染力の強い変異株によるコロナ禍再燃に加え、当局は『ゼロ・コロナ』戦略に拘泥する対応を維持しており、幅広い経済活動に悪影響が出たことで今年4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲10.0%と大幅マイナス成長に陥ったと試算されるなど、景気に急ブレーキが掛かる事態となった(注1)。その後、景気に急ブレーキを掛ける最大の要因となった上海市などでの都市封鎖(ロックダウン)が解除されたことで、混乱したサプライチェーンの修復が進むとともに、下押し圧力が掛かった企業マインドも底入れするなど景気の持ち直しを示唆する動きが確認された。しかし、当局もゼロ・コロナ戦略の旗を降ろすことが出来ないなか、その後も中国国内において感染が確認される度に行動制限が再強化されるほか、製造業のハブとなる都市などで局所的ないし全体的に都市封鎖が再開されるなど経済活動の足かせとなる状況が続いた。さらに、今年の夏は記録的な猛暑が続いたほか、少雨も重なり、水力発電への依存度が高い内陸部で電力不足が深刻化し、工業用電力を対象に計画停電が実施されたことも製造業を中心とする生産活動に悪影響を与えた。他方、昨年来の世界経済は欧米など主要国を中心にコロナ禍からの回復の動きを強めてきたものの、ウクライナ情勢の悪化を受けた商品市況の上振れが世界的なインフレを招くなかで米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を余儀なくされている。結果、足下においては先進国の企業マインドは物価高と金利高の共存が重石となる形で急速に下振れするなど、世界経済の減速が意識される状況となっている。なお、中国では来月16日から5年に一度の共産党大会(中国共産党第20回全体会議)が開催され、習近平指導部の3期目入りが予定されるなど政治の季節が近付いているにも拘らず、足下の中国経済は国内外双方において極めて厳しい状況に直面している(注2)。

図表1
図表1

このように中国経済を取り巻く状況には不透明要因が山積しているものの、30日に国家統計局が公表した9月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.1と前月(49.4)から+0.7pt上昇し、3ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を上回るなど、8月の経済指標に『予想外』の動きが相次いだ動きと同様の事態となった(注3)。足下の生産動向を示す「生産(51.5)」は前月比+1.7ptと大幅に上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど生産拡大の動きを強めているものの、先行きの生産に影響を与える「新規受注(49.8)」は同+0.6pt上昇するも3ヶ月連続で50を下回る推移が続いているほか、「輸出向け新規受注(47.0)」に至っては同▲1.1pt低下しており、国内外双方で需要の回復が見込まれる状況にはほど遠いながら増産に動いている様子がうかがえる。また、足下の国際商品市況は底入れの動きに一服感が出る動きがみられるものの、同国においては米FRB(連邦準備制度理事会)のタカ派傾斜に伴う米ドル高に加え、中銀(中国人民銀行)による金融緩和実施など『逆走』状態を反映して人民元安が進んでおり(注4)、輸入物価に押し上げ圧力が掛かりやすくなっている。こうした動きを反映して「購買価格(51.3)」は前月比+7.0ptと大幅に上昇する一方、当局による製品価格への事実上の転嫁禁止措置を反映して「出荷価格(47.1)」は同+2.6ptと購買価格に比べて上昇ペースは緩やかなものに留まるなど、企業部門にとって収益圧迫要因になる動きもみられる。一方、増産に向けた原材料の調達活発化の動きを反映して「購買量(50.2)」は前月比+1.0pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回るなど、中国向け輸出への依存度が高い国々には追い風となる動きがみられるほか、大幅増産にも拘らず「完成品在庫(47.3)」は前月比+1.9pt上昇するも依然50を大きく下回るなど在庫復元余力は大きい様子もうかがえる。しかし、大幅増産にも拘らず「雇用(49.0)」は前月比+0.1ptとわずかな上昇に留まるなど雇用への波及効果が極めて薄い状況が続いているほか、「サプライヤー納期(48.7)」も同▲0.8pt低下するなどサプライチェーンの混乱が続いている様子もうかがえる。このようにみれば、ヘッドラインの数値は好不況の分かれ目を上回っているものの、依然として状況は『本調子』にはほど遠いと捉えることが出来る。

図表2
図表2

一方、非製造業PMIは製造業PMIに対して比較的好調な動きが続いてきたものの、8月は50.6と好不況の分かれ目となる水準は維持しているものの、前月(52.6)から▲2.0ptと大幅に低下するなど一段と頭打ちの様相を強めている。業種別では、比較的好調な動きをみせてきた「建設業(60.2)」は前月比+3.7ptと大幅に上昇して過去1年間のうち最も高い水準となるなど、インフラ投資の進捗の動きも追い風に回復の動きを強めている。一方、「サービス業(48.9)」は同▲3.0ptと大幅に低下して4ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を下回っており、小売関連や運輸関連、宿泊関連、飲食関連、住宅関連などで軒並みマインドが悪化していることが重石になっている。なお、サービス業のうち通信関連や物流関連、金融関連などコロナ禍の影響を受けにくい分野については堅調さを維持しており、当局のコロナ禍対応が企業マインドを左右していることは間違いない。先行きの経済活動に影響を与える「新規受注(43.1)」は前月比▲5.3ptと大幅に低下して5ヶ月ぶりの低水準となっているほか、「輸出向け新規受注(46.0)」も同▲2.9ptとともに大幅に低下するなど、国内外双方で需要が大きく下振れしている。このところの沿海部などを中心とするガソリン価格の下落などを反映して「投入価格(50.0)」は前月比±0.0ptと横這いで推移しており、これまでの原材料価格上昇分の転嫁を受けて「出荷価格(48.2)」は同+0.6ptとわずかに上昇する動きがみられるものの、国内外双方で受注動向が急速に悪化するなかで価格転嫁が一段と難しくなっているとみられる。さらに、足下の業況悪化を反映して「雇用(46.6)」は前月比▲0.2pt低下するなど雇用調整圧力が強まっているほか、製造業と同様にサプライチェーンの混乱を反映して「サプライヤー納期(48.7)」も同▲1.0pt低下するなど、当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が企業活動の足かせとなっている。製造業と非製造業を併せた総合PMIも9月は50.9と前月(51.7)から▲0.8pt低下するなど頭打ちの動きを強める一方、7-9月の平均は51.7と4-6月(48.4)から大幅に上昇するなどプラス成長に転じたと見込まれるものの、月を追うごとに状況は厳しさを増している。

図表3
図表3

一方、政府統計に比べて調査対象企業に占める沿海部の民間企業の割合が高く、世界経済との連動性といった意味では金融市場はS&Pグローバルが調査する財新PMIを重視する傾向があるなか、9月の財新製造業PMIは48.1と2ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を下回る上、前月(49.5)から▲1.4pt低下するなど上述の政府統計とは対照的な動きが確認されている。足下の生産動向を示す「生産(47.3)」は前月比▲3.2ptと大幅に低下しており、政府統計が調査対象とする国有企業をはじめとする大企業などでは増産の動きが活発化している様子がうかがわれたものの、民間の中小・零細企業については減産圧力を強める対照的な動きがみられる。さらに、先行きの生産に影響を与える「新規受注(47.1)」は前月比▲1.8pt、「輸出向け新規受注(45.5)」も同▲3.1ptとともに大幅に低下しており、国内外双方で受注動向が悪化の度合いを強めていることに対応して減産圧力を強めているとみられる。商品市況の底入れの動きが一服していることを反映して「投入価格(47.6)」は前月比▲0.2pt低下するなどわずかに下押し圧力が掛かる一方、価格転嫁が困難な状況にあるとともに受注動向の急激な悪化も重なり「出荷価格(47.3)」も同▲3.2ptと大幅に低下するなど価格競争が激化しているとみられる。また、政府統計では増産に伴う原材料調達の底入れが確認されたものの、「購買量(47.9)」は前月比▲1.7pt低下しているほか、大幅な減産にも拘らず「完成品在庫(49.4)」は同▲0.2ptとわずかな減少に留まるなど在庫が急速に積み上がっている可能性がある。さらに、減産の動きを反映して「雇用(47.7)」は前月比▲0.6pt低下するなど調整圧力が一段と強まっているほか、サプライチェーンの混乱を反映して「サプライヤー納期(48.7)」も同▲0.7pt低下するなど、当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥とそれに伴う行動制限の再強化の動きが製造業の企業マインドの足かせとなっており、こうした動きは世界経済にとっても足かせとなることは避けられそうにない。

図表4
図表4

中国では明日(10月1日)の国慶節に伴う大型連休が始まり、例年はこの時期に帰省や旅行が活発化する動きがみられるものの、一昨年と昨年の期間中の観光収入はともにコロナ禍の影響で直近のピークを記録した2019年を下回る推移が続いたほか、今年も当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が足かせとなることは避けられそうにない。上述のように足下は共産党大会の直前というタイミングではあるものの、企業マインドは調整局面が続く厳しい状況にある一方、当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥に物申す雰囲気は封殺されていることを勘案すれば、中国景気は今後も低調な推移が続くと見込まれるほか、世界経済もその行方に足を引っ張られる展開が続くと予想される。党大会終業後に方針が急激に転換されるとの見通しにくいなか、企業の対中国戦略を巡ってはその対象ごとに練り直しが必要になるとともに、米中摩擦の一段の激化も予想されるなど外部環境にこれまで以上に注意を払う必要があろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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