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2022.10.18
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中国共産党大会、市場を無視して習近平氏への忖度が蔓延る国へ
~「中国式現代化」が中国経済のキーワード、世界のリスク要因となる可能性にこれまで以上に注意~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国では16日に共産党大会が開幕した。習近平指導部による10年の間に習近平氏への権力集中が進むなか、党大会を経て習近平指導部が異例の3期目入りを果たすのは既定路線とみられる。また、人事を巡る慣例破りなどを勘案すれば、次期指導部人事は習氏を中心に据えた体制の枠組が維持されるとみられる。
- 活動報告では、政権発足時に掲げた中華民族の偉大なる復興の実現に向けて「中国式現代化」を推進するとともに、2035年までの社会主義現代化のほぼ実現、2050年までの社会主義現代化強国の実現を目指す中長期目標が掲げられた。ただし、政策面では経済以上に軍及び共産党体制の護持を前提とする安全保障に重点が置かれている。外交面でも軍の影響力をちらつかせた動きが活発化する可能性も高まっている。
- 党大会の背後では18日に予定された経済指標の公表が突如延期された。党大会開催を理由にする向きもあるが、市場メカニズムを無視した対応は今後の中国経済の行方を怪しいものとする可能性がある。今後の世界経済にとっては中国経済がリスク要因となる可能性にこれまで以上に注意を払う必要が高まっている。
中国では今月16日、5年に一度となる共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)が開幕した。今回の党大会は22日までの7日間の開催が予定されているが、鄧小平氏が主導する改革開放路線に舵が切られて以降、党中央最高指導部は2期ごとに交代することが慣例となってきた。そうした前例に倣えば、習近平指導部はこの党大会を以って交代することになるものの、この10年の間に様々な形で習近平氏への権力集中が進められてきた。政権1期目の残りの任期が1年となった6中全会(第18期中央委員会第6回全体会議)で習近平氏を党の「核心」とする方針が示され、政権1期目を締め括る7中全会(第18期中央委員会第7回全体会議)でもそうした姿勢が大きく後押しされた(注1)。さらに、5年前の前回党大会(中国共産党第19回全国代表大会)では、党規約が改正され「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」という習近平氏の名を冠する思想体系を行動指針に盛り込むなど、現職の指導者として自らの名を冠した思想体系を盛り込んだ(注2)。さらに、その後の全人代(第13期全国人民代表大会第1期全体会議)では憲法改正が行われ、国家主席及び副主席の任期に関する規定(連続での3選禁止)が廃止されるなど、習近平氏が国家主席として3期目入りするのみならず『終身化』を目指すことも可能になった(注3)。そして、政権2期目の残りの任期が1年となった昨年11月の6中全会(第19期中央委員会第6回全体会議)では「歴史決議」を採択し、このなかで習近平氏に関する「二つの擁護(党中央・全党の核心としての地位、党中央の権威と集中的・統一的指導の断固とした擁護)」と「二つの確立(党中央・全党の核心としての地位、その政治的思想の指導的地位の確立)」を明記するなど、党及び国家のかじ取りをすべて習氏に託すことを示した(注4)。また、先週に開催された政権2期目を締め括る7中全会(第19期中央委員会第7回全体会議)では、党規約に上述の二つの擁護と二つの確立を盛り込む方向での改正が討議されるなど、習氏を中心とする党の団結を支持するとともに、習氏による路線に従うことを求めることが改めて強調された(注5)。こうしたことから、党大会を経て習近平指導部が3期目入りすることは既定路線とみられる一方、習近平氏は今年6月に69歳を迎えるなどこれまで最高指導部人事を巡って慣例とされてきた『七上八下(67歳以下は留任、68歳以上は退任)』が破られるため、習氏以外の人事を巡っても過去の慣例と変化する可能性は考えられる。事実、習政権2期目の最高指導部(党中央政治局常務委員)には習近平氏と同年代のいわゆる『第5世代』の次を担う『第6世代』からの登用が見送られるなど、世代交代をまったく度外視した陣容が採られた経緯がある。なお、習政権2期目においても次世代の最高指導部を担う党中央政治局員には第6世代のほか、多数の習近平氏の側近も登用されており、党大会後に行われる人事発表では『その次』を担う第7世代の登用も見込まれる。しかし、次世代を明確にすればするほど習氏自身の存在感が霞むリスクを孕んでいることを勘案すれば、習氏自身を中心に据えた体制の枠組は変わらないと予想される。
なお、党大会の開幕に際しては、過去10年に亘る政権運営の総括と今後の施政方針などを示す活動報告が行われた。政権運営の総括を巡っては、①過去5カ年の活動と新時代10年の偉大な変革、②マルクス主義の中国化及び時代化に向けた新境地の開拓、③新時代の新征途における党の使命と任務、④新たな発展枠組の形成加速及び質の高い発展推進への注力、⑤科学教育を通じた国家振興戦略の実現及び人材育成を通じた現代化建設支援の強化、⑥すべての分野における人民民主の発展及び人民国家の核心としての地位の保障、⑦全面的な法に基づく国家統治の堅持、『法治中国』の建設推進、⑧文化への自信と自強の推進、社会主義文化の新たな輝きの創出、⑨民生福祉の増進及び人民の生活の質向上、⑩グリーン発展の推進及び人と自然の調和と共生の促進、⑪国家安全保障の体系及び能力の現代化推進、国家安全保障と社会安定の断固とした擁護、⑫建軍100年の奮闘目標の実現及び国防・軍隊の現代化の新局面開拓、⑬「一国二制度」の堅持と整備及び祖国統一の推進、⑭世界平和と発展の推進及び人類運命共同体の構築推進、⑮揺るぎない全面的且つ厳格な党内統治及び新時代の党建設の新たな偉大な事業の深化、という15のテーマが掲げられたが『自画自賛』のオンパレードと捉えられる。なかでも10年間に亘る政権運営に関する重大事項に、①共産党の結党100周年、②中国の特色のある社会主義の新時代への突入、③貧困脱却の攻略と小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的完成、を挙げた。また、先行きは習近平政権発足時に掲げた「中華民族の偉大なる復興」の実現に向けて党が指導する社会主義現代化として、党及び政府があらゆる経済活動に積極的に関与する「中国式現代化」を推進するなど、統制色の極めて強い発展を目指すとみられる。その上で、先行きの政策運営を巡っても中国式現代化がテーマになるとともに、産業体系の構築と工業化の推進により製造強国、品質強国、宇宙強国、交通強国、インターネット強国、「デジタル中国」の建設を加速させるほか、2035年までに「社会主義現代化」のほぼ実現、2050年頃までに「社会主義現代化強国」の実現を目指すとしている。具体的な施策の面では、習政権の金看板である反汚職・反腐敗運動では『トラ退治』、『ハエ叩き』、『キツネ狩り』により党・国家・軍のなかに巣食うリスク除去を果たしたと実績を訴えたほか、ゼロ・コロナ戦略によりコロナ禍対応と経済・社会発展の両立を図るとともに、共同富裕が新たな成果を収めたとする考えを示した。経済政策についても、内需拡大と供給側改革の深化による「国内大循環」を強化するとともに、国際循環の質向上に向けてサプライチェーンの強靭性及び安全性の向上に加えて食料やエネルギー・資源、産業面のサプライチェーンを通じた国家安全保障能力の向上を図り、ハイレベルの科学技術の自立自強の早期実現により基幹的な核心技術を巡る自主的なイノベーション能力を向上させるべく、人材戦略計画の拡充により国際的な人材競争に勝利するとしている。そして、共同富裕を推進すべく分配制度の改善に加え、機会平等の推進、低所得者の所得増進、中間所得層の拡充を図るほか、重大感染症の防止・抑制と救急治療体制の整備・緊急対応力の向上を図るなど、コロナ禍対応を巡る『反省』をうかがわせる動きもみられる。他方、外交面では一国二制度を堅持するとしつつ、台湾を巡って祖国の完全統一は必ず成し遂げねばならず必ず実現出来るとした上で、武力行使の放棄を決して約束せず、あらゆる必要な措置を採る選択肢を残すとし、軍の現代化を実現すべく中央軍事委員会主席の責任の下で体制及び仕組みを整備・貫徹するとともに、軍事統治を全面的に強化する方針を示した。また、外交面では引き続きハイレベルの対外開放を推進することで貿易強国の建設を加速させ、具体的には「一帯一路」の推進により経済貿易関係の維持を図るとしており、米中摩擦が激化するなかで自国の影響力拡大を目指す方針を維持すると見込まれる。ただし、いずれにせよ今後の中国は経済政策面では独自性(みようによっては異質性)がこれまで以上に強まることは避けられない一方、米中摩擦が今後も不可逆的に深刻化すると見込まれるなかで対外的には『圧力』を強めるとともに、その背後に軍事力をちらつかせる対応を進めるものと予想される。
共産党大会の行方に注目が集まる背後では、今日(18日)に予定された7-9月GDP及び9月の経済指標の発表を巡って、前日に国家統計局が突如延期することを発表するなどドタバタ劇も散見される。経済指標の公表を巡っては、税関総署が先週金曜(14日)に予定していた9月の貿易統計についても何事もなかったように公表が見送られており、いつこれらが公表されるかも分かっていない。なお、公表延期の理由については何も示されておらず、共産党大会の開催を受けて当局に様々な面で業務上の問題が生じていることが影響したとの見方もある。ただし、党大会の開催を理由に統計の公表を遅らせるというのは見当違いも甚だしいものであり、仮にそうした理由であるならば、党大会の開催日程が決定された段階で業務が困難になることを理由に事前に公表日時を変更すればよい話である。また、国家統計局は党大会の開催直前の先週金曜には9月の物価統計の公表を行っており、ほんの数日で状況が大きく変化したということにも無理がある。一方、仮に悪い数字が出たことを理由に公表を遅らせたとすれば、市場メカニズムを全く無視した暴挙であるとともに、誤った現状認識の下で正しい処方箋が打ち出されることも期待しにくくなる。それは当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が中国経済のみならず、世界経済のリスク要因となっていることを勘案すれば、活動報告において「国際的影響力が著しく向上した」と自画自賛する国家の採るべき対応とはかけ離れている。その意味でも、今後の世界経済にとっては中国が様々な観点でリスク要因となる可能性にこれまで以上に注意を払う必要があると言える。
注1 2017年10月16日付レポート「習政権は7中全会で1期目を如何に総括したか」
注2 2017年10月25日付レポート「習政権2期目は「側近政治」の色合い強める」
注3 2018年3月20日付レポート「全人代閉幕、習政権は長期的野望に向けて前進」
注4 2021年11月8日付レポート「中国・6中全会開幕、習近平指導部が採択する「歴史決議」とは」
注5 10月14日付レポート「中国、党大会間近も景気の不透明感は一段と高まる展開が続く」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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