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2022.08.05
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ペルー・カスティジョ政権、1年強で4人目の首相交代の異常事態
~大統領は疑惑山積のなかで求心力低下は必至、政権を取り巻く状況が一段と厳しくなることは不可避~
西濵 徹
- 要旨
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- 今月3日、ペルーのトレス前首相が突然の辞任を発表した。同国では昨年7月の大統領選を経て急進左派のカスティジョ政権が発足したが、半年ほどの間に首相が3人交代する異常事態が続いた。政権支持率が低下するなか、物価高に伴う生活苦を理由に今年4月には反政府デモが一部暴徒化する事態に発展した。外出禁止令の発令による事態収拾を図る一方、その後も銅鉱山で抗議行動が相次ぐなど実体経済の重石となる状況が続く。また、生活必需品を中心とする物価上昇に加え、通貨ソル安も重なりインフレは昂進して中銀はタカ派姿勢を強めざるを得ず、物価高と金利高の共存も景気の足かせとなっている。他方、大統領を巡る疑惑山積のなか、忠臣であるトレス氏の辞任により求心力低下は必至であり、困難が待ち受けている。
ここ数年、中南米では『左派ドミノ』とも呼べる動きが広がりをみせるなか、ペルーにおいても昨年7月の大統領選(決選投票)において急進左派政党であるPL(ペルー・リブレ(自由ペルー))から出馬したペドロ・カスティジョ氏が勝利し、急進左派政権が誕生した。しかし、PL内においては政権発足当初から穏健派のカスティジョ大統領と急進派のウラジミル・セロン党首の間で人事を巡る綱引きが顕在化したため(注1)、穏健派と急進派のバランスを取る人事が行われた。他方、PLを中心とする連立与党は共和国議会で少数派に留まる上、議会の主要人事を中道政党や右派政党が占めるなど『ねじれ状態』となるなか、急進派首相(グイド・ベジド氏)の度重なる舌禍で政権運営が空転したことを受けて、カスティジョ氏は2ヶ月足らずでベジド氏を更迭する事態に追い込まれた。その後にカスティジョ氏は後任首相に中道派(ミルタ・バスケス氏)を据えることで議会の取り込みを図る動きをみせたものの(注2)、年明け直後に国家警察人事を巡る汚職事件が表面化し、その対応を巡ってバスケス氏が大統領と対立して辞任した(注3)。その後、カスティジョ氏は後任首相に一旦穏健派(右派)(エクトル・バーレル氏)を据えたが、直後に家庭内暴力などの問題が表面化して1週間での退任を余儀なくされ、新たに穏健派(右派)のアニバル・トレス氏を後任首相に据えた。なお、内閣改造が行われる度に首相をはじめとする閣僚の陣容は右派にシフトしており、政権発足当初に懸念された政策全般が左派方向に舵が切られる事態は避けられている。その一方、政権発足以降はカスティジョ大統領の職権濫用や汚職に対する疑惑が噴出しているほか、側近による汚職疑惑も噴出しており、昨年12月、今年3月と共和国議会に相次いで大統領に対する弾劾動議が提出される異常事態が続いている(いずれも否決)。このように政局を巡るゴタゴタ続きを理由に政策運営は空転状態が続く一方、昨年末以降は国際商品市況の上振れを理由にインフレが顕在化しており、年明け以降はウクライナ問題の悪化に伴う供給不安を受けた幅広い商品高も重なりインフレは一段と加速の動きを強めている。こうした事態を受けて、中銀は昨年8月にコロナ禍以降初の利上げに動いたほか、その後も先月の定例会合まで12会合連続の利上げ(累計575bp)を行うなどタカ派姿勢を強めている。ただし、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を受けて世界的なマネーフローが影響を受けるなか、新興国においては資金流出圧力が強まりやすい環境となっている。結果、同国は銅や鉛、銀、金のほか、原油や天然ガスなどを主要な輸出財とするなか、これらの価格上昇は資金流入に繋がることが期待されたものの、今年4月に政局を巡るゴタゴタを理由に政権支持率が急落するなか、物価高による生活苦も理由に反政府デモが活発化して一部が暴徒化する事態に発展した(注4)。政府は外出禁止令の発令により事態収拾を図ったものの、主力産業である複数の銅鉱山において抗議行動が相次いで操業停止状態が長期化するなど景気にも悪影響が出る状況が続いている。さらに、足下では中国や米国など主要国における景気の先行き不透明を理由に商品市況は頭打ちの様相を強めており、この動きに呼応するように通貨ソル相場は調整して輸入物価の押し上げが一段のインフレ昂進を招くことが懸念される。他方、上述のようにカスティジョ氏に対する弾劾動議は2度否決されたものの、その後も同氏を巡っては計5件の犯罪捜査が行われるなど疑惑が噴出するなか、トレス首相は3日に突如「個人的な理由」で辞任することを明らかにした。トレス氏は弁護士出身であり、カスティジョ氏にとって最も忠実な盟友のひとりとされるが、同氏の突然の辞任により政権の求心力は一段の低下は避けられず、政権は空中分解状態に陥る可能性もあるなど、発足1年ながら政権は厳しい状況に直面している。


注1 2021年7月29日付レポート「ペルー左派政権発足で「大きな政府」路線は必至、船出からドタバタも露呈」
注2 2021年10月8日付レポート「ペルー、政治混乱が続くなかで大統領は急進派首相を事実上更迭」
注3 2月3日付レポート「ペルー、半年強で2度目の内閣総辞職、政局の混乱は長引く懸念も」
注4 4月6日付レポート「ペルー、政局混乱の裏で反政府デモ激化、政府は外出禁止令を発令」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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