ペルー・ボルアルテ大統領、不正蓄財疑惑で当局の捜査を受ける

~政治不信が極まるなかで政局の混乱がソル相場に影響を与える可能性に注意を払う必要性は高い~

西濵 徹

要旨
  • 南米ペルーでは、インフレを理由に中銀は累計750bpもの利上げに動く一方、カスティジョ前大統領の罷免を巡って反政府デモが活発化するなど幅広く経済活動に悪影響が出た。結果、昨年の経済成長率は▲0.6%のマイナス成長となり、昨年後半はテクニカル・リセッションに陥るなど実体経済は厳しい状況にある。他方、昨年以降はインフレが頭打ちに転じたことで中銀は累計150bpの利下げに動いたものの、先月の定例会合ではインフレ再燃を警戒して利下げを休止させるなど難しい対応を迫られている。こうしたなか、先月末に検察当局が不正蓄財疑惑を理由にボルアルテ大統領を捜索するなど、政治不信を招く動きが顕在化している。ボルアルテ氏は潔白を表明する一方、国民の政治不信が極まるなかで年内にも予定される総選挙、大統領選は前回同様激戦となる可能性があり、ソル相場に影響を与える可能性に要注意である。

南米ペルーではここ数年、異常気象による歴史的大干ばつに加え、商品高や米ドル高も重なる形でインフレが直撃したことを受けて、中銀は物価と為替の安定を目的に2021年後半以降に累計750bpもの断続利上げに追い込まれるなど、景気の足を引っ張る材料が山積してきた。さらに、一昨年末にカスティジョ前大統領が弾劾により失職したことを受けて副大統領であったボルアルテ氏が大統領に昇格したものの、一連の手続きを巡ってカスティジョ氏の支持者が反発を強めるとともに、全土で反政府デモの動きが活発化する事態に発展した。結果、幅広い経済活動に悪影響が出たことを受けて昨年の経済成長率は▲0.6%と3年ぶりのマイナス成長となるとともに、昨年後半については事実上のテクニカル・リセッションに陥ったと試算されるなど、実体経済は極めて厳しい状況に直面している。他方、一昨年末以降は商品高と米ドル高の動きが一巡しており、インフレが頭打ちに転じたことを受けて中銀は昨年9月以降に累計150bp利下げに動いたものの、先月の定例会合ではインフレの再燃を警戒して利上げ局面を休止させるなど難しい対応を迫られている(注1)。なお、年明け以降に底打ちに転じたインフレは再び頭打ちの動きを強めるなど一見すると落ち着きを取り戻しているようにみえるものの、足下では食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とする物価上昇の動きが確認されるなど、依然としてインフレが警戒される状況が続いている。こうしたなか、現地報道によると検察当局がボルアルテ大統領による不正蓄財疑惑を理由に先月末に自宅や大統領府を捜索するなど、政権の足下を揺るがす懸念が高まっている。きっかけはボルアルテ大統領が公式行事に出席した際の写真を元に、地元メディアが同氏が大量の高級腕時計や宝飾品を所有していると報道したことを受けて検察当局が予備的捜査を開始し、高級腕時計や宝飾品を不正に取得した上で資産として申告しなかった不正蓄財疑惑を理由に捜索が行われた。ボルアルテ氏自身は高級腕時計や宝飾品について、弁護士時代の報酬で購入したものと説明した上で不正蓄財を否定するとともに、一連の捜査について不当な権力濫用であると批判した上で、大統領任期を全うするとの考えを示している。他方、ボルアルテ氏を巡っては、上述のようにカスティジョ前大統領が罷免された後に収監されたことを受けて同氏の支持者を中心とする反政府デモの動きが活発化した際、デモの鎮圧を目的に軍や警察による暴力行為を容認したとの嫌疑が欠けられており、検察当局による捜査が行われている。2026年に予定されている次期総選挙、及び大統領選を巡っては年内にも前倒しで行う提案がなされているが、政治不信の度合いが増すなかで世論調査ではいずれの候補も優位に立つことが出来ない状況が続いており、2021年の前回大統領選同様に激戦となることは必至と見込まれる。そうしたなかでのボルアルテ大統領を巡る新たな疑惑は国民の間の政治不信を一段と深刻なものとすることが予想されるほか、先月に決定した憲法改正に伴い次期総選挙では二院制が復活することが決定したことも重なり、政治の混迷度合いが増すことも考えられる。通貨ソルは米ドル相場の動きや主力の輸出財である銅をはじめとする商品市況の動向に左右される展開が続いているものの、当面は政治の動きも影響する可能性がある上、その動きが物価や中銀の政策運営に影響を与えることに留意する必要がある。


西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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