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2021.10.08
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ペルー、政治混乱が続くなかで大統領は急進派首相を事実上更迭
~急進派のベジド氏から前国会議長のバスケス氏に、政権は穏健色を強めるも不安材料は山積~
西濵 徹
- 要旨
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- ペルーでは、6月の大統領選を経て7月末に急進左派政党PLのカスティジョ政権が発足した。なお、カスティジョ氏自身はPL内では穏健派である一方、政権の要である首相に就任した急進派ベジド氏が不安要因になった。事実、ベジド氏は議会で多数派を占める野党を挑発したほか、左翼ゲリラの礼賛、天然ガス部門の国有化に言及するなど政治の混乱を招いた。こうしたなか、カスティジョ大統領はベジド氏を事実上更迭するなど内閣改造を行い、全体的に穏健色の強い陣容に変更した。国際金融市場は一旦安堵している模様だが、ベジド氏は反撃を示唆する動きをみせるなど、政治が経済、金融市場を揺さぶる展開が続くであろう。
ペルーにおいて6月に実施された大統領選では、急進左派政党のPL(ペルー・リブレ(自由ペルー))から出馬したペドロ・カスティジョ氏と中道右派政党のFP(フエルサ・ポプラル(人民勢力))から出馬したケイコ・フジモリ氏との間で大接戦となり、2016年の前回大統領選と同様に開票に時間を要するとともに混乱が長期化することが懸念された(注1)。その後の選挙管理委員会の集計ではカスティジョ氏が勝利するも、フジモリ陣営は選挙結果に対する不服申し立てを行う動きをみせたものの、最終的にカスティジョ氏の勝利が確定するとともに、7月末にカスティジョ氏は正式に大統領に就任したことで左派政権が誕生した。ただし、通常は大統領就任式に併せて閣僚名簿が公表されて政権が船出を迎えるものの、カスティジョ氏自身はPL内では比較的穏健な姿勢をみせる一方、4月の共和国議会選挙で最大与党となった政権を支えるPLは党首のウラジミル・セロン氏を中心に急進色が強いなかで意見集約が進まず、閣僚名簿が発表されないなどのドタバタ劇が露呈した(注2)。さらに、共和国議会内でPLをはじめとする与党連合は少数派に留まり、議長や副議長人事を中道政党や右派政党が占めるなど『ねじれ状態』に陥っていた。その後に正式発足したカスティジョ政権では、政権の要でスポークスパーソンの役割を担う首相にPL所属で強硬左派色の強いグイド・ベジド氏が就任する一方、財務相には穏健派エコノミストのペドロ・フランケ氏を据えるなど、国際金融市場の警戒を和らげるべくバランスを図る姿勢が採られた。なお、ベジド氏については政界内で無名の存在であったものの、マルクス主義を信奉するPLのセロン党首に近いなど党内の急進派とされ、首相就任後も議会で多数派を占める野党を挑発するなど物議を醸す動きをみせてきた。また、政権においては外相に就任した元左翼ゲリラのメンバーであったエクトル・ベハル氏が国軍を侮辱する発言を行ったことを理由に海軍などが反発して就任後19日で辞任に追い込まれたほか、ベジド氏も左翼ゲリラを礼賛する発言を理由に検察が捜査対象とするなど、発足早々から火種を抱える状況に見舞われてきた。その後もベジド氏は外国企業が操業している天然ガス資源の国有化に言及し、鉱山相が弁明に追われるなど政権運営は混乱するとともに、野党もベジド氏に対する批判を強めるなど議会運営は早くも行き詰まる展開が続いた。なお、同国の新型コロナウイルスの感染動向を巡っては、ワクチン接種が比較的進んでいることも相俟って4月半ばを境に新規陽性者数は頭打ちの動きを強めているほか、死亡者数も鈍化するなど大きく改善に向かっていると捉えられる。こうした状況にも拘らず、政治的な混乱を理由に国際金融市場では通貨ソル相場は下落傾向を強める展開が続いており、足下では昨年後半以降における国際原油価格の上昇も相俟ってインフレが顕在化するなか、中銀は8月及び9月と立て続けに利上げ実施を迫られるなど難しい対応が続いてきた(注3)。こうしたなか、6日にカスティジョ大統領はベジド氏を事実上更迭するとともに、後任首相には環境問題を重視する弁護士で左派のFA(フレンテ・アンプリオ(拡大戦線))所属の前国会議長ミルタ・バスケス氏を据えるなどの内閣改造を実施した。今回の内閣改造ではベジド氏のほか、過去に左派ゲリラのメンバーとしてテロに関与した容疑を理由に辞任要求の動きが広がり先月末に更迭されたイベル・マラビ前労働相などが交代される一方、フランケ財務相は留任させるなど国際金融市場の懸念に配慮しており、全体的に穏健色が強まった印象である。他方、首相を事実上更迭されたベジド氏は自身のSNSに立て続けに「人々の団結力があれば何でも成し遂げられる」、「徹底的にやろう」、「我々は自らの居るべき舞台に戻る」など意味深な書き込みを行っており、カスティジョ大統領への『反撃』も辞さない考えを示している可能性がある。国際金融市場は内閣改造により陣容が穏健色を強めていることに安堵している模様だが、与党PL内では同国の主力産業である鉱業部門に対する国有化や徴税強化のほか、自由貿易協定(FTA)の見直しを求める声が根強くあるなどビジネス環境の急激な悪化も懸念されるなか、政治が経済及び金融市場を揺さぶる展開が続くことは避けられそうにない。


注1 6月8日付レポート「ペルー大統領選は大接戦、いずれにせよ混乱は不可避の情勢」
注2 7月29日付レポート「ペルー左派政権発足で「大きな政府」路線は必至、船出からドタバタも露呈」
注3 9月10日付レポート「中南米諸国、新型コロナの影響一服の背後でインフレ対応を迫られる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

