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2024.02.19
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ロシアは景気底入れに一服感も、中銀は引き締めの手綱を緩められず
~中銀はインフレ抑制へ難しい対応が続く一方、ウクライナ情勢の見通しは付かない状況が続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく丸2年が過ぎようとしているが、依然として終局が見出せない状況が続く。欧米などの経済制裁により景気は大きく下振れしたが、その後は原油市況の上振れや「抜け穴」の動きも重なり一転底入れの動きが進んだ。なお、昨年末にかけては外需の頭打ちに加え、インフレと中銀による断続利上げの累積効果も重なり景気底入れの動きに一服感が出ている模様である。足下のインフレは中銀目標を大きく上回る推移が続くが、中銀は16日の定例会合で政策金利を6会合ぶりに据え置いて利上げ局面の休止させるなど景気に配慮する動きをみせる。ただし、中銀はインフレを警戒して相当期間に亘って引き締め姿勢を維持する姿勢をみせるなど、難しい舵取りを迫られる。他方、足下の原油価格は欧米などの設定上限を上回り、外貨準備高など継戦能力の高さをうかがわせるほか、来月には大統領選が予定されるなどロシアから休戦に動く誘因が低いことを勘案すれば、事態のこう着化が続くと見込まれる。
ロシアによるウクライナ侵攻開始からまもなく丸2年を迎えるものの、依然として終局が見通せない展開が続くなど一段の長期化も予想される状況にある。他方、ウクライナ侵攻を理由に欧米などがロシアに対する経済制裁の強化に舵を切り、国際的な決済取引から事実上排除されたことで通貨ルーブル相場は大きく調整するとともに物資不足を理由にインフレも昂進したため、景気は一時的に大きく下振れする事態に直面した。しかし、その後は主力の輸出財である原油をはじめとする国際価格の上振れの動きを反映して輸出が押し上げられるとともに、交易条件の改善が国民所得を押し上げる動きがみられたほか、中国やトルコ、中央アジアなどを通じた迂回貿易や並行貿易の活発化に加え、中国やインドなどが同国産原油や肥料などの輸入を拡大させたことも追い風に景気は底入れの動きを強めた。さらに、ウクライナ侵攻に関連した軍事費増大の動きは公的需要を押し上げているほか、戦争状態の長期化により国民の間に不満がくすぶるなかでプーチン政権はバラ撒き政策を通じた抑え込みの動きを強めており、こうした動きも景気を押し上げている。昨年後半にかけては実質GDPがウクライナ侵攻直前の水準を回復するなど欧米などによる経済制裁を克服している様子が確認されるほか、商品市況の上振れを追い風に外貨準備高の減少が抑えられており、実質的にロシアによる継戦能力が維持される状況に繋がっていると捉えられる。こうした状況も追い風に、同国政府は今月初めに昨年通年の経済成長率が+3.6%と前年(▲1.2%)から2年ぶりのプラス成長に転じており、軍事費を中心とする財政拡大の動きや経済活動の正常化を追い風とする家計消費の堅調さが景気の底入れを促したとしている。この結果に基づけば、10-12月の実質GDP成長率は前期比年率ベースでマイナス成長に転じたと試算されるなど底入れの動きを強めてきた景気に一服感が出ている可能性が考えられる。この背景には、昨年末にかけての原油価格が中国の景気減速が意識される形で下振れするなど外需の足かせとなる動きがみられるほか、一昨年に上振れしたインフレはその後に頭打ちの動きを強めたものの、昨年半ば以降は底入れに転じるとともに、中銀は物価と為替の安定を目的に累計850bpもの断続利上げを余儀なくされていることも影響しているとみられる。直近1月のインフレ率は前年に大きく鈍化した反動も重なり前年比+7.44%に加速している上、コアインフレ率も度+7.15%とともに中銀目標(4%)を大きく上回る推移が続いている上、前月比の動きも上昇基調が続くなど鎮静化の見通しが立たない動きをみせている。足下の物価動向を巡っては、生鮮品を中心とする食料インフレの動きが続いているほか、戦争状態の長期化による労働力不足が賃金上昇を招いてインフレ圧力を増幅させる状況が続いている。さらに、ウクライナ戦争をきっかけとする欧米などの経済制裁強化を受けてロシア経済が中国経済との連動性を高めるとともにルーブル相場は人民元相場との連動性を強めており、国際金融市場における米ドル高の動きが再燃するなかでルーブル相場は頭打ちするなかで輸入インフレ圧力が強まる事態に直面している。こうした状況ながら、中銀は16日の定例会合で政策金利を6会合ぶりに主要政策金利を16.00%に据え置くなど利上げ局面を休止させる決定を行うなど、上述のように足下で景気底入れの動きに一服感が出ていることが影響している可能性が考えられる。なお、会合後に公表した声明文では足下のインフレが依然高いとの認識を示した上で、インフレが中銀目標に回帰するには長期に亘る引き締め環境が必要になるとの見方を示すなど、中南米などではインフレ鈍化を理由に利下げに動く流れが広がりをみせているものの、ロシアについてはまったく異なる状況にあると捉えられる。さらに、足下の同国経済について依然として内需が生産能力を上回り、中期的にインフレリスクは上向きの状況が続くとの見通しを示した上で、将来的な政策金利の見通しを引き上げるなど利下げに転じる時期の後ズレを示唆する動きをみせている。なお、今月初めに実施された同国を含む主要産油国の枠組であるOPECプラスの閣僚級会合においては、中東情勢の悪化を理由に頭打ちの動きを強めた原油価格が底入れに転じていることを好感して協調減産の枠組を現状維持で据え置く決定を行っているが(注1)、その後も原油価格は堅調な推移をみせるとともに、欧米などが設定した上限(1バレル=60ドル)を上回る水準を維持するなど悪影響が軽減される状況が続いている。来月には事実上のプーチン氏再燃の『出来レース』状態となっている大統領選の実施が予定されていることを勘案すれば、ウクライナ戦争を巡ってロシアから休戦に持ち込む誘因は少ない上、上述のように依然として継戦能力が維持されている状況も重なり、事態打開の道筋は見出しにくい展開が続くであろう。
注1 2月2日付レポート「OPECプラス、中東混乱による原油価格底入れを受けて現状維持」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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