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2022.04.01
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OPECプラスは欧米諸国などと距離を置く姿勢を一段と明確に
~2022年5月は日量43.2万バレルの小幅協調減産縮小、IEAのデータ利用停止も決定~
西濵 徹
- 要旨
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- ウクライナ情勢の悪化を受けて国際原油価格は一段と上振れした。その後に米国はOPECプラスに増産を要求したが、この動きは価格動揺を招いた。世界的なマネーの規模はかつてない水準で推移するなか、国際原油価格は市場の思惑に揺さぶられる展開が続く。他方、ロシアの供給減をOPECプラス内でカバーし得るのはサウジ及びUAEくらいとされる一方、OPECプラスは全会一致を原則とするなどそのハードルは高い。
- 31日に開催したOPECプラスの閣僚級会合では、5月は日量43.2万バレルの協調減産縮小を決定した。IEAや米国の増産要求にも拘らず小幅減産縮小を維持したほか、今後はIEAのデータ利用を停止するなど欧米諸国と距離を置く姿勢を鮮明にした。米国の戦略備蓄放出決定や中国の景気減速懸念が原油価格の重石となる動きがみられるが、先行きも需給動向を左右する材料に左右される展開が続くと予想される。
ウクライナ情勢の悪化を受けて、欧米諸国などはロシアに対する経済制裁を一段と強化する動きをみせており、国際金融市場においては世界有数の産油国であるロシアからの原油供給が細ることが警戒されている。他方、昨年以降における国際原油価格は、世界経済がコロナ禍からの回復が進む一方、ロシアを含む主要産油国(OPECプラス)はコロナ禍対応を目的とする過去最大規模の協調減産からの段階的縮小を続けており、需給ひっ迫が意識されるなかで底入れの動きを強めてきた。こうしたことから、原油価格の急騰が世界経済に冷や水を浴びせることを警戒して、米国をはじめとする原油の主要消費国は戦略石油備蓄の放出を決定するなどの対応をみせたものの、焼け石に水の展開となってきた。さらに、ウクライナ情勢の悪化を理由に米バイデン政権がロシア産原油及び天然ガス、石炭の輸入禁止に動いたため、国際原油価格(WTI)は一時「1バレル=130ドル」の水準に達するなど上振れの度合いを強めた。こうした事態を受けて、OPECプラスの一員であるUAE(アラブ首長国連邦)の駐米大使は米国からの『要請』を受けて原油増産を支持する考えをみせる一方、同国のエネルギー相は真逆の発言を行うなど、その後の国際原油価格はこうした動きに一喜一憂する展開が続いてきた。この背景には、足下の国際金融市場は米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀を中心に正常化に向けた動きが進んでいるものの、コロナ禍を受けた全世界的な金融緩和を追い風に世界的なマネーの規模はかつてない水準に膨張しており、市場規模が元々小さい国際原油市場がマネーの動向に揺さぶられやすくなっていることが影響している。他方、OPECプラスの枠組のなかで増産余力があるのはサウジアラビアとUAEくらいのなか、ロシアの供給減をカバーし得るかは不透明な上、OPECプラスは『全会一致』を前提とすることで米国による増産要請に応じる可能性は極めて低いと見込まれた(注1)。
こうしたなか、31日に開催された5月の協調減産枠を協議するOPECプラスの閣僚級会合においては、日量43.2万バレルの協調減産縮小を決定し、過去数ヶ月に亘って続いてきた段階的縮小(日量40万バレルの協調減産縮小)からわずかに縮小幅を拡大させるも、引き続き小幅なものに留められた。なお、前月の閣僚級会合の直前にはIEA(国際エネルギー委員会)が臨時会合を開催し、国際原油価格の急騰に対応して6,000万バレル規模の緊急備蓄の放出で合意するなどの対応をみせた(注2)。IEAは先月公表した最新のレポートにおいて、ロシア産原油の流通が停滞することに伴い日量300万バレル程度の供給が縮小するとの予想を示しており、この縮小分を補うことが出来るのはサウジアラビアとUAEであると指摘するとともに、両国に増産を求める動きをみせていた。しかし、閣僚級会合前に開催されるJTC(合同専門委員会)及び合同閣僚監視委員会(JMMC)では、原油の生産動向やOPECプラスの枠組による減産順守の動向を確認するためにこれまでIEAによるデータを利用してきたものの、今後はIEAのデータを利用せず、代わりに民間調査会社のデータを補助的に用いる方針を決定していた。この決定により、欧米諸国などが政策決定の前提とするデータについて、OPECプラスが生産動向の判断及び決定に用いないこととなり、OPECプラスと欧米諸国などとの対立が決定的なものとなりつつあることを意味する。会合後に示された声明文では、足下の国際原油価格について「ファンダメンタルズではなく、地政学的な動きに拠るところが大きい」との考えを示すなど、OPECプラスとしてはウクライナ問題の激化に伴い生じている供給減少懸念に距離を置く姿勢を示した格好である。この背景には、サウジやUAEは伝統的に米国と関係が深いとされる一方、過去数年に亘るOPECプラスでの協調体制構築を巡ってロシアと協力を深めており、ロシアとの対立を避けるとの意図が大きく影響している可能性がある。他方、OPECプラス内ではウクライナ情勢の長期化による世界経済への悪影響を警戒する向きもみられ、報道に基づけば内部報告書において「欧州だけでなく、世界的に消費者及び企業マインドが低下する」との見方が共有されている模様であり、状況如何ではスタンスが変わる可能性は残されていると判断出来る。なお、米バイデン政権は31日に5月から向こう6ヶ月間に亘って日量100万バレル、全体で1.8億バレル規模の戦略石油備蓄の放出を行う方針を明らかにした。足下では中国でのコロナ禍再燃による景気減速懸念が国際原油価格の重石となっているが(注3)、当面の原油価格は引き続き需給動向を巡る材料に左右される展開が続くであろう。
注1 3月14日付レポート「OPECプラスは米国の増産要請に応えるだろうか」
注2 3月3日付レポート「OPECプラスは2022年4月も現状維持、ウクライナ問題にも沈黙」
注3 3月31日付レポート「「ゼロ・コロナ」戦略の弊害が一段と露わになる中国経済」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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