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ブラジル議会は中銀次期総裁にガリポロ氏を承認、レアル相場は?

~当初懸念された政策運営は不変の見通し、一方で政府との対立がレアル相場の足かせとなる懸念~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は、コロナ禍後早期の利下げに動き、その後も大幅利上げに動くなどタカ派姿勢を強めてきた。昨年発足したルラ政権は中銀に利下げを要求するもタカ派姿勢を堅持したが、インフレ鈍化を受けて昨年からは一転して利下げに動いた。しかし、ルラ政権の下での財政悪化を警戒してレアル相場は調整の動きを強めるとともに、昨年後半以降はインフレ鈍化の動きが一巡しており、中銀は先月の定例会合で一転利上げに動いている。他方、ルラ大統領は総裁人事を通じて中銀に圧力を掛ける動きをみせたため、その動向が注目された。8月にルラ政権は金融政策担当理事を務めるガリポロ氏を次期総裁に指名し、議会での承認手続きが進められた。ガリポロ氏はルラ氏に近く、政策運営への影響が懸念されたが、足下ではタカ派姿勢を強める考えをみせ、8日に議会で人事案が承認された。次期総裁の下でも中銀はタカ派姿勢を堅持するとみられるが、政府との対立がレアル相場の足かせとなる可能性には要注意と捉えられる。

ここ数ヶ月の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げを受けて米ドル安が進んでおり、米ドル高による自国通貨安に直面してきた新興国を取り巻く環境は大きく変化している。こうしたことから、自国通貨安による輸入インフレを警戒して金融引き締めを維持せざるを得なかった新興国においては、米ドル安による自国通貨高を受けて一転して金融緩和に舵を切る動きが広がりをみせている。他方、ブラジルでは中銀がコロナ禍後の早い段階で利上げに動くとともに、その後もインフレ昂進を受けて累計1175bpもの大幅利上げを実施するなど、新興国の間でもタカ派姿勢の強い金融政策が採られてきた。なお、インフレは一昨年半ばに一時18年ぶりの水準となるも、商品高の一巡に加え、実質金利(政策金利-インフレ)の高さという投資妙味を追い風とした資金流入による通貨レアル高も重なりインフレは頭打ちに転じたため、中銀は昨年以降一転して利下げに動いた。しかし、ルラ大統領は中銀に一段の利下げを要求する姿勢をみせる一方(注1)、昨年後半以降はインフレ鈍化の動きが一巡するとともに、年明け以降はルラ政権のバラ撒き志向による財政悪化を警戒してレアル相場は調整に転じるなどインフレの再燃が懸念される動きが顕在化している。よって、上述のように新興国の間には利下げに動く流れが広がる一方、ブラジル中銀は先月の定例会合において利下げ局面を終了させて利上げに動くなど、他の新興国と異なる動きをみせている(注2)。なお、ルラ大統領は中銀に対して利下げ実施に向けた圧力を強めるとともに、年末に任期満了を迎えるカンポス=ネト総裁の退任を迫る動きをみせたため、金融市場では後任人事の行方に注目が集まった。金融市場においては、ルラ政権に近く、中銀の金融政策担当理事を務めるガリポロ氏が最右翼とみられたなか、8月にルラ大統領は次期総裁候補に同氏を指名するとともに(注3)、議会において承認に向けた手続きが進められてきた。ガリポロ氏はルラ政権の発足に併せて財務次官に就任するとともに、昨年には中銀理事に就任するなどルラ大統領との関係が近いとされるなか、金融市場では同氏が次期総裁に就任した場合の中銀の政策運営がルラ大統領の意向に沿う形でハト派姿勢を強めることが警戒されてきた。事実、同氏は今年5月の定例会合でレアル相場に配慮して利下げ幅の縮小に動いた際は、大幅利上げを主張するなどハト派姿勢を示したものの、その後はカンポス=ネト総裁と歩調を併せる形でタカ派姿勢に傾くとともに、先月の定例会合では利上げを主張している。議会で開かれた次期総裁人事を巡る公聴会においても、同氏は「インフレ目標の実現に向けて必要な限り政策金利を制約的な水準に維持しつつ、インフレ目標を明確に追求することが中銀の責務」と述べるなどタカ派姿勢を示してきた。こうしたなか、8日に議会上院の本会議において次期総裁の承認案に関する裁決が行われ、賛成票66、反対票5と多数の賛成票を獲得して承認されたことを受けて、来年1月にガリポロ氏が次期中銀総裁に就任することが決定した。先月のインフレ率は前年比+4.42%と前月(同+4.24%)から伸びが加速しており、中銀目標(3±1.5%)の上限に近付くなどインフレが再燃しており、足下では中東情勢を巡る不透明感が国際原油価格を押し上げるとともに、米ドル安の動きも一巡するなどレアル安に繋がる動きもみられる。ガリポロ次期総裁の下でも中銀は慎重な政策運営を維持する可能性は高いと見込まれる一方、利下げを要求するルラ大統領をはじめとする政府との対立がレアル相場の不透明要因となる可能性に留意する必要性は高まっている。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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