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ブラジル・ルラ大統領、次期中銀総裁にガリポロ理事を指名

~政策運営は現状から変更なしと見込まれる一方、レアル相場は金融政策「以外」の動きの影響を受ける~

西濵 徹

要旨
  • ブラジルでは金融政策を巡ってルラ政権と中銀が対立するなか、年末に任期満了を迎えるカンポス=ネト総裁の後任人事に注目が集まってきた。こうしたなか、ルラ大統領は28日に金融政策担当理事を務めるガリポロ氏を後任総裁に指名したことが明らかになった。ガリポロ氏はルラ政権に近く、金融市場では早くから最有力候補とみられてきた。他方、ガリポロ氏はかつてハト派姿勢をみせたが、足下ではタカ派姿勢に転じており、現状の政策運営を維持する可能性は高いと見込まれる。ただし、足下のレアル相場は米ドル安にも拘らず、金融政策以外の問題(X社のブラジル事業を巡る問題)を理由に再び調整の動きを強めている。今後は当局の動きを巡る不確実性が金融政策の手足を縛る可能性に留意する必要性が高まっている。

このところのブラジルでは、金融政策を巡って中銀とルラ政権の間で軋轢が生まれる状況が続いている。昨年1月に大統領への返り咲きを果たしたルラ大統領は、就任早々から景気回復の側面支援を求めて中銀に対して早期の利下げ実施を求めるとともに、総裁人事への介入も辞さない姿勢をみせるなど中銀の独立性に疑義を生じさせる動きをみせた(注1)。なお、中銀は当初ルラ政権のバラ撒き志向がインフレを招くことを警戒して慎重なスタンスを維持するも、昨年後半以降はインフレ鈍化が確認されたことを受けて一転して断続利下げに舵を切る動きをみせた。しかし、年明け以降の国際金融市場ではルラ政権の下での財政悪化に加え、米ドル高の再燃も追い風に通貨レアル相場が調整の動きを強めており、頭打ちしたインフレの再加速が懸念されたことを受けて、中銀は今年6月に利下げ局面を休止させている(注2)。こうした中銀による対応を受けて、その後のルラ大統領はカンポス=ネト総裁に対する『口撃』を一段と強めるとともに、後任人事をちらつかせることで再利下げを後押しすべく圧力を掛ける動きをみせた。他方、政府(財務省)は中銀が政権によるバラ撒き志向がインフレ再燃を招くことを警戒していることに対応して財政枠組の遵守を目的とする歳出削減に動く方針を示すとともに、ルラ大統領もこうした方針に従う姿勢をみせたため、金融市場ではレアル安の動きに変化が出る兆しがみられた。しかし、歳出削減により財政政策の機動性が低下することにより、金融市場では反って金融政策に対する圧力が強まる可能性が警戒されてレアル相場は再び調整の動きを強めたことを受けて、中銀は先月末の定例会合でも2会合連続で政策金利を据え置くなど慎重姿勢を維持する考えをみせている(注3)。その後のレアル相場は米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げを織り込んだ米ドル安を反映して底打ちに転じる動きをみせているが、中銀の独立性を巡る懸念が足かせとなる状況は変わっていない。こうしたなか、28日に年末に任期満了を迎える中銀のカンポス=ネト総裁の後任として、ルラ大統領は現在同行理事(金融政策担当)を務めるガリポロ氏を指名したことを明らかにしている。現在42歳のガリポロ氏は、サンパウロ州政府や投資銀行、シンクタンクでの勤務や大学で教鞭を取った後、ルラ政権の発足に伴い財務次官となったほか、昨年には金融政策担当の中銀理事に就任するなどルラ政権に近く、その背景に同氏がルラ大統領の有力顧問と近しいことが影響しているとされる。こうしたことから、金融市場においては早くからガリポロ氏が後任総裁の最有力候補と目されてきた。ガリポロ氏の金融政策の方向性を巡っては、今年5月に中銀が利下げ幅の縮小(50bp→25bp)を決定した際には50bpの利下げを主張するなど『ハト派』に傾いていたものの、直近2回の金利据え置き決定に際してはこれに合意するとともに、足下ではインフレ見通しに不確実性があることを理由に利上げの可能性に含みを持たせる考えをみせており、一転して『タカ派』に転じている様子もうかがえる。他方、ガリポロ氏の理事への指名を巡っては、カンポス=ネト氏の意向が働いたとの見方もあり、総裁交代を受けても政策運営の軸が大きく変わることはないとの見方もある。足下のインフレ率、コアインフレ率が加速に転じる動きをみせるとともに、このところのレアル安による輸入インフレの懸念がくすぶるなかでは慎重姿勢を維持する可能性が高まっていると判断できる。ただし、今月中旬以降のレアル相場は、ソーシャルメディアのX(旧ツイッター)社が当局によるコンテンツ規制を巡る対立(最高裁判事による事実上の『検閲命令』への反発)を理由に同国事業の閉鎖と従業員を解雇する方針を発表したことを機に調整しており、金融政策『以外』の問題での調整リスクがくすぶる。最高裁はX社に対して事業停止を求めるなど事実上の『脅迫』にも似た動きをみせており、金融市場がこうした当局の動きを巡る不確実性を警戒する展開が続くことにも引き続き留意する必要がある。

図1 レアル相場(対ドル)の推移
図1 レアル相場(対ドル)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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