OPECプラス、2024年末まで1年間の協調減産の枠組維持を決定

~サウジは7月に追加自主減産を決定するなど価格下支えに向けて一段の意欲をみせる~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は、欧米など主要国が頭打ちしているほか、底入れが期待された中国に早くも息切れ感が出るなど不透明感がくすぶる。主要産油国であるOPECプラスは昨年11月に日量200万バレルの協調減産を決定し、今年3月にはロシアが日量50万バレルの自主減産、先月にはサウジなど8ヶ国が日量約116万バレルの自主減産に動いた。こうした状況にも拘らず原油価格は上値の重い展開が続き、財政均衡水準が低いサウジはさらなる減産を主張する一方、ロシアなどは減産に後ろ向きの姿勢をみせてきた。4日に開催されたOPECプラスの閣僚会合前には協議難航が予想されたが、最終的に現状の協調減産と自主減産を来年末まで1年間延長することで合意した。また、サウジは7月に追加的に日量100万バレルの自主減産を行う。7月については夏場の需要拡大期である一方、OPECプラス全体で世界需要の4.5%相当が減産されるなど需給のひっ迫感が強まることが懸念される。その一方、世界経済の不透明感がくすぶる展開も見込まれるなど、当面の原油相場は市場の思惑に揺さぶられやすい環境が続くと予想される。

足下の世界経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復の動きをけん引してきた欧米など主要国では物価高と金利高の共存を受けて頭打ちの様相をみせているほか、昨年末以降のゼロコロナ終了により底入れが期待された中国経済に早くも息切れの兆しがうかがえるなど、全体的に勢いを欠く動きをみせている。ウクライナ情勢の悪化に伴う供給不安に加え、コロナ禍からの世界経済の回復に伴う需要拡大による需給ひっ迫懸念を受けて、昨年前半の国際原油価格は上振れしたものの、年末にかけては需給が緩和するとの見方を反映して一転して頭打ちの動きを強めてきた。よって、主要産油国の枠組であるOPECプラスは、原油価格の安定を目的に昨年11月から世界需要の2%に相当する日量200万バレル規模の協調減産に動いた(注1)。しかし、その後も国際原油価格は頭打ちする展開をみせたため、先月からはサウジアラビアが年末まで日量50万バレルの自主減産に動くとともに、OPECプラス全体として日量約116万バレルの自主減産を決定した(注2)。なお、OPECプラス内ではロシアが欧米などによるロシア産原油への価格上限設定に対抗して今年3月から自主的に日量50万バレルの自主減産に動いており(注3)、これらを併せると世界需要の3.7%に相当する日量約366万バレル相当が減産されてきた。一連の取り組みにも拘らず、上述のように世界経済を取り巻く不透明感が高まっていることを受けて国際原油価格は上値の重い展開が続いている。先月からの追加的な自主減産を主導したサウジアラビアにとっては財政均衡水準となる原油価格(今年は1バレル=80.7ドル)を下回る推移が続くなど価格下支えが急務となっている一方、サウジと歩調を併せる形で自主減産を決定したイラク(同75.8ドル)、UAE(同55.6ドル)、クウェート(同70.7ドル)などと直面する状況が異なるなど、さらなる減産の可否についてはOPECプラスのなかでも意見が割れている。さらに、3月に自主減産を決定したロシアを巡っては、その後も中国やインドなどを中心に積極的に同国産原油の輸入を拡大させるなど価格低下による悪影響を輸出量の拡大によって賄う状況が続いており、さらなる減産実施には後ろ向きの姿勢をみせるなどOPECプラスの枠内でも追加減産に対する見方が大きく割れた。よって、一部にはコロナ禍直後にロシアとサウジの意見対立を機にOPECプラスの枠組が瓦解した状況の二の舞を懸念する向きもみられた。こうしたなか、4日に開催されたOPECプラスの閣僚級会合では、現状の協調減産の枠組を来年末まで1年間延長することで合意する一方、サウジアラビアは7月に1ヶ月間限定で追加的に日量100万バレルの自主減産を行うことを決定した。また、サウジなどが先月から実施した自主減産(日量約116万バレル)に加え、ロシアが3月から実施している日量50万バレル相当の自主減産も来年末まで継続する方針も示されている。これにより来年1月から年末までの生産量の合計は日量4046.3万バレルとなり、昨年10月時点の合意(日量4185.6万バレル)から日量139.3万バレル減らされる。ただし、過去の投資不足の影響によりアフリカ諸国などでは生産目標の達成が困難な状況が続いていることを受けて、これらの国々における生産割当枠は実態に合わせる形で調整されており、枠内にくすぶる不公平感の解消に向けた取り組みも進められた。なお、この決定に伴い7月にはOPECプラス全体で世界需要の約4.5%に相当する日量約466万バレルが減産されるなど、夏場の需要拡大期に需給がひっ迫する可能性がある一方、世界経済を巡る不透明感もくすぶるなかで当面の原油価格は金融市場の思惑に揺さぶられる展開が続くと予想される。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ