OPEC プラスが予想外の追加減産決定、価格下支えの動きを強める

~米国の中東での影響力低下が一段と鮮明に、世界的な分断が一段と広がるリスクを孕んでいる~

西濵 徹

要旨
  • 2日、サウジアラビアが来月から年末までを対象に日量50万バレルの自主減産の決定を発表し、OPECプラスの国々も同様に自主減産に追随して日量約116万バレルに達するとされる。OPECプラス内では欧米などのロシア産原油への上限設定措置に対抗してロシアが3月から日量50万バレルの自主減産を実施しており、昨年11月からの協調減産を併せると世界需要の3.7%相当に達する。足下の世界経済は欧米などで頭打ちが懸念される一方、中国はゼロコロナ終了により底打ちするなど好悪双方の材料が混在する。他方、中東では米国の存在感低下の背後で中国が存在感を高めており、今回の決定に米バイデン政権は反発するが「のれんに腕押し」となろう。足下の世界では欧米などと中ロの分断が広がるなか、新興国で両陣営が影響力拡大を目指す動きをみせるが、今後も分断の動きが一段と広がるリスクを孕んでいると考えられる。

足下の世界経済を巡っては、商品高やコロナ禍からの景気回復を追い風とする物価高と、物価抑制を目的とする金融引き締めによる金利高の共存を受けて、欧米など主要国を中心に景気の頭打ちが意識される一方、中国では景気の足かせとなってきたゼロコロナの終了により一転底入れが期待されるなど、好悪双方の材料が混在する状況に直面している。昨年来の国際原油価格は、前半にはロシアのウクライナ侵攻をきっかけに欧米などが対ロ制裁を段階的に強化したことによる供給不安を理由に上振れしたものの、後半以降は世界経済の減速懸念が強まったことを受けて一転して頭打ちする動きをみせてきた。こうしたことから、ロシアを含む主要産油国の枠組であるOPECプラスは、昨年11月から原油価格の下支えを目的に日量200万バレルの協調減産を決定する動きをみせるとともに(注1)、その後もOPECプラスは原油価格の維持を目的に日量200万バレルの協調減産を継続する対応をみせてきた。しかし、先月の国際金融市場においては米国での銀行破たんをきっかけに動揺が広がる懸念が高まるとともに、実体経済に悪影響が出るとの警戒感が強まり、原油価格に一段と下押し圧力が掛かるなど調整の動きを強めてきた。他方、上述のように足下においては中国経済に底入れの動きが確認されており、一時は多くの中東産油国にとって財政均衡水準を下回る水準に低下した原油価格は再び底入れするなど持ち直しの動きをみせている。よって、OPECプラスは本日開催するオンライン閣僚会合において現状維持(日量200万バレル)を決定すると予想されていたものの、2日に枠内で最大の産油量を誇るサウジアラビアが5月から年末までを対象に自主的に日量50万バレルの減産を実施する方針を発表した。さらに、報道によると、OPECプラスに参加するイラク(日量21.1万バレル)、アラブ首長国連邦(同14.4万バレル)、クウェート(同12.8万バレル)なども自主的に減産するなど同調する動きをみせており、これらを合計すると日量約116万バレルに達するとされる。なお、ロシアは欧米などによるロシア産原油に対する上限設定措置に対抗して3月から自主的に日量50万バレル規模の減産を実施しており(注2)、この動きを併せるとOPECプラス全体では日量約366万バレルと世界需要の3.7%相当が減産される格好となる。この決定を受けて、米バイデン政権は早速異議を唱える動きをみせているものの、先月にサウジアラビアとイランが中国の仲介により外交関係の再開で電撃合意に至るなど、中東における米国の影響力低下が一段と鮮明になる動きもみられるなかでこうした動きは『のれんに腕押し』となる可能性は極めて高い。さらに、サウジアラビアは先月末に中国が主導する上海協力機構(SCO)に参加することを閣議了承しており、中国との関係強化を図る姿勢をみせており、米国の影響力は一段と低下することが避けられそうにない。他方、中東で急速に存在感を高める中国は、欧米などによるロシアへの制裁強化の裏側でロシアから割安での原油をはじめとするエネルギー資源の輸入を急拡大させるなど、原油の国際価格の上振れによる影響の軽減に向けた取り組みを進めており、今回の決定に対して静観する構えをみせると予想される。足下の世界情勢を巡っては、ロシアによるウクライナ侵攻の背後でロシアと中国が接近するなか、欧米などと中ロとの分断の動きが広がり、いわゆる『グローバルサウス』と呼ばれる新興国に対して両陣営が影響力を強めようと模索する動きがみられる。米国による中東への影響力低下は原油価格の高止まりを通じて多くの新興国にとってエネルギー価格の上昇によるインフレ圧力を招き、結果的に新興国のなかで米国からの離反の動きが加速する悪循環に繋がるなど、世界的な分断の動きが一段と加速するリスクを孕んでいると捉えられる。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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