アルゼンチン中銀、1ヶ月のうち3度目の利上げで政策金利は97%に

~インフレ収束の見通しは立たずペソ安も進むなか、外貨資金繰りへの懸念が高まる可能性も要注意~

西濵 徹

要旨
  • 14日、アルゼンチン政府と中銀は物価高と為替安への対応を目的とする包括対策の実施を発表した。中銀は翌15日付で政策金利を600bp引き上げて97%するほか、外為市場での介入強化や融資受け入れ交渉を加速させる考えを示す。中銀は今年3月に再利上げに舵を切り、先月にも追加利上げに動くも、その後もペソ安に歯止めが掛からないなかで先月末に緊急利上げに動いてきた。しかし、今年10月の次期大統領選を巡る不透明感がペソの信認低下を招いている。外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性が乏しく、外貨の資金繰りも厳しさを増すなか、同国が再びデフォルトに陥る可能性に注意が必要と言える。

ここ数年のアルゼンチン経済を巡っては、2018年の通貨ペソの暴落をきっかけとする経済危機に加え、2020年以降のコロナ禍も重なり深刻な景気減速に見舞われてきた。その後は感染一服による経済活動の正常化が図られるも、ラニーニャ現象に伴い3年連続となる歴史的大干ばつが直撃しており、電源構成の約3割を水力発電に依存するなかで火力発電の再稼働を余儀なくされており、昨年来の商品高も重なりエネルギー価格は上昇基調を強めている。さらに、商品高による食料品価格の上昇も重なり生活必需品を中心にインフレが加速するとともに、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安による輸入インフレも重なる事態に直面している。中銀は物価と為替の安定を目的に昨年1月以降、断続的、且つ大幅利上げに動いてきたが、昨年10月に米ドル高の一服やインフレ収束期待が高まったことを理由に利上げ局面を一旦休止させた。しかし、その後もインフレが一段と加速したことを受けて、中銀は今年3月に再利上げに舵を切るとともに(注1)、翌4月も追加利上げに動いたものの(注2)、ペソ安に歯止めが掛からない事態に直面したことで先月27日に緊急利上げを余儀なくされた(注3)。なお、同国では今年10月に次期大統領選と国民議会上下院総選挙が予定されているが、緊縮的な財政・金融政策を通じてIMF(国際通貨基金)やパリクラブ(主要債権国会議)との債務再編で合意し、IMFからの支援受け入れを前進させるなど経済の立て直しを進めてきた現職の(アルベルト)フェルナンデス大統領が先月末に出馬しない意向を示している(注4)。この決定を受けて、国際金融市場においては、次期大統領選に出馬しない意向を示すも、急進左派的な政策を志向するとともに、与党・正義党(ペロン党)内で隠然たる影響力を有する(クリスティーナ)フェルナンデス(デ・キルチネル)副大統領の意向を反映した人選が進むとの見方が広がっている。結果、中銀による断続利上げにも拘らずペソ安に歯止めが掛からない状況が続くとともに、直近4月のインフレ率は前年比+108.8%に一段と加速して収束の見通しが立たない状況に陥っている。こうした事態を受けて、政府と中銀は14日にペソ相場の安定を目的とする包括経済対策を発表し、中銀は翌15日付で政策金利を600bp引き上げて97.00%とした上で、外国為替市場での介入を強化するほか、IMFや新開発銀行(BRICS銀行)、中国、ブラジルなどと融資受け入れに向けた交渉を加速させる方針を明らかにしている。中銀は1ヶ月余りの間に計3回、累計1600bpもの利上げに追い込まれる事態となっているが、足下においてもペソ安に歯止めが掛からない状況が続いているほか、非公式の市場レート(ブルーレート)は公式レートに比べて5割程度安値で取引されるなどペソの信認は失墜する状況が続いている。足下の国際金融市場は米国での銀行破たんをきっかけに不透明感がくすぶる状況が続くなか、同国の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性は極めて低いと試算されるとともに、外貨の資金繰りも厳しい状況に直面している。次期大統領選に向けて歳出拡大圧力が強まる可能性もくすぶるなか、再びデフォルト(債務不履行)状態に陥る事態も警戒されよう。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 ペソ相場(対ドル)の推移
図 2 ペソ相場(対ドル)の推移

図 3 外貨準備高と適正水準評価(ARA)の推移
図 3 外貨準備高と適正水準評価(ARA)の推移

以上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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