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2023.03.17
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アルゼンチン中銀、インフレ率100%突破で利上げ局面再開へ
~選挙を前に政局争いの再燃も予想されるなか、政府・中銀には困難な対応が求められる展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- ここ数年のアルゼンチン経済はペソ暴落を契機とする経済危機やコロナ禍で大きく下振れしたが、足下ではマクロ面ではその影響を克服していると捉えられる。昨年にはパリクラブとの債務再編合意に加え、IMFからの支援受け入れも進むなど経済の立て直しは着実に進んでいる。しかし、大干ばつを理由にインフレが昂進するなか、2月のインフレ率は+102.5%と約30年ぶりに100%を突破している。中銀は昨年10月に利上げ局面を休止したが、インフレ昂進を理由に16日の定例会合で6ヶ月ぶりに利上げ再開を決定した。同国は今年10月に選挙を控えて政局争いの再燃も懸念され、政府は難しい対応を迫られる局面が続くであろう。
ここ数年のアルゼンチン経済を巡っては、2018年の通貨ペソ相場の暴落を契機とする経済危機に加え、2020年以降はコロナ禍を受けた幅広い経済活動への悪影響も重なり、実体経済は大きく下振れする事態に直面してきた。なお、同国では2019年の大統領選を経て誕生した左派のフェルナンデス政権の下、経済危機への対応を理由にマクリ前政権が受け入れを決定したIMF(国際通貨基金)からの支援を巡って債務再編交渉を前進させるなど、経済の混乱を受けて失墜した国際金融市場からの信認回復に取り組んできた。また、コロナ禍対応についても、感染一服により経済活動の正常化が図られるなど『ポスト・コロナ』に向けた動きが大きく前進しているほか、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きも追い風に景気は底入れしている。結果、昨年7-9月時点の実質GDPの水準はコロナ禍前を上回るとともに経済危機前の水準をも回復しており、マクロ的にはここ数年に亘る経済混乱の影響を克服していると捉えられる。他方、政権を支える与党の正義党(ペロン党)内では、中道左派で穏健な政策運営を志向するフェルナンデス大統領と、急進左派でIMFなどとの対立も厭わない(クリスティーナ)フェルナンデス(デ・キルチネル)副大統領(元大統領)との対立が政策運営の混乱を招く動きもみられた。しかし、政権は財政赤字目標を堅持する緊縮的な財政政策を維持し、中銀もこうした姿勢に歩調を併せて引き締め姿勢を堅持し、昨年10月にはパリクラブ(主要債権国会議)との間で約20億ドル相当の債務再編で合意しており、IMFも拡大信用供与措置(EFF)に基づき昨年10月に30億SDR(約39億ドル)、昨年12月には45億SDR(約60億ドル)の資金拠出で合意したほか、今月も40億SDR(約53億ドル)の資金拠出で実務者合意に至るなど経済の立て直しに向けた動きは着実に前進している。他方、同国では今年10月に次期大統領選と国民議会上下院総選挙の実施が予定されるなど『政治の季節』が近付いており、昨年末には労働組合や与党内の急進左派(フェルナンデス副大統領派)を中心に賃上げや失業手当の拡充を求めるデモが活発化し、政府は最低賃金の段階的引き上げに加え、企業に年末特別ボーナスの支給を義務付けるなどの対応を迫られた。上述したここ数年に亘る経済の混乱に加え、国際金融市場を取り巻く環境変化も重なり資金逃避に直面して通貨ペソ相場は調整の動きに歯止めが掛からない状況が続くなか、インフレ率は大きく上振れする展開が続いている。さらに、同国ではラニーニャ現象により2020年から3年連続で大干ばつに見舞われており、電源構成の約3割を水力発電に依存するなかで火力発電の再稼働を余儀なくされており、昨年はウクライナ問題を受けた世界的な原油・天然ガス価格の上振れも重なるとともに、穀物や食肉などの供給減少による需給ひっ迫も影響してインフレが一段と昂進してきた。政府はインフレ抑制を目的に小売価格の抑制などに動いたものの、昨年末以降の最低賃金引き上げや特別ボーナス支給の動きもインフレ要因となるなか、2月のインフレ率は前年比+102.5%と約30年ぶりに100%を突破する異常事態となっている。中銀は昨年1月以降、物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅な利上げ実施に動いてきたものの、昨年10月にはインフレ率が前月比ベースで鈍化するなど頭打ちの兆しが出たことを理由に利上げ局面の休止を決定し(注1)、その後は政策金利を据え置いてきた。この背景には、昨年末にかけて国際金融市場において米ドル高の動きが一服して新興国を取り巻くマネーフローを巡る環境が変化したことも影響したと考えられる。しかし、アルゼンチンペソ相場については調整が続くなど資金流出の動きに歯止めが掛からず、市場実勢(ブルーレート)は公定レートを大きく下回る水準で取引されるなどペソの信認回復にはほど遠い状況にあると判断出来る。こうしたなか、中銀が16日に開催した定例会合で政策金利を6ヶ月ぶりに政策金利を300bp引き上げて78.00%とする決定を行うなど利上げ局面の再開に舵を切っている。政府は今月初めに満期を迎える自国通貨建国債を保有する投資家を対象に新発債との交換に応じるプログラムを開始したことを明らかにしている。事実上の国債償還の『先送り』により当座の資金繰りに対する懸念払しょくに動いているものの、足下のような金利上昇局面においては将来負担の増大を招くリスクがある。昨年12月に有罪判決を受けたフェルナンデス副大統領はその後も職務を続けており(注2)、次期大統領選や国民議会上下院総選挙を巡って影響力を行使する展開も予想される。今年1月の隣国ブラジルとの首脳会談では両国の『共通通貨』の創設に向けて協議を開始することで合意したものの(注3)、上述のようにペソ安に歯止めが掛からないなかで協議が前進するとは見落としにくい。実体経済は持ち直しの動きをみせているものの、選挙の行方は極めて不透明である上、その結果如何では政策に大きな影響が出る可能性に注意する必要がある。



注1 2022年10月25日付レポート「アルゼンチン中銀、利上げ小休止も政治・経済両面で見通しは立たず」
注2 2022年12月12日付レポート「アルゼンチン・フェルナンデス副大統領に有罪判決、政治が経済の足を引っ張る展開は続くか」
注3 1月24日付レポート「ブラジルとアルゼンチンが「共通通貨」の創設に向けて協議開始」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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