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2024.05.02
アジア経済
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利下げ余地に言及したフィリピン中銀が直面する「内憂外患」とは
~生活必需品のインフレ、米ドル高によるペソ安に加え、中国による「経済的威圧」の影響にも懸念~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピンでは物価高と金利高の共存状態が長期化してきたが、商品高や米ドル高の一巡を受けてインフレは頭打ちに転じて足下では中銀目標の域内で推移する。一見インフレは収束しているが、足下では食料品やエネルギーなど生活必需品でインフレ圧力が強まる動きがみられる。中銀は先月の定例会合で政策金利を据え置く一方、先行きは外部環境如何で利下げ余地が生じるとの見方を示した。しかし、その後は米ドル一強の動きを反映してペソ安が進むなか、中銀内では政策運営に対する見方が割れる動きがみられる。足下のペソ安は米ドル高に加え、中国との関係悪化が経済的威圧を通じて景気に悪影響を与えることを警戒している可能性も考えられる。外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性は充分であり過度な悲観は不要と判断できるが、中銀にとってはペソ安定に向けて難しい対応を迫られる展開が続くであろう。
フィリピンでは、商品高や米ドル高に加え、コロナ禍からの経済活動の正常化の動きも重なりインフレが上振れしたことを受けて、中銀は物価と為替の安定を目的に累計450bpもの利上げに動いたものの、その後もインフレは高止まりする展開が続いて昨年1月には約14年ぶりの水準となるなど、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなることが懸念された。なお、一昨年末以降は商品高と米ドル高の動きが一巡したことを受けてその後のインフレは頭打ちに転じており、昨年末以降のインフレ率は中銀目標(2~4%)の範囲内で推移するなど一見すると落ち着きを取り戻している。しかし、昨年来のアジア新興国ではエルニーニョ現象など異常気象を理由とする生育不良を理由に穀物価格が上振れしており、穀物などを輸入に依存する同国にとっては食料インフレに繋がる事態に直面している。さらに、昨年以降の中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けて国際原油価格は底入れするなどエネルギー価格も上昇しており、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まるなど家計部門にとっては厳しい状況にあると捉えられる。こうしたなか、中銀は先月の定例会合において4会合連続で政策金利を据え置くとともに、先行きの政策運営を巡って利上げの可能性を排除した上で、環境如何で今年7-9月にも利下げが可能になるとの見方を示すなど、将来的な利下げに含みを持たせる考えをみせた(注1)。しかし、その後の国際金融市場は『米ドル一強』の様相を強めるなかで通貨ペソ相場は調整の動きを強めており(注2)、新興国のなかには通貨防衛の観点から利上げや為替介入を迫られる動きがみられるなど難しい状況に直面している。上述のように同国は食料品やエネルギーを輸入に依存しており、過度なペソ安は輸入インフレを招く懸念が極めて高いなか、中銀のレモロナ総裁はこのところの急速なペソ安を巡って「足下の状況はペソ安ではなく米ドル高の状況であり、不必要な動きや過度な変動を制御する準備は出来ている」との考えを示している。他方、政策委員のひとりであるレクト財務相は「政策運営はインフレ見通しに基づいて調整される」とした上で「ペソ安阻止を目的とする利上げを計画していない」と述べるなど、レモロナ総裁がペソ相場の安定に向けてすべての手段を排除しない考えを示すなかで意見が割れている。このところのペソ安については、国際金融市場における米ドル高が最大の要因となっていることは間違いないものの、同国の外交関係を巡る不透明感が高まっていることにも留意する必要がある。同国経済にとっては中国が最大の輸出相手となっているが、そのことは中国による『経済的威圧』に晒されやすいことを意味する。両国は南シナ海のスカボロー礁の領有権を巡って対立しており、中国が実効支配する展開が続く一方で2016年に常設仲裁裁判所は中国の領有権を否定するとともに、中国がフィリピンの漁業権を侵害しているとの判断を下している。ドゥテルテ前政権は中国との関係を重視する実利優先の観点から常設仲裁裁判所の判断を『棚上げ』する対応をみせてきたものの、一昨年に発足したマルコス現政権は対応を一変させるとともに対立が表面化する動きがみられる。このところは領域においてフィリピン沿岸警備隊の船舶に対して中国海警局の船舶が放水銃を発射するなど衝突する動きが顕在化しており、中国は対立する国への経済的威圧を繰り返してきたことを勘案すれば外需を取り巻く環境が急速に悪化する懸念がある。なお、足下の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を上回ると試算されるなど、足下のペソ安の動きは過度なものと捉えられる。しかし、米ドル高が意識されやすい環境が長期化することも予想されるなか、中銀はペソ相場の安定を目的に何らかの対応を迫られるなど困難に直面する展開がしばらく続くことは避けられないであろう。



以 上
注1 4月8日付レポート「フィリピン中銀、将来的な利下げに含みも当面は現行姿勢を維持か」
注2 4月15日付レポート「「米ドル一強」のなかで新興国経済はどうなるか?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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