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2022.04.01
アジア経済
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2022年の中国経済は出だしで躓いている模様
~1-3月の景気は踊り場の様相、政策支援に期待の一方、過度な動きは新たなリスク要因となる懸念~
西濵 徹
- 要旨
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- 今年の中国にとっては、秋の共産党大会で習近平指導部が3期入りを目指すなど政治的に重要であり、経済の安定が重視される。全人代では政策総動員による景気下支えを目指す姿勢が示されたが、足下ではコロナ禍の再燃によりロックダウンの動きが広がりをみせるなど、景気の不透明要因となっている。当局が堅持する「ゼロ・コロナ」戦略は企業マインドの重石となるなど、中国経済の雲行きは急速に怪しさを増している。
- 世界経済との連動性が高い3月の財新製造業PMIは48.1と2ヶ月ぶりに50を下回る水準に低下するなど景気減速が意識されている。減産の動きに加えて内・外需双方で受注動向も悪化しているほか、国際商品市況の上昇は企業部門のコスト増圧力となるなど、当局による「ゼロ・コロナ」戦略とウクライナ問題が足かせになっている。減産の動きにも拘らず雇用が底打ちする動きはみられるが、人手不足による人海戦術が影響している可能性があり、持続的な雇用回復がミクロ的な景気回復を促すかは不透明なところが依然多い。
- 1-3月平均でみると、政府統計、民間統計ともに一昨年半ば以降のコロナ禍からの回復局面で最も低い水準となるなど景気は踊り場の様相を強めている。今年は成長率目標を5.5%前後に引き下げたが、そのハードルは高く、過度な政策支援は新たな問題を生む元凶となるリスクもあるなど、難しい対応が続くであろう。
今年の中国を巡っては、秋に開催予定の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)を控える上、同大会で習近平指導部は異例の3期目入りを目指すなど政治的に重要な時期を迎えており、経済の安定が何より重視される動きがみられる。先月開催された全人代(第13期全国人民代表大会第5回全体会議)においても、財政及び金融政策の強化を通じて景気下支えを図るとともに、習近平指導部が掲げる『共同富裕』の実現を目指す方針を示すなど、経済の安定を優先していることを改めて強調する動きがみられた(注1)。一昨年来の世界経済の混乱要因となっているコロナ禍を巡っては、中国は当初における感染拡大の中心地となるとともに深刻な景気減速に見舞われたものの、当局による『ゼロ・コロナ』戦略を通じた封じ込めも追い風に、マクロ面では比較的早期に克服が図られる動きがみられた。しかし、当局はその後も『ゼロ・コロナ』戦略を堅持しており、昨年以降も散発的に感染が再拡大する動きが確認されたため、局所的にロックダウン(都市封鎖)が実施される展開が続いてきた。さらに、当局の『ゼロ・コロナ』戦略による徹底した検査実施と行動制限の実施は、経済活動の足かせになることで景気に冷や水を浴びせるとともに、雇用回復の遅れは家計部門の重石となるなど、ミクロ面では景気回復の恩恵が届きにくい状況が続いている。こうしたなか、昨年末には陝西省西安市で全土を対象とするロックダウンが実施されたほか、2月以降は香港が感染爆発状態に見舞われたこともあり、隣接する広東省深圳市に感染が広がり、先月半ばには深圳市で事実上のロックダウンが実施された。その後も中国有数の鉄鋼生産地である河北省唐山市もロックダウンを実施しているほか、先月28日からは上海市で市内を2地区に分ける形で時期をずらしてロックダウンを実施するなど、主要都市において感染動向が急速に悪化する動きがみられる。このようにコロナ禍の影響が再燃する一方、当局による『ゼロ・コロナ』戦略に伴う行動制限は幅広く企業マインドに悪影響を与える動きが確認されるなど、中国経済の雲行きは急速に怪しさを増している(注2)。
政府統計に基づけば、3月は製造業、非製造業ともに好不況の分かれ目となる水準を下回るなど、景気減速を示唆する動きが確認されている。一方、世界経済との連動性を巡っては、調査対象の企業に占める沿海部の企業の割合の高さを理由に民間統計(財新PMI(購買担当者景況感))の方が高いとされるなか、英調査会社のIHS Markit社が公表した3月の財新製造業PMIは48.1と前月(50.4)から▲2.3pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回る水準となっている。足下の生産動向を示す「生産(46.4)」は前月比▲3.7pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回るなど減産の動きが強まっているほか、先行きの生産に影響を与える「新規受注(45.4)」も同▲6.1pt、「輸出向け新規受注(44.5)」も同▲3.8pt低下しており、内・外需双方で受注動向に大きく下押し圧力が掛かっている様子がうかがえる。国内外で需要に下押し圧力が掛かっていることを反映して「完成品在庫(49.2)」は前月比+1.6pt上昇するなど在庫が積み上がる動きが確認出来るものの、依然として50を下回る水準を維持するなど在庫復元余力は残っている。また、ウクライナ問題の激化による原油や穀物をはじめとする国際商品市況の上昇を受けて「投入価格(57.7)」は前月比+3.1pt上昇するなど、企業部門における物価上昇圧力が強まる動きがみられる。その一方、当局は商品価格への転嫁を事実上禁止するなかで「出荷価格(53.3)」は前月比+0.2ptとわずかな上昇に留まるなど、輸出財にのみ価格転嫁が可能な状況を反映した動きもみられる。ウクライナ問題の行方は依然として不透明な状況が続いており、国際商品市況の高止まりが懸念されるなかで企業業績の圧迫要因となることは避けられそうにない。このようにマイナス材料は山積しているものの、「雇用(50.3)」は前月比+1.8pt上昇して8ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど雇用拡大に向けた動きがみられる。この背景には、当局による『ゼロ・コロナ』戦略の堅持に伴い人手不足や物流の混乱が顕在化しており、事態打開に向けて企業が人海戦術に打って出ている可能性が考えられる。その意味では、足下における雇用拡大の動きが持続的なものとなるかは不透明であり、ミクロ面でも景気回復の動きが進むかは見通しが立たないと判断出来る。
政府統計の総合PMIの動きをみると、1-3月の平均値は50.3と50を上回る水準を維持するものの、一昨年半ば以降のコロナ禍からの回復局面では最も低い水準となっており、昨年の中国景気は踊り場の様相を呈する動きが続いてきたものの、一段と弱含んでいると見込まれる。財新製造業PMIについても1-3月は49.2と昨年7-9月(49.8)以来2四半期ぶりに50を下回ったと試算されるほか、その水準そのものも一昨年来のコロナ禍からの回復局面で最も低いものとなるなど、景気に下押し圧力が掛かっている様子がうかがえる。上述のように、中国当局は全人代において政策総動員による景気下支えを図る姿勢をみせている上、足下では早期の経済安定化策の導入を目指すとの考えも示しており、政策対応の強化に動く可能性は高いと見込まれる。ただし、全人代においては今年の経済成長率目標(5.5%前後)を一段と引き下げているものの、昨年は統計上大幅なプラスのゲタが生じるなど比較的容易に高い成長率を実現することが可能であったのに対して、今年はゲタのプラス幅は大きく縮小しており、その実現のハードルは決して低くないのが実情である。1-3月の景気の躓きが懸念される状況はそのハードルを一段と高くしているとみられる一方、過度な政策支援は再び債務問題や経済格差などの問題に注目が集まる要因となるなど、政策運営は困難な展開が続くことが避けられないであろう。
注1 3月7日付レポート「2022年全人代開幕、中国政府はなによりも「経済の安定」を重視」
注2 3月31日付レポート「「ゼロ・コロナ」戦略の弊害が一段と露わになる中国経済」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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