OPECプラスは2022年4月も現状維持、ウクライナ問題にも沈黙

~ロシアとの協力体制も影響してOPECプラスはウクライナ問題に沈黙する対応をみせている~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済はオミクロン株による感染拡大の懸念がある一方、欧米など主要国の「ウィズ・コロナ」戦略も追い風に緩やかな拡大が続いている。OPECプラスは昨年来協調減産の段階的縮小に動いているが、世界経済の回復が進むなかで需給ひっ迫が意識されて国際原油価格は上昇してきた。先月以降のウクライナ情勢の悪化はロシアからの供給不安を招いた結果、足下のWTIは「1バレル=110ドル」を突破している。
  • OPECプラスはウクライナ問題の当事国であるロシアを含むなかで協調減産の段階的縮小が既定路線となる一方、閣僚級会合を前にIEAは需給安定を目的に緊急備蓄の放出を決定した。他方、OPECプラスは需給タイト化の認識を共有するも、4月も日量40万バレルの協調減産縮小で合意した。ウクライナ問題にも沈黙する動きをみせており、当面の国際原油価格は需給ひっ迫懸念から一段と上振れする可能性もあろう。

足下の世界経済は、昨年末に南アフリカで確認されたオミクロン株による新型コロナウイルス(SARSCoV-2)の感染再拡大の動きが全世界的に広がりをみせるなど、引き続き新型コロナ禍に揺さぶられる展開が続いている。なお、オミクロン株を巡っては感染力が他の変異株に比べて極めて高い一方、陽性者の大宗を無症状者や軽症者が占めるなど重症化率が低いとみられ、欧米など主要国を中心にワクチン接種が進んでいることを理由に、ワクチン接種を前提に経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』戦略が維持されている。結果、感染再拡大による世界的なサプライチェーンの再混乱が懸念されたものの、世界貿易の動向と連動しやすい製造業の企業マインドは底堅い動きをみせるなど、世界経済は緩やかな拡大を続けていると捉えられる。他方、一昨年に石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど一部の非加盟国による枠組(OPECプラス)は新型コロナ禍対応を目的に過去最大の協調減産を実施するも、その後の世界経済の回復に伴う原油需要の底入れを受けて、昨年以降は協調減産を段階的に縮小させてきた。なお、欧米など主要国を中心に世界経済は比較的早期に回復を果たして原油需要の底入れが進む一方、OPECプラスは協調減産の段階的縮小を小幅に進めたことで需給ひっ迫が意識される展開が続いており、国際原油価格は上昇ペースを強めた。国際原油価格の急上昇は世界経済に冷や水を浴びせることが懸念されるなか、米国など主要原油消費国はOPECプラスに対して増産を要求する動きをみせてきたものの、OPECプラスは慎重姿勢を崩さなかった。この背景には、過去の国際原油価格の上昇局面では米国内でシェール・オイル及びシェール・ガスの生産が急増して価格安定の混乱要因になってきたほか、全世界的に『脱炭素』の動きが広がるなかで化石燃料関連投資が先細りしており、OPECプラスの枠内でも生産能力が低下していることも影響している。事実、OPECプラスによる生産動向は目標と乖離する展開が続いており、ナイジェリアやアンゴラなどアフリカ諸国における投資不足や電力不足などが生産活動のボトルネックとなる状況が続いている。他方、米国は日本や英国、中国、インド、韓国と協調して戦略原油備蓄の放出に動く安どの対応をみせたものの、世界経済の回復が続くなかで『焼け石に水』の状況となっている。こうしたなか、先月にロシアがウクライナへの全面侵攻に動いたことを受け、欧米諸国はロシアの一部銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除するとともに、ロシア中央銀行への制裁を決定する事態に発展している(注1)。さらに、ウクライナ問題の深刻化や欧米諸国とロシアの対立激化を受けて、世界有数の産油国であるロシアからの原油及び天然ガス供給が細り、需給のひっ迫感が一段と強まるとの懸念を反映して、国際的な原油価格の指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)は「1ドル=110ドル」を突破するなど急進している。

図 1 グローバル製造業 PMI の推移
図 1 グローバル製造業 PMI の推移

図 2 国際原油価格(WTI)の推移
図 2 国際原油価格(WTI)の推移

ただし、OPECプラスにはウクライナ問題の当事国であるロシアが含まれており、ウクライナ問題の深刻化が懸念されるなかで国際原油価格が上振れしてきたものの、今月の協調減産の縮小を巡ってはそれまでの段階的縮小(日量40万バレルの協調減産縮小)が既定路線となってきた(注2)。なお、4月の協調減産枠を協議するOPECプラスの閣僚級会合の前には、ウクライナ問題の激化や国際原油価格の急進を受けてIEA(国際エネルギー委員会)が臨時会合を開催し、IEA加盟国が供給不安に対応することを目的に協調して6000万バレル規模の緊急備蓄を放出することで合意している。IEAによる緊急備蓄の協調放出の決定は、2011年にリビア情勢が悪化したことをきっかけとする世界的な原油供給懸念への対応以来となるが、当時のリビアと現在のロシアの世界の原油生産に占める割合の違いを勘案すれば、今回の対応が状況を大きく変えるものとはなり得ない。他方、閣僚級会合の前に開催された合同専門委員会(JTC)及び合同閣僚監視委員会(JMMC)においては、今年の供給過剰見通しが日量110万バレルと従来見通し(同130万バレル)から引き下げられたほか、今年末における先進国の原油在庫が2015~19年平均に対して6200万バレル下回ると従来見通し(2000万バレル上回る)から下方修正された模様である。こうした見方が共有されたものの、報道によると2日の閣僚級会合は約15分で終了するなど過去最短なものとなるとともに、4月の協調減産枠について日量40万バレルの縮小という『現状維持』の方針で合意された。会合においてはウクライナ問題に関する直接的な言及はなされず、会合後に公表された声明文では「現在確認されている変動は市場のファンダメンタルズに拠るものではなく、地政学的な動きに拠るもの」と表記するに留められた。OPECプラスの議論を主導するサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)は伝統的に米国と関係が深い一方、OPECプラスによる協調体制の構築を巡ってロシアとの協力を深めてきた経緯がある。こうしたことは、ロシアによるウクライナ侵攻に対する国連安保理決議を巡って、議長国であるUAEが『棄権』に動くなど沈黙していることにも現れている。ウクライナ問題を巡る行方は見通せない状況が続くなか、ロシアからの供給不安も理由に当面の国際原油価格は需給ひっ迫が意識されやすい展開が予想され、一段と上振れすることにより回復が続く世界経済に冷や水を浴びせることが懸念される。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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