(続)祖父母孫関係の行方

~高齢者の情報通信機器利用で世代間ギャップは縮小するか~

北村 安樹子

目次

1.メディア利用と世代間ギャップ

子どもたちに人気のアニメや若者に影響力をもつYouTuberを、親や祖父母が全く知らないという現象は今の時代によくあることだ。このような現象はいつの時代にもみられるが、スマートフォンをはじめとする様々な情報通信機器がこれほど広がっているなかでも、世代によって利用する機器や、インターネット・テレビ・新聞・ラジオなどのメディアの使い方が異なることが、このような現象に関連しているのではないだろうか。

5月末に公表された「通信利用動向調査」によると、インターネットを利用する人は60代までは8割を超えるが、70代では6割弱、80代では3割弱となっている(図表1)。また、インターネットを利用する機器やその利用方法も多様化しており、様々な機器やコミュニケーションツールを併用する人がいる一方で、それらの利用にあまり積極的でない人もいる。各種メディアや動画共有・配信サービス、コミュニケーションツールなど、同じ屋根の下で暮らす家族の間でも、テレビを含め機器利用や視聴・利用行動の個別化が進んでいると考えられる。

図表 1 インターネットの利用状況と主な利用機器(年齢階層別)<複数回答>
図表 1 インターネットの利用状況と主な利用機器(年齢階層別)<複数回答>

2.情報通信機器が世代・時代をつなぐ可能性

一方で、情報通信機器を利用するシニア世代が増えていくことは、子世代や孫世代が共有する若い世代の文化やライフスタイルをめぐる世代間ギャップを減らす場合もあると考えられる。

少し前のデータになるが、2014年に当研究所が行った調査によると、孫のいるシニア世代の多くが「孫を通じて新たな情報や考え方を知ることがある」と答えている(図表2)。シニア世代には、孫だけでなく、娘や息子の話から若い世代の日常を知り驚く機会がある人もいるだろう。そのような若い世代の日常や新たな考え方を、テレビやラジオ、新聞・雑誌等の既存のメディアに加え、最近では、WebサイトやSNSを通じて知る経験をしたシニアも多いのではないだろうか。

いつの時代も、既成概念にとらわれることのない若い世代の新たな感性に触れることは、年長者が自分とは異なる情報や価値観を知ることにつながる。また、これとは逆に若い世代の方も、情報通信機器・メディアを介して得る知識・情報から、年長世代が過ごしてきた時代の社会状況やライフスタイルを知り、自身との違いや以前の文化に新たな価値を感じることもあるだろう。

図表 2 「孫を通じて新たな情報や考え方を知ることがある」
図表 2 「孫を通じて新たな情報や考え方を知ることがある」

3.祖父母孫関係の行方~高齢者の情報通信機器利用で世代間ギャップは縮小するか~

シニア世代のなかにも、仕事等を通じて多様な情報通信機器を若者以上に使いこなす人はいるなど、機器の保有・利用状況には世代差以外の多様な要因もかかわっている。このため、冒頭の例も厳密には世代間ギャップとは言えず、機器・メディアの利用方法やそれらを介して得る情報に同じようなギャップを感じることは、同世代の友人や夫婦の間でもあるだろう。だが、利用する機器・メディアやそれらの利用方法は異なっても、見聞きした情報について話す機会が増えれば、互いの認識への気づきや理解が生まれるのではないだろうか。

近年ではシニア世代における老後の子や孫とのつき合い方に関する意識で、子世代の生活を尊重しながら、程よい距離感での交流を志向する人が多数派を占めるようになっている(注1)。60代以降の人生が長期化し、「老後」を迎える時期が多様化するなか、情報通信機器を利用して様々な行動を行うシニア世代の増加は、世代間ギャップを伴いながらも、高齢期の暮らしの自立度を高めると考えられる。現状では「ときどき会って食事や会話をするのがよい」とする人が最も多い子や孫との関係についても、情報通信機器を利用することにより、必要時の連絡や支援を行いやすくなるだろう。また、いつも一緒に生活する関係ではなくても、情報通信機器やメディアを通じて知る様々な世代間ギャップが、直接会う機会や対面で過ごす時間のコミュニケーションを豊かなものにして、異なる世代への理解が深まる場合もあるのではないだろうか。


【注釈】

  1. 内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」。施設入所者を除く60歳以上の男女を対象とする直近の調査では、老後における子どもや孫とのつきあいに関し「子どもや孫とは、いつも一緒に生活できるのがよい」(18.8%)、「子どもや孫とは、ときどき会って食事や会話をするのがよい」(56.8%)、「子どもや孫とは、たまに会話をする程度でよい」(10.4%)、「子どもや孫とは、全くつき合わずに生活するのがよい」(0.7%)、「わからない」(8.8%)、無回答(4.5%)となっている。

【関連レポート】

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  2. 北村安樹子「暮らしの視点(8):親子の「程よい距離感」への新たな志向~リアルの「近さ」がもたらす安心と自立のバランス~」2021年4月
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  4. 北村安樹子「デジタルコミュニケーションの光と影~家族をつなぎ、支えるが、遠ざけることも~」2022年3月
  5. 北村安樹子「祖父母孫関係の行方~情報通信機器は、祖父母と孫を直接つなぐツールとなるのか~」2022年6月

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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