ポジティブ思考という健康面の心がけ

~シニア世代が「気持ちを明るく持つ」ことの効果~

北村 安樹子

目次

1.日本のシニア世代が健康について心がけていること

一般に、健康面の心がけというと、睡眠時間の確保や生活の規則正しさ、食生活や運動面といった基本的な生活習慣にかかわることを思い浮かべる人が多いだろう。

実際、内閣府が行っている意識調査によると、日本の60歳以上の男女が健康について心がけていることとして、「休養や睡眠を十分とる」「規則正しい生活を送る」「栄養のバランスがとれた食事をする」「散歩や運動をする」といった項目は、いずれも上位に挙げられている(図表1)。また、「健康診断などを定期的に受ける」も、これらに次いで多い。休養・睡眠の量や生活リズム、栄養バランスや運動などの面で自発的な取り組みを行いながら、健康診断を通じて病気の早期発見や予防に努めている人も多い。

図表1 60歳以上の男女が健康について心がけていること(全体、性・世帯形態別)<複数回答>
図表1 60歳以上の男女が健康について心がけていること(全体、性・世帯形態別)<複数回答>

2.単身シニア女性が意識するポジティブ思考

男女差に注目した場合、このなかでは「栄養のバランスがとれた食事をする」(男性51.6%、女性64.4%)と、「気持ちをなるべく明るく持つ」(男性33.3%、女性48.6%)の2項目で特に差が大きく、いずれも男性で意識する人が少ない。男性に比べ女性は日ごろから美容や体重管理への関心が高く、自身や家族の食事を準備・購入する機会が多いため、食事の栄養バランスについての関心も高いと考えられる。また、ふだんから自身の心身の健康状態や、それらの変化に意識的である人が男性に比べ多いと考えられることも、このような男女差に関連しているのだろう。

サンプル数は限られるが、性・世帯形態別にみた場合、単身シニア男性では「気持ちをなるべく明るく持つ」(28.8%)を挙げた人がさらに少なく、単身シニア女性(59.6%)との差も大きい。単身シニア女性には、「細かいことでくよくよしない」「自分の感情を否定しない」「日常の小さな出来事に幸せを感じたり感謝したりする」など、ふだんの身近な出来事に前向きな考え方を心がけることが、自身の健康によい影響をもたらすと感じている人が多いのではないか。

3.「気持ちを明るく持つ」ことが、前向きで主体的な対処につながる

先の調査によると、日本のシニア世代が「気持ちをなるべく明るく持つ」を挙げる割合は他国と比べても低い傾向にあり、単身のシニア男性では特に低い(図表2)。

心身の健康は相互に関連するといわれるが、日本のシニア世代は身体面にかかわる基本的な生活習慣に比べ、気持ちの持ち方を意識している人は少ない。ライフスタイルや価値観・文化、生活環境等の違いはあるものの、このように心がけることで、健康につながる他の行動へのモチベーションが強まるなど、よい影響をもたらす場合もあるだろう。

高齢期には、自身や家族のけがや病気、家族や友人・知人との死別など、ショッキングな出来事を経験する機会が増える。健康的な生活を心がけていても、加齢とともに疲れを感じやすくなることや、けがや病気の回復に時間がかかるなどの変化を避けられない。家族のために自分ができることが減ったように感じられて、つらい思いをすることもあるだろう。「気持ちをなるべく明るく持つ」ことは、そのようなネガティブな気持ちを前向きな行動に切り替えて、自身の心身のコンディションを能動的に改善できるのではないか。また、そのようなポジティブ思考は、心身の変化やさまざまな出来事に対する前向きで主体的な対処につながるだろう。

図表2 60歳以上の単身世帯男女が健康について心がけていること
図表2 60歳以上の単身世帯男女が健康について心がけていること

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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