いまどきの「結婚の目的・意義」

~分担にこだわらない柔軟な「経済・家事の助け合い」を~

北村 安樹子

目次

婚外子の少ない日本では結婚しない人の増加が少子化につながると指摘されているが、近年、生きがいとなるような趣味やライフワークをもつ独身者の増加(注1)や、おひとり様、ソロ生活者(荒川、2017)などと呼ばれるライフスタイルも注目されている。

このようななか、人々は結婚にどのような意識を抱いているのだろうか。本稿では、結婚の目的・意義に関する意識調査の結果から、どの世代にも共通する結婚への意識と、性別や年代によって異なる意識について考察する。

1.結婚の目的、最多は「心安らぐ家庭を築く」

内閣府が2021年に行った調査から結婚の目的・意義に関する人々の考え方をみると、回答者全体で最も多く挙げられたのは「心安らげる場所である家庭を築くこと」(71.2%)で、「愛するパートナーと生涯を共に過ごすこと」(64.8%)がこれに続いた(図表1)。「二人の間に子どもをもうけて育てること」(42.2%)、「二人が経済面や家事の分担で助け合って生活すること」(41.0%)、「親や周囲を安心させること」(24.0%)、「付き合ってきたけじめをつけること」(7.0%)なども挙げられているが、上位2項目に比べるとかなり低い。家族の形や、家計・家事に関する多様な実

図表1 結婚の目的・意義(全体)<複数回答>
図表1 結婚の目的・意義(全体)<複数回答>

態が広がるなかで、心理的安寧や生涯を共に過ごすなど、生活の場や時間を共にすることを結婚の目的・意義だと考える人が多い結果となっている。

2.女性では「パートナーと生涯を共に過ごす」が年齢とともに減少

心安らげる家庭を築くことや、パートナーと生涯を共に過ごすことを挙げる傾向はどの世代にも共通すると思われるかもしれない。しかしながら、男性では年齢を重ねても両者にそれほど大きな差がみられないのに対し、女性は年齢とともに後者が低くなる傾向にある(図表2)。

このような意識には、男女の寿命の違いも関連すると思われる。一般的に女性の方が男性よりも長生きをする。このため、男性は人生の最後まで夫婦が生涯を共に過ごすことを結婚の目的・意義だと考えやすい。これに対して、女性は結婚しても将来夫に先立たれる立場になりやすい。前者を挙げる割合は男女とも年齢とともに高まるが、自分の方が長く生きることが多い女性は老後を最後まで夫と過ごすのは難しいと、家庭や老後のイメージに現実的な考えをもつようになるようだ。

図表2 (性別・年代別)
図表2 (性別・年代別)

3.ミドル期で大きい「経済・家事の助け合い」の男女差

また、上位2項目に比べると大幅に低いものの、50~60代の男性では「二人が経済面や家事の分担で助け合って生活すること」を挙げる割合が、女性や40代以下の男性に比べ低くなっている(図表3)。この世代の男性には、自身の収入を中心に生活設計を行ってきた人・想定する人が多く、経済面での協力や家事の分担による助け合いを結婚の目的・意義とは考えない人が多いのだろう。一方、女性には家計の運営や自身の就労を通じて、経済面や家事を夫婦で協力することの重要性を感じてきた人が多いために、それを結婚の目的・意義に挙げる人が多いと思われる。

このような意識のギャップが、高齢期に描く家庭像や、配偶者と生涯を共に過ごすことへの意識の男女差につながっているのだろう。ただ、70歳以上の男性が「二人が経済面や家事の分担で助け合って生活すること」を挙げる割合は、50~60代に比べ大幅に高い。仕事をリタイアしたことで、老後の生活資金をめぐる経済面での協力や早期からの備え、家事の面での協力の重要性を改めて実感した男性が多いからではないか。

図表3 (性別・年代別)
図表3 (性別・年代別)

4.若い世代で高い「経済・家事の助け合い」~「助け合い」の多様な形へ~

また、前出の図表3によると、40代以下で「二人が経済面や家事の分担で助け合って生活すること」を挙げる割合の男女差は50~60代に比べ小さく、男性も女性に近い割合となっている。若い世代は女性の就労継続を想定したライフデザインを描いているため、男性の収入を中心に生活設計を行ってきた上の世代に比べると、この点を目的・意義と考える人が多いようだ。

なお、「二人の間に子どもをもうけて育てること」を挙げる割合は、どの世代でも女性に比べ男性で高い。自身が出産の当事者となる女性は、経済・家事の協力をより慎重に考え、結婚を選択しても子どもをもたない生き方や、子どもをもつことや子育てをする人生を望んでもかなわない場合があることに、男性よりも現実的な考えをもっていると考えられる。

以上のように、心安らげる場所としての家庭像を築くことを結婚の目的・意義と考える人はどの世代にも共通して多い一方、生涯にわたるパートナーとの関係性や経済・家事の助け合い、子どもをもつこと・育てていくことに対する考え方には年代・男女で違いがみられる。このようななか、国立社会保障・人口問題研究所が2021年3月に行った調査では、独身女性の理想のライフコースとして、結婚し、子どもをもつが、仕事も続ける「両立コース」を挙げる人が初めて最も多くなった(注2)。また、独身男性がパートナーとなる女性に「両立コース」を望む割合は、女性が希望する割合を上回っている。

ただ、「両立コース」といっても、現実の経済・家事の協力には多様な形がある。経済面では、各々の仕事やキャリアプランを尊重しながら、互いの働き方を工夫することが求められる。家事に関しては、分担や既成概念にとらわれ過ぎず、合理化や省力化の許容度を高め、メリハリや柔軟性のある対応も必要だ。

冒頭指摘したように、生きがいとなるような趣味・ライフワークをもつシングルの生き方も広がるなかにあって、これからの時代は、安らぎを求めるだけではなく、従来以上に相手の生き方を尊重して支え合うことが結婚の目的・意義となっていくであろう。

【注釈】

  1. 国立社会保障・人口問題研究所「2021年社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)現代日本の結婚と出産-第16回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書-」2023年8月。独身者調査の結果によれば、「生きがいとなるような趣味やライフワークをもっている」に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と答えた人の合計割合は男性が67.0%、女性が63.7%で、回答者全体では増加傾向にある(「独身者調査の対象は18~34歳の未婚男女。調査時期は2021年6月。

  2. 上記調査の結果。回答の選択肢には、「非婚就業コース」:結婚せず、仕事を続ける、「DINKsコース」:結婚するが子どもはもたず、仕事も続ける(DINKsはDouble Income No Kidsの略で、共働きで子どもを意図的にもたない夫婦のこと)、「両立コース」:結婚し、子どもをもつが、仕事も続ける、「再就職コース」:結婚し子どもをもつが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事をもつ、「専業主婦コース」:結婚し子どもをもち、結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事をもたない、その他がある。

【参考文献】

  1. 荒川和久「超ソロ社会「独身大国・日本」の衝撃」PHP研究所、2017年1月

【関連レポート】

  1. 北村安樹子「暮らしの視点(27):独身男女が希望するライフコースの変化~男女の双方で「両立コース」が最多に~」2023年4月

  2. 北村安樹子「暮らしの視点(28):「結婚」をめぐる意識の変化を考える~独身男女の双方で「いずれ結婚するつもり」の人が減少~」20

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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