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Well-being LDの視点『男性の育児休業取得促進に向けた3つの課題』

的場 康子

目次

2023年の出生数75万8,631人 過去最少を記録

厚生労働省は2024年2月、出生数が8年連続で減少し、758,631人と過去最少を記録したことを発表した(「人口動態統計速報(令和5年(2023)12月分)」)。

少子化に歯止めがかからないのは、未婚化、晩婚化、価値観の多様化、子育て・教育の経済的負担や仕事と育児の両立不安など、様々な要因が複雑に絡み合っているためである。

これまでも様々な少子化対策が講じられてきたが、今、特に注目すべきは、家事や育児負担の女性への偏りを是正することである。夫婦で協力して育児を担い、それを企業含め、社会全体で支え、男女ともに自分らしく働き、生きることができるような社会の実現が、少子化を止める重要なカギを握っていると思われる。本稿では、そのための取組みの1つである、男性の育児休業に注目し、その促進のための課題を考える。

男性の育児休業取得率 2030年の目標は85%

育児・介護休業法の改正により、2022年4月から従業員に対する育児休業制度の周知及び休業取得意向の確認が企業に義務づけられ、同年10月からは男性に育児参加を促す「産後パパ育休」(出生時育児休業)の制度が開始された。

このような取組みにより、2022年度の男性の育児休業取得率は17.13%と過去最高となった(資料1)。

さらに2023年4月から、従業員が1,000人を超える企業には男性の育児休業の取得状況などを年1回公表するよう義務付けられ、厚生労働省の両立支援サイトや各企業のホームページで開示されるようになっている。

ただ、政府は男性の育休取得率の目標を2025年までに50%、2030年までには85%に引き上げるとしており、目標達成までには大きな開きがある(こども未来戦略会議「こども未来戦略方針」2023年6月)。

資料1 男性の育児休業取得率の推移
資料1 男性の育児休業取得率の推移

男性も育児参加した方がよいと思っている

実際、男性は育児参加することについてどのように思っているだろうか。男性の意識をみると、「積極的に参加した方がよい」と思っている人が企業規模にかかわらず多数を占めている(資料2)。男性の多くも積極的に育児参加をした方がよいと思っている。ただし、企業規模別にみると、企業規模が小さいほど「積極的に参加した方がよい」の割合が低く、「仕事に支障のない範囲で参加した方がよい」の割合が高い傾向がみられる。小規模企業には、人手不足などから職場に影響が出ることをおそれて育児参加を躊躇う男性も少なくないことがうかがえる。

資料2 男性が育児に参加することについて (男性の回答・企業規模別)
資料2 男性が育児に参加することについて (男性の回答・企業規模別)

男性の育児休業を支える職場環境づくり

男性の育児参加を可能とするための方策の1つが育児休業の取得促進である。今後、男性の育児休業の取得促進のためには何が必要か。

育児休業取得に当たっての課題を男性にたずねた結果によると、「代替要員の確保が困難」が企業規模を問わず最も多い(資料3)。育児休業を取得した従業員の業務をカバーする職場体制づくりが第1の課題である。

欠員による職場の業務負担を軽減するための方策は、業務の削減や効率化ばかりではない。たとえば、欠員を補うための代替要員として「社内副業」を募るなど、広く社内人材を活用することが考えられる。また、特定の業務で社外から副業人材を一時的に補う方法もあるだろう。厚生労働省の「両立支援等助成金」も活用できる。社内外の様々な資源を活用し、誰もが育児休業を取得しやすい環境づくりの工夫が求められる。

資料3 男性従業員が育児休業を取得するに当たっての課題<複数回答>(男性の回答・企業規模別)
資料3 男性従業員が育児休業を取得するに当たっての課題<複数回答>(男性の回答・企業規模別)

育児経験を含めキャリアを支援する体制を

第2の課題は、育児休業取得に伴う収入維持とキャリア形成への対応である。育児休業取得に当たっての課題として「休業中の賃金補償」が多く挙げられている。育児休業を取得すると収入が減るために取得を躊躇う男性も多いようだ。現在、育児休業給付の給付率は67%だが、2025年度から8割程度に引き上げ、育児休業を取得しても手取り収入が変わらないようにすることが検討されている(こども未来戦略会議「こども未来戦略方針」2023年6月)。

他方、「キャリア形成において不利になる懸念」への回答が大企業で目立っている。実際、育児経験は、地域社会でのネットワークを広げ、様々な状況に対応する能力を高め、仕事に必要なキャリアを形成することにもつながるものである。したがって、育児休業の取得をプラスに評価する等、キャリア面でも安心して休業取得ができる体制づくりも重要である。

育児の固定的な性別役割意識の排除

第3の課題は、「社会全体の認識の欠如」が示すように、一人ひとりの意識変革である。育児負担が女性に偏ることの背景には、人々のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がある。育児休業は女性が取得するものという固定的な意識があるために、男性の育児休業の環境整備が進まず、男性は育児休業の取得を躊躇い、育児参加が進まないのだ。近年、このようなアンコンシャスバイアスを排除し、多様な価値観を受け入れるような社内研修を実施する企業も増えている。

共働きが増え男女ともに育児との両立が当たり前の社会に向かう中、少子化を止めるには、既存の慣習にとらわれず、夫婦で育児する世帯を社会全体で支援する体制づくりが急務であろう。

的場 康子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。