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言葉の使い方の実態と利用への意識
文化庁では言葉の新しい使い方の実態とともに、それらを他者が使うことに対する意識をたずねる調査を行っている。近年では、職場や地域社会をはじめとする日常生活の多様な場で、インターネットの利用や日本語を使わない人との接点が広がっている。そのような環境変化のなかで、自身や他者の言葉の使い方・受け止め方にかかわる感覚を知る目安として、例年話題になる調査の1つだろう。
直近の調査では、既存の言葉を使った短い言い方として「①「引く」(異様だと感じてあきれる)、「②盛る」(より良く見せようとする)、「③寒い」(冗談などがつまらない)、「④推し」(気に入って応援している人や物)、「⑤詰んだ」(どうしようもなくなった)の5つを取り上げている(注)。その結果、利用の実態に関しては、①から③までは「使うことがある」が半数を超え、④でもほぼ半数に達することが明らかになった(資料1)。
一方、このような言い方を他の人が使うのが気になるかについては、「⑤詰んだ」で「気になる」が3割を超えたものの、それ以外では「気にならない」が8割前後を占めた(資料2)。⑤に関しては、「使うことはない」・「気になる」がともに他より多いが、「気にならない」が多数派を占める点ではどれも共通している。
シニア世代で少ない「使うことがある」人
このような意識を年代別にみると、「使うことがある」人の割合は、60歳以上のシニア世代で低い(資料3)。また、他の人が使うのが「気にならない」人は、「使うことがある」とした人に比べると多く、シニア世代でも、おおむね半数を上回っている(資料4)。
シニア世代でこのような言い方を使わない人が多い背景には、従来の使い方・使われ方に接してきた期間が長く、新たに広がっている言葉や表現に、自身のもつ知識・経験との違いを感じやすいこともあるだろう。一方、若い世代は、このような使い方に、早い時期から親しんでいる。そのため新しい使い方として意識することなく使い、従来との違いを感じて「気になる」という感覚をもたない人が多いと考えられる。
言葉の使い方・受け止め方にかかわる多様な要因
ただし、シニア世代にもこのような使い方に変化や新しさを感じることなく、自然体で使う人はいる。情報通信機器での発信や入力で短い言い方を便利に感じて使うことや、カジュアルな会話で、ユーモアや強調を意図して意識的に使うケースも考えられる。一方、若くても、カジュアルな言葉や今どきの言葉を、自身はあまり使わないという人もいるだろう。年齢や世代ではなく、ライフスタイルや価値観、言葉を使う目的や接するメディア、言葉への知識やこだわりといったことも、言葉の使い方や受け止め方に、影響すると考えられる。
そして、シニア世代を含め、他の人が使うのが「気にならない」人が多いという先の結果は、言葉の変化を知らない人や自身は使わない人を含むものの、すでに多くの人がこのような使い方になじんでいることを示している。
言葉の変化を、異なる時代・文化への理解につなげるには
言葉の新たな使い方は、対面での会話の場面だけでなく、多様なコミュニケーションツールや、メディアを介して広がっている。また、世代の異なる人や、異なる文化・言葉をもつ人との接点は、リアルの世界だけでなく、インターネット上でも増えている。
このような状況下では、自身は使わなくても、他者の言葉やその使い方に関心をもつことが大切になる。たとえば、短くする言い方の便利さやカジュアルなニュアンスを知っていれば、従来の言い方が煩わしさや堅苦しさを感じさせることがあると気づくだろう。一方、従来の使われ方を知っていれば、短くする言い方が違和感やくだけすぎた印象につながる場合があると気づく。言葉の変化や新しい言葉の使い方を知り、他者とのポジティブなコミュニケーションにつなげていくことが重要だろう。
注:文化庁ではこれらについて「調査した5つの言葉は、既存の言葉を使った短い言い方で、新しい意味や使い方が辞書に記載されてきたものを取り上げた」としている(文化庁『令和4年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』、2023年9月29日)。
北村 安樹子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 北村 安樹子
きたむら あきこ
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ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース
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北村 安樹子