暮らしの視点(15):言葉をめぐるギャップと共感

~新たな表現が使われる理由・気になる理由~

北村 安樹子

目次

1.『とても』を『めっちゃ』と言うことがあるか

文化庁が行っている「国語に関する世論調査」には、言葉の新しい使い方や、本来の意味と使用実態の乖離について尋ねる項目が含まれている。前者に関しては、自分や他者の言葉遣いに対する感覚を確かめる目安として、後者に関しては、本来正しいとされてきた言葉の意味が、実際はどう理解されているのかを知るために、例年結果に注目する人の多い調査ではないだろうか。

今回の調査では「『めっちゃ』おいしい」「『じみに』痛い」「『そっこう』帰る」「『まるっと』わかる」「『鬼』かわいい」という5つの表現が取り上げられており、これらの表現を自分が使うことがあるかどうかや、他者が使うことへの意識を尋ねている(注1)。回答者全体の利用状況に関する調査結果をみると、「使うことがある」とした人の割合が最も高かったのは「『めっちゃ』おいしい」の57.9%であり(注2)、「『じみに』痛い」(39.8%)と、「『そっこう』帰る」(39.0%)がこれに続いている(図表1)。これらのうち「使うことがある」とした人が全体の半数を超えたのは「『めっちゃ』おいしい」のみ、ということになる。

図表 1 使うことがあるか(全体)
図表 1 使うことがあるか(全体)

2.使用状況の年代差

ただし、これらのなかには、若い人ではかなり多くの人が「使うことがある」としたものが含まれている(図表2)。例えば「『めっちゃ』おいしい」と「『じみに』痛い」では20代以下の9割超、「『そっこう』帰る」では40代以下の6割前後までが「使うことがある」としている。このため16~19歳と、70歳以上の人の差に注目した場合、『めっちゃ』と『じみに』では70ポイント超、『そっこう』でも50ポイント近くに達し、年代による利用状況の差が大きい。

これに対して「『まるっと』わかる」と「『鬼』かわいい」に関しては、先の2つに比べると年代差が小さく、「使うことがある」人の割合がどの年代でも2割に満たない。前者は30~40代で、後者は16~19歳と20代で、他の年代に比べ「使うことがある」とした人の割合がやや高くなっているが、どの年代でも「使うことはない」とする人が圧倒的に多数派である。

図表 2 使うことがあるか(年代別)
図表 2 使うことがあるか(年代別)

3.新たな表現が使われる理由・気になる理由

一方、このような表現を他者が使う場合に気になるかを尋ねた結果では、「使うことがある」とした人の割合が低いものを中心に「気になる」とした人の割合が高く、「『鬼』かわいい」では回答者全体の7割強、「『まるっと』わかる」では6割強に及ぶ(図表3)。一般的には、自分が使わない言葉や、各種メディアを含めて、ふだんの生活でふれる機会の少ない言葉を見聞きした場合に、気になると感じる人が多いのだろう。なお、『鬼』と『まるっと』については、若い人でも「気になる」とした人が半数を超え、年代による差は「『じみに』痛い」や「『そっこう』帰る」に比べ小さくなっている(図表4)。

新たな言葉や表現を使うことは、相手の興味や関心を呼び起こす一方で、立場や場面によっては違和感を与え、意図せず互いの理解を妨げてしまう事態も起こりうる。それらの表現を他者が使うことが「気になる」と感じる人の間で、使うことや使う人への否定的な印象が世代や立場を超えて拡がってしまう場合もあるだろう。一方で、「気になる」と感じた人が、新たな表現が使われる理由や自分が気になると感じた理由を考え、それらの言葉が意図するニュアンスに耳を傾けることも、家族を含め世代や立場の異なる他者を理解しようとする場合に大切な視点ではないだろうか。

図表 3 他の人が使うのが気になるか(全体)
図表 3 他の人が使うのが気になるか(全体)

図表 4 他の人が使うのが気になるか(年代別)
図表 4 他の人が使うのが気になるか(年代別)


【注釈】

1) これら5つを取り上げた理由に関し、調査結果の概要に関する資料には「調査した5つの言葉は、副詞的に用いるものの中から、新しい使い方や意味が辞書に記載されはじめたものを取り上げた」との注記がある。なお、調査では「『とても』おいしい」ということを、「『めっちゃ』おいしい」と言うことがあるか、についての実態をたずねている。以下本稿では、図表1の各表現に関し、表記を省略して記述している。

2) 同じ資料には、「辞書等では、「めっちゃ」は関西地方などで、「まるっと」は日本の各地で、以前から用いられていたとされている」との注記がある。


【関連レポート】

1) 北村安樹子「暮らしの視点(4):「~活」の広がりを考える ~新たな言葉の意味するところ~」2020年11月。

2) 北村安樹子「若者言葉からの気づきを考える~「ほぼほぼ完成している」と言われたら~」2019年7月。

3) 北村安樹子「何を「標準」とするか」2013年4月。

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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