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2025.06.03
新興国経済
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トランプ関税
ブラジル1-3月GDPは底入れも、国内外に課題山積の状況は不変
~物価高と金利高の共存、トランプ関税、米中関係など、株式やレアル相場への不安材料は山積~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済と国際金融市場は米トランプ政権の関税政策に翻弄される展開が続く。米中は貿易戦争に突入するも、先月の協議を経て関係改善が進むとの期待がうかがえた。しかし、足元では再び対立が深まる可能性が高まっている。こうした不透明感を理由に、国際金融市場では「米国離れ」の動きが進んでおり、新興国への資金流入が活発化している。こうした状況がブラジル市場への資金流入を後押ししている。
- ブラジルは米国にとって貿易黒字国であり、相互関税は低めに設定されている。トランプ関税によるマクロ面での直接的な影響は限定的である。ただし、米国向け輸出比率が高い鉄鋼・アルミ業界への影響は必至である。1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+5.70%と底入れし、堅調な外需と民間需要を中心とする内需が景気を押し上げている。ただし、インフレ再燃により中銀は断続的な利上げに動くとともに、財政悪化も懸念要因となるなか、先行きの景気回復が持続的なものとなるかは不確実性が残る状況にある。
- ルラ政権は来年の大統領選を見据え、財政健全化と国民生活の支援強化の両立を図っている。しかし、主要格付機関は財政運営の信頼性に疑念を呈しており、主要3社はいずれも「投資不適格級」に留めるなど、長期資金の安定的な流入は見込みにくい。年明け以降のレアル相場は米ドル安の動きも追い風に底打ちに転じているが、世界経済の不透明感が商品市況の足かせとなり、今後も上値の重い展開が続くであろう。
このところの世界経済や国際金融市場を巡っては、米トランプ政権の関税政策に翻弄される展開が続いている。米トランプ政権は、安全保障上の脅威を理由に、通商拡大法232条に基づき自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に対する追加関税を課している。さらに、貿易赤字の縮小を目的に、すべての国に一律で10%、一部の国や地域に対して非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示した。4月に相互関税を一旦発動させたが、直後に中国以外の国や地域への上乗せ分の発動を90日間延期した上で、各国や地域と個別に協議を行うことを決定した。他方、中国は報復措置に動き、その後に米中は報復を応酬させて双方が高関税を課す貿易戦争に発展した。なお、先月の米中協議を経て、米中両国は報復関税の撤廃に加え、米国は相互関税の上乗せ分を90日間停止し、中国も報復関税の上乗せ分を同期間停止して協議を行うことで合意した。よって、トランプ政権の発足以降は悪化の度合いを強めてきた米中関係は改善に向かうことが期待された。しかし、足元では米国のベッセント財務長官が中国との協議の行き詰まりを示唆する発言を行うとともに、トランプ大統領も自身のSNSに「中国は米国との合意に完全に違反した」と書き込む動きをみせる。一方、中国も商務部がトランプ氏の主張に「根拠がない」と否定した上で、米国が中国に対して複数の「差別的で制限的な措置」に動いたとして、自国の正当な権利と利益を守るべく断固とした措置を取るとの考えをみせる。米トランプ政権内からは、週内にも米中首脳が電話会談を行う可能性が示されているが、大きく事態が好転するかは見通しにくい状況にある。そして、米トランプ政権は今月4日付で鉄鋼製品やアルミ製品に対する追加関税を倍増(25%→50%)させる方針を示すなど、関税政策の行方も見通せない状況にある。
こうしたなか、ブラジルは米国にとって貿易黒字国であり、米国は同国に対する相互関税の税率を一律分と同じ10%とした。さらに、ブラジル経済にとって対米輸出額は名目GDP比で2%弱に留まり、トランプ関税によるマクロ面での直接的な影響は限定的と捉えられる。しかし、ブラジルは、鉄鋼製品輸出の約6割、アルミ製品輸出の約1割を米国向けが占めており、米トランプ政権による鉄鋼製品やアルミ製品への追加関税は関連産業を中心に深刻な悪影響が出ることが懸念される。さらに、上述のように米トランプ政権はこれらの税率を大幅に引き上げる方針を示しており、関連産業への悪影響は一段と深刻化すると懸念される。このところの国際金融市場では、トランプ関税をはじめとする米トランプ政権の政権運営への不透明感を理由に『米国離れ』とも呼べる動きが広がりをみせており、多くの新興国で資金流入が活発化する動きがみられる。ブラジル金融市場においては、トランプ関税による直接的な影響が限定的とみられる上、上述したように先月以降の米中摩擦の改善期待も追い風にした商品市況の底入れも追い風に資金流入が活発化しており、主要株式指数(ボベスパ指数)も底入れしてきた。とはいえ、鉄鋼製品やアルミ製品への追加関税の大幅引き上げに加え、足元ではインフレ再燃を理由に中銀は先月の定例会合で6会合連続の利上げに動くなど(注1)、株式市場に冷や水を浴びせる材料もくすぶる。よって、このところの活況が先行きも継続するか否かには不透明要因が山積していると捉えられる。

年明け直後の世界経済を巡っては、トランプ関税の発動を前にした世界貿易の駆け込みの動きを反映し、一部の国で外需が押し上げられる動きがみられた。ブラジルにおいても、1-3月の実質GDP成長率も前期比年率+5.70%と前期(同+0.21%(改定値))から大幅に加速するなど底入れが確認された。なお、昨年末にかけてはインフレ再燃に加え、中銀の断続的な利上げも影響してに個人消費に下押し圧力が掛かり、米トランプ政権の発足を前に外需への悪影響を警戒した輸出下振れも重なり、景気に急ブレーキが掛かる動きがみられた(注2)。しかし、トランプ関税の発動を前にした輸出駆け込みの動きを反映して輸出は3四半期ぶりの拡大に転じるなど、足元の景気底入れを促している。さらに、年明け以降のインフレは一段と加速し、中銀も断続的な利上げに動くなど、実質購買力に下押し圧力が掛かる状況にもかかわらず、個人消費は2四半期ぶりの拡大に転じており、企業部門の設備投資も活発化して固定資本投資も拡大、民間需要を中心とする内需拡大の動きも景気を押し上げている。その一方、ルラ政権発足以降、そのバラ撒き志向も影響して財政状況が悪化したため、政府は今年度から2ヶ年を対象に大規模な歳出削減に動いており(注3)、この動きを反映して政府消費に下押し圧力が掛かり、公共投資の進捗の遅れが固定資本投資の重石となっている。ただし、在庫投資が前期比年率ベースで2四半期連続のプラスで推移していると試算されるなど、在庫が積み上がっている様子がうかがえる。


分野ごとの生産活動を巡っては、主要輸出品目である大豆の豊作が後押しする形で農林漁業関連の生産が大きく拡大し、足元の景気底入れの動きをけん引している。一方、トランプ関税による外需の不透明感が高まるなかで製造業や鉱業部門の生産は下振れしており、足元では製造業の企業マインドが一段と下振れするなど、生産低迷が長期化する可能性が懸念される。さらに、個人消費や企業の設備投資の好調さが確認されるも、サービス業の生産は力強さを欠く推移をみせている。農林漁業関連における生産拡大は外需を下支えするとともに、需給ひっ迫懸念の緩和を通じて食料品を中心とするインフレ圧力を緩和すると期待される。他方、トランプ関税を巡る不透明感が世界経済の足かせとなるほか、米中摩擦の行方も大幅な改善が期待しにくく、原油や鉄鉱石をはじめとする同国の主要産品価格の重石となることが見込まれ、交易条件の悪化が国民所得の足かせとなる可能性もくすぶる。

同国では、来年10月に次期大統領選(第1回投票)が予定されており、ルラ大統領は再選を目指す姿勢をみせる。こうした事情も影響して、ルラ政権は金融市場の懸念に対応して歳出削減に動く一方、『史上最大の所得改革』と称する所得税の課税最低限の大幅引き上げによる所得税減税のほか、食料インフレ対策を目的とする輸入減税などを通じて家計部門への支援を強化している。直近の世論調査では、ルラ氏が次期大統領選に出馬した場合に同氏が当選する可能性が高いとの見方が示される一方、政権支持率は急速に悪化する動きも確認されており、物価高と金利高の共存長期化は幅広く国民生活に悪影響を与えている。なお、昨年10月に主要格付機関のムーディーズ社は同国に付与する外貨建長期信用格付を引き上げ(Ba2→Ba1)、「投資適格級」まであと1ノッチとした上で、先行きの見通しを「ポジティブ」とするなど将来的な格上げに含みを持たせる考えをみせた。しかし、同社は先月末に格付見直しを行い、見通しを「安定的」に引き下げるなど将来的な格上げの可能性を取り下げている。同社はその理由に、固定化された歳出の対応や財政政策の信頼性向上に向けた取り組みが遅れていること、債務健全性が著しく悪化していることを挙げている。同社以外の2社もいずれも投資適格級を下回るとともに、将来的な格上げの可能性は低いとの見方を示していることに鑑みれば、長期資金の安定的な流入を期待することのハードルは依然高い。先行きの景気に対する不透明感の高さや財政運営を巡る懸念に加え、原油や鉄鉱石など国際商品市況も上値の重い展開が見込まれるなか、年明け以降は米ドル安の動きも追い風にレアル相場は底打ちに転じているものの、先行きについては上値の重い展開が続く可能性に留意する必要があろう。

注1 5月8日付レポート「ブラジル中銀、6連続利上げで政策金利は14.75%と約19年ぶりに」
注2 3月12日付レポート「ブラジル24年成長率は+3.4%に加速も、足下の景気にブレーキ」
注3 2024年11月29日付レポート「金融市場はブラジルの税制改正に「失望」、レアル相場は最安値更新」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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