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2024.04.30
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ベトナム共産党、国家主席に続いて国会議長も辞任の異常事態
~「反腐敗・反汚職」を旗印にした政治闘争はいよいよ党中枢を揺るがす事態に発展も~
西濵 徹
- 要旨
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- ベトナムの政治は共産党一党体制の下、党書記長、国家主席、首相、国会議長の4人によるトロイカ体制が採られている。なお、現チョン体制下では「反腐敗・反汚職」を名目に派閥争いが激化しており、チョン氏を中心とする保守派が党中枢を占める動きがみられる。しかし、その余波を受ける形で昨年、今年と2年連続で国家主席が事実上更迭される異常事態となっている。こうしたなか、26日には国会議長のフエ氏が党中央委員会、政治局を解任されるなど事実上更迭された。ここ数年の同国では反腐敗・反汚職の背後で政府の機能不全が懸念されるなか、米中摩擦の漁夫の利を受けた環境は米国大統領選の行方も重なり一変する可能性がある。ベトナム政界を巡る動きが同国経済に与える影響に注意を払う必要性は高まっている。
ベトナムの政治を巡っては長らく、ベトナム共産党による一党体制の下で最高指導者の党中央委員会書記長(党書記長)、国家元首の国家主席、実務トップの首相、立法機関の長の国会議長の4人で構成される「トロイカ体制」に基づく統治がなされている。しかし、2011年にグエン・フー・チョン氏が党書記長に就任して以降、形式的にトロイカ体制を維持しつつ、チョン氏が旗振り役となる「反腐敗・反汚職」を理由にした派閥争いが激化する動きがみられる。この背景には、ここ数年の同党内では内政・外交政策を巡って「保守派」と「急進派」との派閥争いが激化しており、保守派の『親玉』であるチョン氏が汚職摘発を名目に党内で急進派の放逐を図っていることがあるとされる。結果、党内においてはチョン氏を中心とする保守派が主流派になるとともに、トロイカ人事を巡ってもチョン氏の側近が占めるなど影響力を拡大させてきた。こうした状況ながら、チョン氏が主導する反腐敗・反汚職を旗印にした権力闘争の動きは党中枢人事にも影響を与えるなど、屋台骨を揺るがしかねない事態が表面化している。昨年初めには、コロナ禍対応を巡って党中枢や政府内で汚職が相次いだ責任を取る形で国家主席であったグエン・スアン・フック氏が責任を取る形で事実上の更迭に追い込まれるなど、派閥争いの動きが党中枢人事にも影響を与えることがあらためて確認された(注1)。なお、フック氏の後任にはチョン氏の最側近のひとりでトロイカのなか一世代若いボー・バン・トゥオン氏を登用するなど、チョン氏の影響力拡大と世代交代の一挙両得を目指す動きがみられた(注2)。しかし、そのトゥオン氏を巡っても先月に党規約に違反していることを理由に事実上更迭されるなど、就任からたった1年で退任を余儀なくされており、チョン氏が主導する反腐敗・反汚職が政治混乱を招く事態となっている(注3)。現状、党はトゥオン氏の後任を指名せず、国家副出席を務めるボー・ティ・アイン・スアン氏を代行とすることで事態の安定化を図っているものの、スアン氏を巡っては昨年のフック氏の退任後も2ヶ月に亘って代行を務めるなど異常事態となっていることは間違いない。こうしたなか、党は26日に臨時の中央委員会総会を開催して、トロイカの一角である国会議長を務めるブオン・ディン・フエ氏を党中央委員会、政治局の解任を承認したことを明らかにしている。フエ氏自身は元々経済学者であり、国家会計監査委員長、財務相、中央経済委員長、副首相、ハノイ市党委員会書記を歴任した後、2021年にチョン体制が3期目入りした際に国会議長に就任した。さらに、チョン氏が80歳と高齢であることから、67歳のフエ氏は『ポスト・チョン』のひとりとして注目を集めてきた。しかし、今月に公安省が贈賄や不正入札の容疑で大手インフラ建設関連企業の会長を逮捕し、この事件に関連する職権濫用の容疑でフエ氏の側近で国会事務局の高官であったファム・タイ・ハー氏が逮捕されたことを受けて、一連の捜査の手がフエ氏にも及ぶ可能性が指摘されてきた。なお、党はフエ氏辞任の具体的な理由を明らかにしていないものの、声明文では「フエ氏の違反行為と欠点は否定的な世論を引き起こすとともに、党と国家、並びに同氏自身の評判に悪影響を与えた」としており、今回の解任劇も側近逮捕による監督責任を理由にした事実上の更迭と捉えられる。今後は来月20日に開会する国会(第15期第7回国会)において国会議長職も解任されることになる。今回のフエ氏の解任により政治局員は13人となり、2021年に始まった第13期政治局は5人減少するなど党中枢における人材不足が一段と深刻化することは避けられない。チョン体制下の共産党は保守派が勢いを増すとともに、経済政策においても統制色が強まるなかで改革・開放路線の後退に繋がる動きがみられる上、政府内における意思決定の遅れが常態化して投資環境が悪化する動きも顕在化している(注4)。政治的混乱が一段と混迷の度合いを増すことにより事態打開に向けた姿勢を示すことができない状況が続けば、ここ数年の米中摩擦の『漁夫の利』を受けてきた同国を取り巻く状況は米国の大統領選の行方も重なる形で大きく変化する可能性がある。このところの国際金融市場では『米ドル一強』の様相を強めるなかで通貨ドン相場は大幅に調整しており、中銀が一昨年末にかけて断続利上げに追い込まれた水準を下回るなど難しい状況に直面している。政治的混乱による政府の機能不全も懸念されるなかで同国を取り巻く環境は厳しさを増す可能性に注意を払う必要がある。
注1 2023年1月18日付レポート「ベトナム共産党、チョン書記長への権力集中が一段と進む展開」
注2 2023年3月3日付レポート「ベトナム国家主席にチョン党書記長の側近トゥオン氏が就任」
注3 3月21日付レポート「ベトナム、国家主席が2年連続で事実上の更迭という異例の事態に」
注4 4月4日付レポート「ベトナム景気は外需が下支えも、「政治」がリスク要因となりつつある」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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