南ア中銀、景気低迷が続くもインフレリスクを警戒せざるを得ない展開

~5会合連続の金利据え置き、景気低迷にも拘らずインフレリスクを警戒して引き締め姿勢を維持~

西濵 徹

要旨
  • 南ア準備銀行は27日の定例会合で政策金利を5会合連続で8.25%に据え置く決定を行った。ここ数年の同国経済は電力不足や物流インフラの機能不全が足かせとなり、物価高と金利高の共存も景気の重石となってきた。商品高や米ドル高の一巡でインフレは頭打ちに転じたが、足下では生活必需品を中心にインフレ圧力がくすぶる。中銀はインフレを巡るリスクを警戒しており、インフレを中銀目標の中央値(4.5%)に抑えることを最優先にしている模様である。先行きの決定はデータ次第としつつ、現行姿勢を維持するであろう。
  • 昨年の経済成長率は+0.6%に留まる上、足下の景気はほぼゼロ成長で推移するなど力強さを欠いている。同国では5月に次期総選挙が予定されているが、景気低迷が長期化するなかで与党ANCの支持率は低下に歯止めが掛からず、民主化以降で初の少数与党となる可能性が高まっている。中銀に圧力が高まる動きがみられるなか、ハニャホ総裁は11月の任期満了後の再任が決定したが、難しい舵取りを迫られる局面は変わらない。景気の見通しも立ちにくいなかでランド相場は上値の重い展開が続くと予想される。

南アフリカ準備銀行は、27日に開催した定例会合において政策金利を5会合連続で8.25%に据え置く決定を行った。ここ数年の同国経済を巡っては、慢性的な電力不足による計画停電のほか、資金不足による物流インフラの機能不全も重なり、幅広く経済活動の足かせとなる展開が続いている。他方、一昨年以降は商品高と米ドル高が重なる形でインフレが上振れして一時は13年ぶりの水準となり、中銀は物価と為替の安定を目的に累計475bpもの断続利上げを余儀なくされてきた。なお、一昨年末以降の商品高や米ドル高の動きが一巡したことを受けて、昨年のインフレは一転して頭打ちの動きを強めているほか、過去数ヶ月に亘ってインフレ率は中銀目標(3~6%)の域内で推移している。こうした状況ながら、足下では世界的な食料インフレの動きに加え、原油をはじめとするエネルギー資源価格の底入れも追い風に生活必需品を中心にインフレ圧力が強まり、インフレ率も前年に頭打ちの動きを強めた反動で底打ちするなどインフレ再燃の兆しがうかがえる。こうしたなか、中銀は昨年7月に1年半に及んだ利上げ局面を休止させて様子見姿勢に転じる動きをみせており、今回もそうした姿勢を維持した格好である。会合後に公表した声明文では、同国経済について「供給要因が足かせとなり力強さを欠く推移が続く」としつつ、先行きは「制約要因が後退することで緩やかな回復が見込まれる」とした上で「景気動向に対するリスクは上下双方にバランスしている」との見方を示す。一方、物価動向について「他国に比べて緩やかな上昇に留まるが、中銀目標(中央値4.5%)への収束の動きは遅れている」とした上で、「インフレが4.5%に収束するのは来年末とこれまでの想定に比べて後ろ倒しが予想される」としつつ「結果的に金融政策の正常化の時期も後ろ倒しが避けられない」との見方を示している。また、先行きのインフレ見通しについて「緩やかになるも依然として2年先も目標レンジの上半分に留まる」とした上で、「インフレに関するリスクは全体的に上方シフトしている」との見方を示している。その上で、今回の決定は「全会一致で決定した」としつつ「政策スタンスを抑制的に維持しつつ、インフレ見通しやインフレ期待の高まりに対応する必要性に合致している」との認識を示すとともに、先行きについては「データ次第であるとともに、見通しを巡るリスクに対応する」との考えを示している。

図表1
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なお、上述のように足下の景気は力強さを欠く推移が続いており、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+0.25%と前期(同▲0.73%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど辛うじてテクニカル・リセッション入りは回避しているものの、ほぼゼロ成長であるなど勢いの乏しい状況にある。世界経済の減速が意識される状況ながら、資源関連を中心に輸出は底堅く推移しているほか、中銀による高金利が続く一方でインフレ鈍化による実質購買力の押し上げを反映して頭打ちの動きが続いた家計消費は底打ちに転じる動きがみられる。しかし、金利高が長期化していることに加え、景気低迷が長期化していることも重なり企業部門による設備投資意欲は低迷しているほか、公共投資の進捗が一服するなかで政府消費も頭打ちの動きを強めるなど景気の足を引っ張っている。さらに、前期については在庫調整の動きが景気の重石となる動きが確認されたものの、当期については在庫投資の成長率寄与度が前期比年率ベースで+4.09ptと成長率を上回る水準となるなど、足下の景気動向は数字以上に厳しいと捉えられる。分野ごとの生産動向を巡っても、輸出の堅調さを反映して鉱業部門の生産は底打ちしているほか、家計消費の底打ちの動きがサービス業を下支えする一方、製造業や農林漁業関連の生産は力強さを欠くとともに、建設需要の弱さが建設業の足かせとなる展開が続いている。結果、昨年通年の経済成長率は+0.6%と前年(同+1.9%)から一段と鈍化しており、中銀は電力不足による成長率の下押し圧力が▲1.5ptに達したとした上で、今年は▲0.6ptに縮小した上で経済成長率が+1.2%になるとの見通しを示している。ただし、今年の経済成長率のゲタは+0.12ptと昨年(▲0.16pt)からわずかながらプラスに転じているものの、大幅な上振れが見通しにくい状況は変わりがない。なお、同国では5月29日に次期総選挙の実施が予定されているが(注1)、景気低迷が長期化するなかで世論調査においてはラマポーザ政権を支える与党ANC(アフリカ民族会議)の支持率は低下に歯止めが掛からないなど、民主化以降に一貫して政権与党の座を維持してきた同党が少数与党となる可能性が高まっている。先月には中銀が公的債務の増加に歯止めを掛ける観点から、向こう3年間を対象に緊急準備金から総額1500億ランドを充当する方針を明らかにしており、将来的には財政補填に向けた動きが進むことが懸念される動きがみられる(注2)。なお、政府は今年11月に任期満了を迎える中銀のハニャホ総裁の再任を決定しており、ハニャホ氏は3期目入りする見通しとなっているものの、上述のように実体経済を巡る不透明要因が山積するなかで難しい舵取りを迫られることは避けられない。当面のインフレ率は前年に頭打ちの動きを強めた反動で一段と加速する懸念がくすぶるなか、中銀は引き続き現行の引き締め姿勢を継続せざるを得ず、結果的に景気に逆風が吹きやすい展開が続くと見込まれ、ランド相場を巡っても米ドル高圧力がくすぶるなかで上値の重い推移をみせると予想される。

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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