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2024.02.21
新興国経済
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為替
南ア総選挙は5月29日、与党ANCとその後の政治・経済の行方は
~民主化以降で初の少数与党となる懸念、政権運営が困難化するなど通貨ランドの混乱要因にも~
西濵 徹
- 要旨
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- 南アフリカの大統領府は次期総選挙を5月29日に実施すると発表した。民主化以降の同国ではANCが一貫して与党の座を維持しているが、近年は党勢の退潮が鮮明になっている。2021年の統一地方選では民主化以降で初めてANCの得票率が5割を下回る一方、その背後で左派ポピュリズム政党のEFFが党勢を急拡大させている。慢性的な電力不足やインフラの機能不全による景気低迷が長期化し、インフレ長期化や高失業も重なり政権への不満が高まり、ANCは一段と議席を失う懸念もある。総選挙後の国民議会で実施される大統領選を経てラマポーザ政権が維持される可能性は高いが、少数与党となれば政権運営に苦慮することは避けられない。同国経済はファンダメンタルズが脆弱ななか、次期政権の枠組如何ではランド相場を大きく揺さぶる材料となることも考えられるなど、極めて不透明な状況となる可能性がある。
南アフリカにおいては、年内にも議会下院(国民議会)の任期満了が迫るなど次期総選挙が意識される状況が続いたなか、大統領府は20日に総選挙を5月29日に実施することを発表した。同国政界においては1994年の民主化以降後、ANC(アフリカ民族会議)が一貫して政権与党の座を維持している。しかし、2009年に大統領に就任したズマ前大統領は就任前から様々なスキャンダルが取り沙汰されるとともに、その後は汚職疑惑をきっかけに退任に追い込まれたことも重なり同党の支持率は低下傾向を強めた。現職のラマポーザ大統領はズマ氏の後任として2018年に就任する一方、その前の同党議長(党首)就任に際しての議長選では党を二分する形で激化したほか、その後も派閥闘争がくすぶるなど波乱含みの状況が続いた。2019年の前回総選挙においてANCは半数を上回る議席を維持するとともに、その後の大統領選を経てラマポーザ政権は2期目入りを果たしたものの、総選挙においてANCは議席を大きく減らすなど党勢の退潮が鮮明になった。さらに、ラマポーザ政権下の同国経済は慢性的な電力不足が幅広い経済活動の足かせとなる状況が続いていることに加え、コロナ禍という不運も重なり景気が大きく下振れしたことも重なり、2021年に実施された統一地方選でANCは民主化以降に実施された選挙で初めて得票率が50%を下回るなど党勢は一段と退潮する事態に直面した。その背後では、元々ANC青年同盟の執行委員長であったマレマ氏が同党を追放後に結党した左派のEFF(経済的解放の闘士)が党勢を急拡大させており、EFFはマルクス・レーニン主義や反資本主義などを党是に掲げるとともに、ポピュリズム色の極めて強い過激な主張を展開することで支持を集めている。なお、EFFは黒人の若年層や貧困層、失業者などを中心に支持を広げる動きがみられるなど、長年に亘る景気低迷を背景に社会経済格差が拡大するとともに、人種間格差が依然として大きいなかで国民の間の不満が高まっていることが影響しているとみられる。その後の同国経済を巡っても、慢性的な電力不足に加え、物流インフラの機能不全も重なる形で景気は力強さを欠く推移が続いており、多くの新興国がコロナ禍の影響を克服する動きをみせているにも拘らず、同国については実質GDPの水準がコロナ禍直前と同程度に留まるなど勢いを欠く展開をみせている。さらに、一昨年来の商品高や米ドル高を受けたインフレ昂進の動きは貧困層や失業者などにその悪影響が集中している上、足下の失業率は依然として30%を上回るなど高水準で推移するなど国民生活は疲弊しており、政権に対する不満は一段と高まっている可能性がある。よって、次期総選挙においてANCは一段と議席を失うことが懸念されるとともに、民主化以降で初めて議席数が半数を下回る可能性が取り沙汰されている。なお、総選挙後の後に国民議会が新大統領を選出する選挙を実施するため、仮にANCの獲得議席数が半数を下回った場合においてもラマポーザ氏が選出される可能性は高く、政権を維持すると予想されるものの、少数与党となることで政権運営はこれまで以上に困難さが増すことは避けられない。そして、上述のように政界においては左派ポピュリズムが台頭する動きがみられる上、世論調査では一段と勢力を増す可能性が高まっていることを勘案すれば、次期政権下での政策の方向性が大きく転換するリスクもくすぶる。南アフリカの外貨準備高は、IMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして慢性的に「適正水準」とされる規模を下回るなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱と見做されるなか、総選挙の行方はランド相場の行方に影響を与えることも懸念される。その意味では、次期総選挙まで残すところ3ヶ月余りとなるなか、その後の同国経済については極めて不透明な状況に直面する可能性に警戒する必要があると判断出来る。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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