- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- アルゼンチン中銀が突如利下げに舵、「壮大な社会実験」の行方は如何に
- World Trends
-
2024.03.13
新興国経済
新興国金融政策
アルゼンチン経済
株価
為替
アルゼンチン中銀が突如利下げに舵、「壮大な社会実験」の行方は如何に
~インフレ抑制への当局の自信の現れか、金融市場の期待と裏腹に国民生活は厳しさを増す展開~
西濵 徹
- 要旨
-
- アルゼンチン中銀は11日に政策金利を2000bp引き下げて80%とする決定を行った。同国では昨年の大統領選を経てリバタリアン(自由至上主義)を掲げるミレイ政権が発足し、「ショック療法」的な政策運営が展開されている。IMFや金融市場はミレイ政権の政策運営に期待を寄せるが、議会で与党は少数派に留まるなかで政権は大統領令を通じた政策運営を続ける。他方、足下のインフレは一段と加速するなど鎮静化の見通しが立たない状況が続くが、中銀はインフレ鈍化や外貨準備高の回復の兆しを利下げの理由に挙げる。ただし、利下げは非公式レートの調整を招いてインフレ収束を難しくすることが予想される。政権が主導する「壮大な社会実験」の裏で国民生活は疲弊するなかで、同国経済の見通しは立ちにくい状況が続く。
アルゼンチン中銀は11日、政策金利である翌日物リバースレポ金利を2000bp引き下げて80%とする決定を行った。同国においては、昨年の大統領選で勝利したリバタリアン(自由至上主義)を標ぼうするミレイ氏が大統領に就任し、政権発足当初から『ショック療法』的な経済改革を矢継ぎ早に打ち出す動きをみせている(注1)。政権発足前は非公式レートとの乖離が拡大する展開が続いたものの、通貨ペソの公定レートの切り下げを受けて乖離幅は縮小する一方、政権公約に掲げるペソの廃止が意識されるなかでペソ安に歯止めが掛からない状況が続いている。なお、ミレイ政権による政策運営は、政権を支える与党勢力が議会上下院ともに少数派に留まるなど『ねじれ状態』となるなか、議会手続きを経ず大統領令の公布により推進される展開が続いており、こうした手法を巡って疑問が呈される動きがみられる。こうした状況ながら、IMF(国際通貨基金)は最新の審査資料においてミレイ政権が推進する経済安定化計画を評価する姿勢をみせる一方、実現のハードルの高さを懸念する考えをみせている。また、IMFのみならず金融市場もミレイ政権による政策運営を支持している模様であり、主要株価指数(メルバル指数)は先月初旬に史上最高値を更新するなどの動きもみられた(注2)。しかし、政権が先月議会に提出した経済改革法案を巡っては、議会で多数派を占める野党や中間派が中心となる形で否決されるなど、構造改革の進捗は一進一退の展開となることは避けられそうにない。他方、足下の貧困率は6割弱に上るとの調査結果が公表されている上、足下のインフレはペソ切り下げに伴う輸入インフレを追い風に一段と加速しており、2月のインフレ率は前年比+276%、コアインフレ率も同+292%と33年ぶりの高水準となるなど鎮静化の目途が立たない状況が続いている。さらに、賃金交渉を巡る労使協議が合意に至らなかったことを受けて、政権は2月の最低賃金を+15.4%(15.6万ペソ→18万ペソ)、今月も+12.7%(18万ペソ→20.28万ペソ)引き上げる大統領令を交付しており、ペソ安に歯止めが掛からないことも重なり当面のインフレは一段と上振れする可能性が高まっている。こうした状況にも拘らず中銀は一転して利下げに動くとともに、同行はその理由として現政権が発足した後にインフレ鈍化や外貨準備高の回復といった兆しがうかがえることを挙げる。事実、足下では減少の動きが続いた外貨準備高が底打ちに転じる動きがみられるほか、1月末のIMF支援を巡る7次レビューの理事会承認を経て約47億ドルの払い込みを受けていることを勘案すれば、底入れが進んでいる可能性はある。今回の唐突な利下げ実施は当局がインフレ抑制への自信を高めている現れと捉えられる一方、ペソの流動性が高まることで非公式レートの調整を招くとともに、そのことがインフレ収束の道筋を厳しくすることも予想される。ミレイ政権が主導する『壮大な社会実験』の裏で国民生活は疲弊の度合いを強める様子もうかがえるなど、金融市場が抱く期待とは裏腹に同国経済の見通しは依然として立ちにくい状況にあると捉えられる。
注1 2023年12月28日付レポート「アルゼンチン・ミレイ政権が始動、「初手」はショック療法から」
注2 2月16日付レポート「アルゼンチン、金融市場やIMFは改革姿勢を評価も現状は困難が続く」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
マレーシア景気はAI・半導体、原油高を追い風に堅調に推移 ~4-6月GDPは前年比+5.8%に加速、先行きも外部環境に左右される展開が続く~
アジア経済
西濵 徹
-
インド・6月インフレは+4.38%と17ヵ月ぶりに中銀目標超え(Asia Weekly) ~シンガポール4-6月GDPはAI・半導体関連投資の旺盛さが下支え役に~
アジア経済
西濵 徹
-
米国がブラジルに25%の関税発動、通商政策の不確実要因となるか ~ブラジルは経済相互主義法に基づく報復へ、米国の通商政策が世界経済をかく乱するか~
新興国経済
西濵 徹
-
韓国中銀は3年半ぶりの利上げ実施、追加利上げにも含み ~イラン情勢、異常気象、ウォン安、堅調な景気などによるインフレ長期化を警戒~
アジア経済
西濵 徹
-
中国景気は「外需>内需」と「供給>需要」の構図が続いている ~名実逆転解消も、先行きの景気は「K字型」の様相を一段と強めると見込まれる~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
イラン情勢と異常気象、アジア新興国への影響を考える ~スーパーエルニーニョによる影響に加え、世界的なインフレによる間接的影響にも要注意~
新興国経済
西濵 徹
-
ペルー・フジモリ次期大統領、中銀総裁留任で政策の継続性を重視 ~ベラルデ中銀総裁が留任要請を受諾、市場が期待する同氏の手腕と政権運営の行方は~
新興国経済
西濵 徹
-
南アフリカで反不法移民デモ拡大、その背景と今後の影響は ~統一地方選を前にした政治運動が影響を増幅、金融市場への影響はどうなる~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシア、産油国が石油不足に陥る苦境の背景とは ~ウクライナによるドローン攻撃が奏功も、ウクライナ戦争の行方は見通せない展開が続こう~
新興国経済
西濵 徹
-
大統領選を前に板挟みのブラジル中銀、市場の信認が揺らぐ懸念 ~インフレ加速にもかかわらず連続利下げ決定、中銀の独立性にも懸念~
新興国経済
西濵 徹

