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2024.01.16
新興国経済
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メキシコ経済
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メキシコ中銀は6会合連続で金利据え置き、利下げには依然慎重姿勢
~大統領選は与党候補優勢のなか、経済やペソ相場は引き続き「米国次第」の展開が続くと見込まれる~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年のメキシコ経済は、構造面で依存度が高い米国経済の堅調さに加え、米中摩擦やデリスキング、ニアショアリングを追い風とする対内直接投資の流入が下支えする展開が続く。一昨年は商品高によるインフレ上振れに直面したが、商品高や米ドル高の一服、中銀による断続利上げを受けたペソ相場の堅調さも追い風に昨年のインフレは鈍化した。中銀は昨年5月に2年に及んだ利上げ局面を休止させており、昨年12月の定例会合でも6会合連続で金利を据え置いている。中南米諸国ではインフレ鈍化を受けて利下げに動く流れが広がっているが、中銀内では政策委員の大宗が慎重姿勢を維持している模様である。米ドル安が意識されやすい状況を勘案すれば、当面のペソ相場は強含みしやすい展開が続くと見込まれる。他方、6月の大統領選はシェインバウム氏が大幅にリードするなど「反ビジネス」色の強い政策が維持される可能性が高いことを勘案すれば、同国経済はペソ相場の行方はあくまで米国次第の展開が続くと予想される。
昨年のメキシコ経済を巡っては、財輸出の約8割、GDPの約4%に相当する移民送金を米国が占めるなど米国依存度が極めて高いなか、物価高と金利高の共存長期化にも拘らず米国経済は引き続き堅調な推移をみせていることに加え、ここ数年の米中摩擦やデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーン見直しの動きも追い風に、いわゆるニアショアリングの動きを反映した対内直接投資の活発化の動きも景気を下支えする展開が続いている。他方、一昨年来の商品高の動きを追い風にインフレが上振れするとともに、国際金融市場において米ドル高の動きが強まったことを受けて、中銀は物価と為替の安定を目的に米FRB(連邦準備制度理事会)に歩調を併せる形で断続、且つ大幅利上げを実施するなど金融引き締めの動きを強めてきた。ただし、一昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡したことを受けて、インフレも一昨年9月に12年弱ぶりの水準に加速するもその後は頭打ちに転じるとともに昨年以降は減速の動きを強めたため、中銀は昨年5月に利上げ局面を休止させるとともに、その後は様子見姿勢を維持してきた。なお、インフレが鈍化に転じるなかでも中銀は引き締め姿勢を維持したことで、実質金利(政策金利-インフレ率)はプラス幅を拡大させるなど投資妙味が高まったことを追い風に、国際金融市場においては米ドル高一服の動きも重なり通貨ペソ相場は堅調な推移をみせたことでインフレ鈍化を促す一助となってきた。ただし、過度なペソ高は米ドル建での流入が大宗を占める移民送金のペソ建換算での目減りとともに、輸出競争力の低下を招くことが懸念されるなか、中銀はペソ相場の安定を目的に導入した為替ヘッジプログラムの段階的縮小に動くなどペソ高阻止に向けた対応をみせた。こうした動きにも拘らず、足下のペソ相場は米ドル高圧力が後退する流れを反映して堅調な推移をみせており、上述した為替ヘッジプログラムの縮小による影響を相殺する展開となっている。一方、昨年のインフレは頭打ちの動きを強めてきたものの、穀物をはじめとする国際市況が底入れの動きを強めるなど食料インフレの懸念が高まっていることを反映して足下のインフレは底打ちする動きが確認されるなどインフレの再燃が警戒される兆しがうかがえる。中南米諸国においては、インフレ鈍化を理由に利下げに舵を切る動きが広がりをみせるなか、中銀も将来的な利下げ実施に向けた『布石』を打つ兆しをみせたものの(注1)、中銀は先月の定例会合においても6会合連続で政策金利を11.25%に据え置くとともに、インフレ見通しをわずかに引き上げた上で、先行きの政策運営について「インフレを目標域に持続的に収束させるべく、政策金利を『しばらくの間』現行水準に維持する必要がある」との考えを改めて示した。中銀のロドリゲス総裁は、現地紙のインタビューにおいてインフレ動向について慎重を期す必要があるとの見方を示す一方、今年初めに利下げ実施の可否について検討をはじめる可能性に含みを持たせる考えをみせた。しかし、その後に公表された先月の定例会合に関する議事要旨では、1人の政策委員(次回会合での利下げの検討)を除いて利下げの検討や対外発信の時期について慎重を期す必要があるとの考えを示すなど、金融市場が早期の利下げを見込むなかで依然として『タカ派』が大勢を占めていることが明らかにされた。よって、当面のペソ相場については米FRBによる利下げが意識される形で米ドル安圧力が掛かりやすい状況にあることも重なり、比較的強含みしやすい展開が続くと見込まれる。他方、今年6月に実施される大統領選では、ロペス=オブラドール政権を支える与党MORENA(国民再生運動)からはロペス=オブラドール氏の『懐刀』であるシェインバウム氏が、野党は中道右派政党のPAN(国民行動党)所属のガルベス氏を統一候補とするなど、女性同士による事実上の一騎打ちとなっている(注2)。直近の世論調査においては、いずれの調査でもシェインバウム氏が50%を上回る支持を得るなど大幅にリードする動きがみられ、次期政権も現政権同様に『反ビジネス』色の強い政策を志向すると見込まれることを勘案すれば、同国経済の行方は引き続き米国経済の動向次第の様相を強める展開が続くと予想される。
注1 2023年11月13日付レポート「メキシコ中銀、5回連続で金利据え置きも、将来的な利下げの「布石」か」
注2 2023年9月8日付レポート「メキシコ大統領選、与野党ともに女性候補による事実上の一騎打ち」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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