南米コロンビア、経済のみならず政治も「視界不良」状態が続く

~物価高と金利高の共存長期化、政界スキャンダルで同国初の左派政権はいよいよ厳しい状況に~

西濵 徹

要旨
  • 南米コロンビアでは昨年の大統領選を経て同国初となる左派ペトロ政権が誕生した。政権誕生を後押しした左派ゲリラとの和平交渉は大きく前進する動きがみられる。他方、ペトロ政権が矢継ぎ早に打ち出した改革はとん挫を余儀なくされるなか、スキャンダル発覚も相次ぐなど政権を巡る状況は厳しさを増している。さらに、足下でインフレは頭打ちするも依然高水準に留まり、中南米で利下げの動きが広がるなかでも中銀は様子見姿勢を維持せざるを得ない。結果、足下の景気は勢いを欠く展開が続くなど経済の停滞が続き、政界を巡るゴタゴタ続きも相俟って政権支持率は低下の一途を辿る。このように政治、経済両面で厳しい状況ながら、足下の通貨ペソ相場は実質金利のプラス化や米ドル高の一服を受けて底堅い動きをみせる。しかし、政治、経済ともに視界不良状態に陥るなかで外部環境に揺さぶられやすい展開が続くであろう。

南米のコロンビアにおいては、昨年の大統領選において左派のグスタボ・ペトロ氏が勝利したことで同国初となる左派政権が誕生するなど、ここ数年中南米諸国に広がりをみせる『ピンクの潮流』と呼ばれる動きが伝統的に米国と関係が深い同国にも及んだ格好である。こうした背景には、コロナ禍を経て同国経済が疲弊するなか、ここ数年の商品高に伴うインフレが国民生活を直撃する状況に直面するなか、ペトロ氏が公約に掲げた社会経済格差の解消を目指す動きをみせたことが国民を惹き付けたとみられる。また、同国においては長年に亘る内戦の後に左派ゲリラ勢力との和平合意を経て治安改善が図られているものの、武装組織が存在するなかでペトロ氏は最大の武装組織であるELN(民族解放軍)との和平交渉再開を公約に掲げ、このことも支持を後押しした。なお、和平交渉は一進一退の動きをみせるも今年6月に一時停戦で合意しており、8月から停戦が実施されるなど前進する動きがみられる。他方、ペトロ政権は昨年の発足から保険制度や労働制度、年金制度などで矢継ぎ早に改革案を打ち出すも、共和国議会では当初こそ上院(元老院)、下院(代議院)ともに政権を支える左派勢力が中道政党と連立を組む形で多数派を形成したものの、路線対立の表面化を理由に中道政党が離反する動きが広がりとん挫する展開が続いてきた。さらに、政権内ではペトロ氏の側近によるスキャンダルが相次いで発覚するとともに、今年7月には資金洗浄容疑でペトロ氏の長男と元妻を逮捕する事態に発展しており、和平交渉の背後で洗浄された資金がペトロ氏の政治資金に使用されたとの疑惑も噴出している(注1)。また、昨年は商品高や国際金融市場における米ドル高に加え、同国は電力構成の6割以上を水力発電に依存するなかでここ数年の歴史的大干ばつを理由に火力発電の再稼働を余儀なくされる事態も重なりインフレが上振れしてきた。なお、昨年末にかけては商品高や米ドル高が一巡するなどインフレ要因が後退しており、多くの中南米諸国においてはインフレが頭打ちに転じる動きがみられるものの、同国では年明け以降もインフレ加速が続いて中銀は利上げを余儀なくされてきた(注2)。足下のインフレは頭打ちに転じるも直近10月も前年比+10.5%と中銀目標(3±1%)を大きく上回る推移が続いており、中南米諸国ではインフレ鈍化を受けて利下げに動く流れがみられるものの、中銀は引き締め姿勢の維持による様子見を図る状況が続いている。このように物価高と金利高の共存状態が長期化していることを受けて、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+0.96%と前期(同▲3.89%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるも勢いを欠く推移が続いており、中期的な基調を示す前年同期比ベースでは▲0.3%と3年弱ぶりのマイナス成長に転じるなど頭打ちの様相を強めている。こうしたことから、発足直後における政権支持率はまずまずの出だしをみせたものの、構造改革が相次いでとん挫していることに加え、スキャンダルの続出も追い風に支持率は低迷に歯止めが掛からない状況が続いており、政権発足から1年強にも拘らず極めて厳しい状況に追い込まれている。このように政局や経済を巡る状況には不透明感が高まっているものの、主要産油国による自主減産延長決定や中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた原油価格の底入れの動きに加え、インフレが頭打ちに転じて実質金利のプラス幅が拡大するなど投資妙味の向上も追い風に通貨ペソ相場は底入れの動きを強める展開をみせてきた。足下では世界経済の減速懸念の高まりなどを理由に原油相場は頭打ちに転じる動きをみせているものの、ペソ相場は底堅い動きをみせており、足下では米ドル高圧力が後退していることに加え、政権を取り巻く環境が厳しさを増すなかで左派志向の強い改革機運が後退することを期待する向きも影響しているものと捉えられる。とはいえ、経済も政治もともに不透明な状況が続くなかで外部環境如何により大きく動揺する可能性に注意する必要がある。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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