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2023.07.31
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コロンビア、ペトロ大統領の足元を揺るがしかねない長男の逮捕
~景気低迷による政権支持率が低下するなか、資金洗浄容疑は政権への打撃となることは必至か~
西濵 徹
- 要旨
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- 南米コロンビアでは昨年、中南米で広がる「シン・ピンクの潮流」に飲み込まれる形で初めての左派政権であるペトロ政権が発足した。ペトロ氏は経済格差の解消と武装組織との和平交渉を公約に掲げて大統領選に勝利し、政権は和平交渉で一定の成果を上げた。他方、物価高と金利高の共存状態の長期化は景気の足かせとなる状況が続いている。インフレ率は3月を境に頭打ちに転じるも、依然として中銀目標を大きく上回る推移が続く。ただし、米ドル高の一服や原油相場の底入れ、インフレ鈍化に伴う実質金利のプラス幅拡大を追い風に通貨ペソ相場は底入れの動きを強めている。インフレ鈍化を受けて家計部門のマインドも底打ちするなど景気を取り巻く環境に変化の兆しが出ている。こうした状況の一方、検察はペトロ大統領の長男とその元妻を資金洗浄容疑で逮捕し、和平交渉の背後で麻薬組織から資金を受領し、ペトロ氏の政治資金に使用した疑惑も噴出している。仮に容疑が事実であれば、景気低迷の長期化で政権支持率は低下傾向が続くなか、ペトロ氏や政権にとって大打撃となる可能性もあり、その動向に注意が必要となる。
南米のコロンビアでは、昨年実施された大統領選において左派のグスタボ・ペトロ氏が勝利し、同国において初めて左派政権が誕生した。同国は伝統的に米国と関係が深く、2000年前後に中南米においていわゆる『ピンクの潮流』と称される形でドミノ的に左派政権が誕生した際にも同国では右派政権が維持されたにも拘らず、ここ数年の『シン・ピンクの潮流』の流れには抗うことが出来なかった。この背景には、コロナ禍を経て経済が疲弊するなか、足下では商品高による生活必需品を中心とするインフレが顕在化して国民生活を直撃しており、ペトロ氏が掲げた経済格差の解消を目指す政権公約が多くの国民を惹き付けたと捉えられる。また、ペトロ氏は同国最大の武装組織ELN(民族解放軍)との和平交渉の再開を政権公約に掲げており、国民の間では長期に亘る内戦状態の終結を求める声が高まっていることも同政権の誕生を後押ししたと考えられる。なお、ペトロ政権は発足直後からELNとの和平交渉を行うも協議は一進一退の動きをみせてきたものの、今年6月には3度目の協議を経て180日間の一時停戦を行うことで合意に至り、この合意に基づけば来月3日から来年1月末まで一時停戦が履行される見通しであるなど一定の成果を上げている。他方、同国経済はコロナ禍からの底入れの動きが続いているものの、昨年以降は商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安に伴う輸入インフレも重なり、インフレ率は20年超ぶりの高水準に加速する事態に直面している。中銀は物価抑制を目的に一昨年10月に5年強ぶりとなる利上げを決定したほか、その後も物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされており、物価高と金利高の共存状態が長期化して景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。なお、昨年の景気は物価高と金利高の共存状態が長期化するなかで頭打ちの様相をみせてきたものの、今年1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+5.89%と5四半期ぶりの高い伸びとなっているほか、中期的な基調を示す前年同期比ベースでも+3.0%と前期(同+2.1%)から加速するなど一見すれば景気の底入れを示唆する動きが確認されている。ただし、これは金利高の長期化や世界的な脱炭素の流れを受けて企業部門による設備投資意欲が後退するなか、この動きを反映して輸入に下押し圧力が掛かり、結果的に純輸出の成長率寄与度が大きく押し上げられたことが影響するなど、内容面では景気の底入れにはほど遠いと捉えられる。こうした状況ではあるものの、中銀は4月末の定例会合においても利上げを実施して政策金利は13.25%と1999年10月以来の高水準となるなど、一段と金融引き締めの動きを強める展開が続いている(注1)。なお、年明け以降もインフレ率は一段と加速して3月には前年比+13.34%に達する一方、その後は頭打ちに転じているものの、直近6月時点においても同+12.12%と中銀の定めるインフレ目標(3±1%)の上限を大きく上回る推移が続いている。ただし、昨年末以降は米ドル高の動きに一服感が出ている上、中銀が引き締め姿勢を維持するなかでインフレ率は鈍化して実質金利はプラスに転じているほか、足下では主要産油国の枠組であるOPECプラス内でサウジとロシアが自主減産に動いたことを受けて(注2)、供給制約が意識される形で原油価格は底入れの動きを強めており、こうした外部環境の変化を追い風に通貨ペソ相場は底入れの動きを強めている。さらに、インフレの鈍化を受けて家計部門のマインドも底打ちするなど経済を取り巻く環境に改善の兆しがうかがえるものの、こうした状況に一転冷や水を浴びせかねない動きが顕在化している。というのも、検察当局がペトロ大統領の長男のニコラス・ペトロ容疑者とその元妻をマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で逮捕しており、ELNとの和平交渉に関連した麻薬組織関係者との裏取引がその資金源になるとともに、ペトロ大統領の政治資金に用いられたとの疑惑が出ている。ペトロ大統領は疑惑について明言することは避ける一方、検察の決定に対する中立姿勢を強調するなど事態の推移を見守る考えをみせているものの、仮に政治資金がマネーロンダリングによって得られたものであった場合、上述の経緯から『庶民の味方』然として誕生した大統領、及び同政権への痛手は深刻なものとなることが予想される。同政権が発足して来月には丸1年を迎えるが、足下の同国経済を取り巻く状況は極めて厳しい展開が続いており、政権支持率は低下傾向を強めているなか、今回の疑惑は政権に対する反発が一段と強まる可能性にも留意する必要があろう。



注1 5月2日付レポート「コロンビア、インフレ収束の見通し立たず中銀はタカ派姿勢維持」
注2 7月4日付レポート「サウジとロシアは自主減産により「同じ夢」をみることが出来るか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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