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2023.06.06
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メキシコ、次期大統領選の前哨戦は野党地盤で与党勝利の「大金星」
~次期大統領選などへ与党MORENAに追い風、保護主義姿勢が強まることは避けられない模様~
西濵 徹
- 要旨
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- メキシコでは2018年の大統領選において左派のロペス=オブラドール氏が勝利し、ここ数年中南米で広がる「ピンクの潮流」の先鞭をつけた。ただし、大統領任期は1期6年のみとされるなかで来年の大統領選にロペス=オブラドール氏は出馬出来ない。一方、保護主義的な経済政策や左派的な社会政策を追い風にロペス=オブラドール氏の支持率は低所得者層を中心に高水準で推移しており、左派与党MORENAの行方に注目が集まっている。足下の景気は米国経済の堅調さを追い風に底入れが続く一方、昨年来のインフレ昂進の動きに一服感が出ており、中銀は約2年に及んだ利上げ局面の終了を決定するなど家計・企業を取り巻く環境は変化しつつある。こうしたなか、4日に実施された大統領選の「前哨戦」となる地方選では、野党地盤の中部メキシコ州知事選で与党MORENAの候補が勝利する大金星を挙げた。この結果は次期大統領選・連邦議会上下院選に向けて与党MORENAの追い風になると期待され、保護主義姿勢が維持される可能性は高い。他方、ペソ相場は中銀や政府の慎重姿勢を反映して底堅い展開が続くであろう。
メキシコでは、2018年の大統領選で左派政党の国民再生運動(MORENA)から出馬した元メキシコシティ市長のロペス=オブラドール氏が勝利して左派政権が誕生するなど、ここ数年中南米諸国に広がりをみせる『ピンクの潮流』の先鞭をつけた格好である。大統領選と同時に実施された連邦議会上下院選挙においても、MORENAは上下両院で第1党になるとともに、連立政党と併せて上下両院で多数派を形成することに成功するなど、盤石な政権基盤を築くことに成功した。しかし、メキシコ大統領の任期は1期6年までとされており、来年7月に実施される次期大統領選にロペス=オブラドール氏は出馬することが出来ず、同氏が退任した後のMORENAの行方に注目が集まっている。ロペス=オブラドール氏とMORENAを巡っては、国家資本主義を前面に押し出す保守主義色の強い経済政策を標ぼうするとともに、最低賃金の引き上げた社会保障の拡充など左派色の強い社会政策を導入するなど、新自由主義的な政策運営を志向したペニャ=ニエト前政権から180度方針転換が図られてきた。こうした同政権が志向する『反ビジネス』色の強い国家資本主義的な経済政策に対しては、外国企業を中心に警戒する向きが強まり、米国を中心とする海外からの直接投資の受け入れの重石となる動きがみられる。しかし、ロペス=オブラドール政権の下では歴代政権による汚職を批判するとともに、上述した左派色の強い社会政策を追い風に低所得者層を中心に高い支持を集めている。こうしたことから、2021年に実施された連邦議会下院(代議院)の中間選挙、州知事選、市町村長・地方議会選においては、前年からのコロナ禍による景気減速なども影響して代議院においてMORENAは議席を大きく減らすも、連立与党全体では半数を上回る議席を維持することが出来た。また、地方選においては地方部を中心にMORENA、及び現政権に対する支持が厚いことが確認される一方、都市部においては野党が躍進を果たして現政権に対する反発が強まる動きがみられるなど、都市と地方の間の『隔絶』が広がっている様子がうかがえた。他方、商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安による輸入インフレも重なり、インフレ率は一時20年強ぶりの高水準に加速したほか、中銀は一昨年以降断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど、物価高と金利高の共存が景気に悪影響を与えることが懸念された。こうした状況ながら、足下の同国景気は財輸出の約8割、GDPの約4%に上る移民送金の大宗を米国が占めるなか、米国景気の堅調さを追い風に底入れの動きを強めるなどコロナ禍の影響を克服する展開が続いている。さらに、足下では商品高による生活必需品を中心とするインフレの動きが一巡している上、国際金融市場における米ドル高の動きも一服していることも重なり、インフレ率は昨年後半以降頭打ちの動きを強めている。結果、中銀は先月の定例会合において約2年に及んだ利上げ局面の終了を決定するなど、家計部門や企業部門を取り巻く環境に変化の兆しが出ている(注1)。こうしたなか、上述のように次期大統領選まで残すところ約1年となるなか、今月4日にその『前哨戦』となる地方選挙が実施された。なかでも注目を集めたのは同国のなかで最も人口が多い同国中部のメキシコ州であり、同州では1929年から中道野党・制度的革命党(PRI)が一貫して知事の座を握ってきたが、選挙管理委員会に拠ればMORENAから出馬したデルフィナ・ゴメス=アルバレス氏(前公教育相)が半数を上回る票を得て、PRIを中心とする野党連合から出馬したアレハンドラ・デルモラル氏が敗北宣言を行っている。こうした結果は来年の大統領選、及び連邦議会上下院選挙を前に与党MORENAにとって追い風となることが期待される。MORENA内の大統領候補争いを巡っては、多くの世論調査でロペス=オブラドール氏に近いとされるメキシコシティ市長のクラウディア・シェインバウム=アルド氏がリードし、現政権で外相を務めるマルセロ・エブラル=カサウボン氏が僅差で追う展開が続いているが、いずれの候補も現政権の保護主義的な政策運営を継続する可能性が高いと見込まれる。このように同国では左派政権が継続する可能性が高まっているものの、足下の通貨ペソ相場は中銀が利上げ局面の終了を決定するも、少なくとも年内いっぱいは高金利政策を維持する姿勢を示すなど『タカ派』的な色合いをみせるなど実質金利の上昇が期待されること、左派政権にも拘らず財政運営は慎重姿勢が維持されていることも重なり堅調な推移をみせており、当面のペソ相場は底堅い展開が続くと予想される。
注1 5月19日付レポート「メキシコ中銀、インフレ鈍化を好感して約2年に及んだ利上げ局面の終了を決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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