内外経済ウォッチ『アジア・新興国~「米ドル一強」のなかで新興国経済はどうなるか?~』(2024年6月号)

西濵 徹

目次

米ドル高再燃で新興国を巡る状況は再び厳しく

このところの国際金融市場では、米国のインフレの粘着度の高さがあらためて確認されるなか、米FRBによる政策運営に対する見方の変化を受けて米ドル高圧力が再び強まっている。ここ数年は米FRBなど主要国中銀の金融引き締めを追い風に米ドル高が進み、資金流出に直面した新興国のなかにはデフォルト(債務不履行)に追い込まれる国も現れた。さらに、ウクライナ戦争を受けた商品高により全世界的にインフレが昂進するなか、多くの新興国では物価と為替の安定を目的とする観点から大幅な利上げを迫られる事態となった。

しかし、商品高の動きが一巡してインフレが頭打ちに転じる国が出たほか、新興国のなかでも比較的早期に利上げに動いた中南米では実質金利がプラスに転じたため、利下げに動く流れもみられた。これらの国々は米FRBに先んじて利下げに動いたものの、実質金利のプラス幅拡大による投資妙味が向上したため、昨年後半以降の米ドル高再燃に際しても通貨は比較的堅調に推移した。一方、異常気象を理由とする食料インフレに加え、中東情勢の悪化を受けた原油相場の底入れも重なり、生活必需品を中心にインフレが強まる動きがみられる。食料品やエネルギー資源を輸入に依存する新興国では自国通貨安による輸入インフレが一段と強まることも懸念されるなど、各国のインフレは比較的落ち着いた動きをみせるが、厳しさは増している。

資料1 米ドル指数の推移
資料1 米ドル指数の推移

通貨防衛へ時間稼ぎもその「耐性」はまちまち

自国通貨安による輸入インフレが警戒されるなかで当局が為替介入や通貨防衛を目的とする利上げに動く流れもみられ、新興国を取り巻く環境は急速に厳しさを増している。足下の世界経済を巡っては、コロナ禍やウクライナ戦争を機に全世界的に分断の動きが広がっている上、近年の世界経済をけん引してきた中国経済の勢いにも陰りが出るなかで世界貿易は低迷するなど、経済構造面で輸出依存度が相対的に高い新興国経済の足かせとなりやすい状況が続く。そして、中国人観光客数に依存してきた国々にとっても、中国経済の減速懸念は関連産業やサービス輸出の足かせとなる展開が続いている。

こうしたなかで多くの新興国は為替介入による『時間稼ぎ』に動いていると捉えられるものの、為替介入の原資となる外貨準備高を巡ってはIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算されるなど耐性が乏しい国も少なくない。国際金融市場は比較的落ち着いた推移をみせているものの、中東情勢を巡って不透明な状況にある上、中国景気についても見通しが立ちにくい状況が続いており、仮に何らかの動揺に繋がる動きが顕在化すれば新興国経済を取り巻く状況は急速に悪化する事態も考えられる。当面の新興国経済、および金融市場については慎重にみておく必要があると捉えられる。

資料2 主要新興国の外貨準備高とARA(適正水準評価)の比較
資料2 主要新興国の外貨準備高とARA(適正水準評価)の比較

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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