メキシコ中銀、インフレ鈍化を好感して約2年に及んだ利上げ局面の終了を決定

~中銀は相当期間現行水準での金利維持を示唆、米ドル高一服も重なりペソ相場は底堅さが続こう~

西濵 徹

要旨
  • メキシコ中銀は18日に開催した定例会合において政策金利を11.25%に据え置き、約2年に及んだ利上げ局面の終了を決定した。物価高と金利高の共存に加え、米国経済の減速懸念が同国経済の足を引っ張ることが懸念されたが、インフレ率は昨年9月を境に頭打ちしており、移民送金の堅調さも重なり足下の景気は堅調な推移が続いている。さらに、中銀が米FRBと歩調併せてきたことで通貨ペソ相場は底堅い動きが続くなどインフレ圧力の緩和に繋がっている。中銀は3月の前回会合で利上げ休止が近いことを示唆したが、インフレ鈍化を受けて実行に移した格好である。なお、中銀はディスインフレプロセスに入ったことを好感する一方、インフレを巡るリスクは上向きとの見方を示しており、相当期間に亘り現行の金利水準を維持する考えを示している。よって、当面のペソ相場は米ドル高一服の動きも重なり底堅い展開が続くであろう。

メキシコ経済を巡っては、財輸出の約8割、並びにGDPの約4%に上る移民送金の大宗を米国からの流入が占めるなど、米国経済の影響を受けやすい特徴を有する。昨年の同国経済は、感染一服による経済活動の正常化が進むとともに、米国経済の堅調さも外需の追い風となり、通年の経済成長率は+3.1%と前年(同+4.7%)から鈍化するも、景気は着実に底入れの動きを強めてきた。他方、昨年来の商品高の動きは、同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招くとともに、景気回復を追い風とする雇用改善の動きもインフレ昂進を促してきた。なお、米FRB(連邦準備制度理事会)のタカ派傾斜を反映した米ドル高は、多くの新興国で自国通貨安による輸入インフレを招いてきたが、同国では中銀が物価抑制を目的に一昨年6月に利上げ実施に舵を切り、その後は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを実施するなど米FRBと歩調を併せる動きをみせた。同国の通貨ペソ相場は米ドル高局面においても比較的堅調に推移したほか、昨年末以降は米ドル高に一服感が出たことで強含んでおり、輸入インフレ圧力が掛かりにくい展開となっている。結果、昨年半ばにかけて加速の動きを強めたインフレ率は昨年9月を境に頭打ちに転じているほか、足下では商品市況が調整している上、上述のようにペソ高による輸入インフレ圧力の後退も重なり頭打ちの動きを強めている。よって、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせるほか、米国経済の頭打ちによる悪影響が懸念されたものの、今年1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+3.8%と前期(同+3.6%)から伸びが加速するとともに、前期比年率ベースの成長率も+5.32%と前期(同+1.83%)から加速するなど足下の景気は底入れの動きを強めている。この背景には、米国経済の堅調さを追い風に外需が底堅い動きをみせるとともに、移民送金の堅調な流入が続いている上、インフレ鈍化による実質購買力が押し上げられており、利上げの累積効果の影響を相殺していると捉えられる。ただし、中銀は3月末の定例会合において15会合連続の利上げ実施を決定するも、米FRBに歩調を併せて利上げ幅を縮小させるとともに、先行きの利上げ停止を示唆するなど『ハト派』姿勢を強める様子をうかがわせた(注1)。また、足下の国際金融市場においては米国での銀行破たんをきっかけに不透明感がくすぶるなか、米FRBは直近のFOMC(連邦公開市場委員会)において利上げ局面の停止に含みを持たせるなど、タカ派姿勢を後退させる姿勢をみせている。こうした米FRBの姿勢も影響して、中銀は18日に開催した定例会合において政策金利を11.25%に据え置く決定を行い、約2年間に及んだ利上げ局面を終了させるなど前回会合で示唆した内容を実行した格好である。会合後に公表した声明文では、物価動向について「コアインフレの見通しは変わらない一方、インフレ見通しはわずかに下方修正されている」とした上で「インフレ率は今年10-12月に目標(3%)に収束する」との見通しを示したものの、「インフレに関するリスクバランスは依然上向きに傾いている」との見方を示している。その一方で、「様々なインフレ圧力が緩和されたことで足下の経済はディスインフレプロセスに入っている」として、利上げ局面の終了を決定したとしている。先行きの政策運営については「インフレの上振れリスクがくすぶるなか、インフレ収束の実現に向けて現行の政策金利を長期間維持することが必要」とするなど、今後は高金利を維持する可能性が高まっていると見込まれ、ペソ相場は底堅い展開が続くと予想される。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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