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2022.12.12
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アルゼンチン・フェルナンデス副大統領に有罪判決、政治が経済の足を引っ張る展開は続くか
~経済の立て直しの動きは着実に前進も、政治を巡る視界不良状態は今後も続くことは避けられない~
西濵 徹
- 要旨
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- アルゼンチンでは来年、次期大統領選と総選挙が行われるなど「政治の季節」が近付いている。2018年の経済危機やコロナ禍を経て同国経済は疲弊する一方、19年の政権交代により誕生した左派フェルナンデス政権は当初こそ政権運営に懸念が高まるも、緊縮的な政策運営によりIMFからの支援のほか、パリクラブとの債務再編で合意するなど失墜した信頼の回復に努めてきた。ただし、政治の季節が近付くなかで党内では政策運営を巡る鍔迫り合いが懸念されるなか、今月6日に連邦裁は大統領在任中の汚職疑惑で起訴されたフェルナンデス副大統領に禁錮6年、終身公職追放の有罪判決が下された。不逮捕特権などを勘案すればフェルナンデス氏は副大統領に留まると見込まれ、上訴の行方如何では次期大統領選に出馬可能であるなど影響力を維持出来る。経済の立て直しの動きは前進する一方、インフレは昂進しペソ相場の調整は止まらない状況にあるなど、政治面でのゴタゴタが経済の足を引っ張る可能性には引き続き要注意と言える。
アルゼンチンでは来年10月に次期大統領選、及び総選挙の実施が予定されるなど、『政治の季節』が近付いている。同国を巡っては、2018年の通貨ペソ相場の暴落を契機とする経済危機に加え、一昨年来のコロナ禍も重なり深刻な景気低迷に直面してきた。また、2019年の大統領選により誕生した左派の(アルベルト)フェルナンデス政権は、マクリ前政権が受け入れで合意したIMF(国際通貨基金)からの支援を巡って債務繰り延べを要請するとともに、デフォルト(債務不履行)も辞さない強硬姿勢を示した。しかし、現実には経済危機を経て失墜した国際金融市場での信頼回復に向け、緊縮財政を維持した上でIMFとの債務再編交渉を着実に前進させるとともに、コロナ禍対応を巡っても経済活動の正常化を前進させるなど『ポスト・コロナ』に向けた動きが着実に進んでいる。他方、政策運営を巡っては、中道左派で穏健な政策運営を志向するフェルナンデス大統領と、急進左派でIMFなどとの対立も厭わない(クリスティーナ)フェルナンデス(デ・キルチネル)副大統領(元大統領)との対立が顕在化するとともに、この対立をきっかけにIMFやパリクラブ(主要債権国会議)との交渉を担ったグスマン元経済相が退任するなど悪影響が懸念される動きもみられた(注1)。しかし、政権はその後に経済危機対応の強化を目的に『超省庁』を創設するとともに、担当相に有力政治家の(セルジオ)マサ氏(下院議長)を据えることにより与党・ペロン党内の対立は休戦状態に持ち込まれた(注2)。マサ氏の下で財政赤字目標の堅持による緊縮的な財政政策が維持されている上、中銀もこの動きに歩調を併せる形で引き締め姿勢を維持しており、IMFは10月に拡大信用供与措置(EFF)に基づく38億ドル規模の資金拠出を承認した。さらに、10月末にはパリクラブとの間で約20憶ドル相当の債務返済計画の再編で合意しているほか、今月初めにもIMFとの間で60億ドル規模の資金拠出に関する実務者レベルでの合意に至るなど経済の立て直しに向けた動きは着実に前進している。ただし、上述のように政治の季節が近付くなかで労働組合や党内の急進左派を中心に、賃上げや失業手当の拡充などを求めるデモが活発化しており、政府は最低賃金の段階的引き上げを決定するとともに、企業に対して年末の特別ボーナスの支給を義務付けるなどの対応を余儀なくされている。また、9月にはフェルナンデス副大統領に対する暗殺未遂事件が発生するなどきな臭い動きも表面化したが、同氏を巡っては8月に検察当局が大統領在職時の公共事業を巡る公金流用の汚職疑惑を理由に禁錮12年を求刑し、今月6日に連邦裁判所が禁錮6年と終身での公職追放という有罪判決を下す事態となっている。同国では、過去に1989~99年に大統領を務めたカルロス・メネム元大統領、(クリスティーナ)フェルナンデス元政権下で副大統領を務めたアマド・ブドゥー氏が退任後に有罪判決を受けた例はあるものの、現職の副大統領が有罪判決を受けたのは初めてとされる。ただし、フェルナンデス副大統領は上院議員として不逮捕特権を有するとともに、上院議長を兼務している上、免責特権のはく奪には上院において3分の2以上の賛成が必要になるなか、与党が上院で多数派を形成していることを勘案すれば、はく奪される可能性は低い。なお、フェルナンデス副大統領は来年12月の任期満了後を巡っては次期大統領選には出馬しない方針を示している一方、上訴する考えを示しており、今後の裁判にどれだけの時間を要するかは不透明であり、その間は副大統領職を続けることが可能である上、次期大統領選にも出馬することが可能ではある。というのも、与党ペロン党内でフェルナンデス副大統領はフェルナンデス大統領をしのぐ影響力を有しており、閣僚の選定を巡ってもフェルナンデス副大統領の承認が必要とされるなか、有罪判決が党内力学に影響を与えるかは不透明であり、今後も隠然たる影響力を維持する可能性は高い。他方、足下のインフレ率は国際商品市況の上振れの動きが一巡しているにも拘らず生活必需品を中心に加速が続いているほか、通貨ペソ相場も米ドル高に一服感が出ているにも拘らず調整が続いており、輸入物価を通じたインフレ昂進に繋がっているとみられる。最低賃金の段階的引き上げの動きもインフレ圧力に繋がることは必至と見込まれる。上述のように、経済政策面では立て直しの動きが着実に進んでいるものの、政治面でのゴタゴタは同国経済の足かせとなる可能性には引き続き注意が必要と言える。


注1 7月4日付レポート「アルゼンチン、グスマン経済相が突如の辞任で「視界不良」状態に」
注2 8月18日付レポート「アルゼンチン、経済危機対応を強化も視界不良状態は不可避の展開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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