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2022.08.18
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アルゼンチン、経済危機対応を強化も視界不良状態は不可避の展開
~経済相の権限強化、緊縮堅持も市民の反発は根強く、次期大統領選に向け与党内対立再燃も~
西濵 徹
- 要旨
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- アルゼンチンでは、2019年の大統領選で左派のフェルナンデス政権が誕生した。経済政策の行方に注目が集まったが、グスマン経済相はIMFに債務再編を要求する一方で緊縮財政による穏健な政策を維持した。結果、IMFとの債務再編が前進する一方、与党内の穏健派(フェルナンデス大統領)と急進派(クリスティナ副大統領)の対立が激化して政策運営が困難になったため7月にグスマン氏は突如辞任した。その後、フェルナンデス大統領は経済危機対応を目的に経済相の権限を強化し、今月初めに下院議長であったマサ氏を経済相に据えた。与党内の対立は一旦休戦し、マサ氏は緊縮財政路線を維持したほか中銀も一段の金融引き締めに動いた。しかし、世界的な商品高も影響してインフレは一段と昂進し、与党関連団体の扇動によるデモも激化している。来年の大統領選に向けて対立再燃も予想され、経済の視界不良状態が続くであろう。
アルゼンチンでは、2019年の大統領選で左派政党の正義党(ペロン党)のアルベルト・フェルナンデス氏が勝利し、4年ぶりとなる左派政権への回帰を果たした。なお、同国経済はマクリ前政権末期に危機的状況に陥ってIMF(国際通貨基金)への支援要請に追い込まれ、支援受け入れの代わりに緊縮的な財政運営を余儀なくされていた。こうしたなか、フェルナンデス政権は経済政策全般を担う経済相に公的債務論の専門家でIMF批判を展開してきた経済学者のマルティン・グスマン氏を据えたため、如何なる政策運営を行うかが注目された。しかし、グスマン氏はIMFに対して債務再編を要求する一方、緊縮財政路線を維持するなど国際金融市場に配慮した穏健な政策運営を行ったことから、IMFは同国政府との協議を経て今年3月の理事会で債務再編計画を承認するなど、金融市場からの信認回復に向けが動きは前進してきた(注1)。他方、一昨年以降のコロナ禍は同国経済に深刻な悪影響を与える一方、世界経済の回復やウクライナ情勢の悪化を受けた幅広い国際商品市況の上振れは世界的にインフレを招いている。同国ではここ数年インフレが高止まりしてきたこともあり、足下のインフレは大きく上振れしている。さらに、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を受けて世界的なマネーフローが変化しており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な新興国が資金流出に直面する動きがみられる。こうしたことから、中銀は年明け以降に物価安定を目的に断続的且つ大幅利上げを実施しているものの、通貨ペソ安の進展により輸入物価を通じてインフレが一段と昂進する展開が続くなど、物価高と金利高の共存が経済の足かせとなっている。他方、与党・ペロン党内では、中道左派で穏健な政策を志向するフェルナンデス大統領と、急進左派でIMFなどとの対立も厭わないクリスティナ・フェルナンデス=デ=キルチネル副大統領(元大統領)との対立が激化するなか、昨年末の中間選挙での与党敗北を受けてフェルナンデス大統領は厳しい立場に追い込まれてきた(注2)。その後もグスマン氏の下で緊縮財政が維持されるも、物価上昇を理由に反政府デモが激化するなど政権運営に対する批判が強まるとともに、クリスティナ副大統領との確執も激化して政策遂行が難しくなったため、7月にグスマン氏は突如経済相の辞任を発表した(注3)。後任の経済相には内務次官を務めていたシルビナ・バタキス氏が一旦は就任したものの、その後フェルナンデス大統領は経済危機への対応を強化すべく、経済省に生産開発省と農牧漁業省の機能を統合させる『超省庁』の創設を発表し、今月初めに経済相を議会下院議長であったセルヒオ・マサ氏に交代する人事を発表した。なお、マサ氏はクリスティナ元政権下で首相であったほか、2015年の大統領選にも出馬した有力政治家であり、同相の権限が大きくなるなかでフェルナンデス大統領は政権運営を巡る安定感を重視したとみられる。また、マサ氏の就任を巡っては与党内でフェルナンデス大統領派と対立するクリスティナ副大統領派も賛成しており、両派の対立は一旦休戦状態となることが期待される。マサ氏は財政赤字目標を堅持する姿勢を示すとともに、就任直後には今後90日以内に満期を迎える国債のうち約2兆ペソ相当分について自発的な債務交換を行うなど短期的な財政負担の抑制に努めるなどの動きをみせる。さらに、中銀も今月11日に政策金利を950bp引き上げて69.50%とする一段の金融引き締めに動くなど、歩調を併せる動きをみせている。ただし、早くも与党関連の労働組合や左派グループが扇動する形で賃上げと失業手当の引き上げを求める抗議デモが激化しているものの、政府は緊縮財政を堅持する姿勢を示していることを勘案すれば、事態収拾の見通しはなかなか立ちにくいのが実情である。同国では来年10月に次期大統領選が予定されており、与党内の対立が再燃することも予想されるなど。アルゼンチン経済の行方は引き続き視界不良状態が続くことは避けられないであろう。
注1 3月29日付レポート「アルゼンチン、デフォルト回避へ模索が続くも、先行きの道のりは険しい」
注2 2021年11月17日付レポート「アルゼンチン中間選で与党敗北、「ねじれ状態」で政権の八方塞がりは必至」
注3 7月4日付レポート「アルゼンチン、グスマン経済相が突如の辞任で「視界不良」状態に」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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