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2022.09.21
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ケニア、ルト大統領就任で穏便な政権移行も、新政権の課題は山積
~物価高・通貨安に加え、対外債務の負担増など、新政権は船出から困難に直面する展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- ケニアでは先月の大統領選を経て、選管はルト氏の僅差での勝利を発表した。他方、選挙結果を巡って接戦を演じたオディンガ氏は最高裁に異議申し立てを行った。過去には異議申し立てを受けて暴動が起こるなど治安情勢が悪化したため、同様の事態に陥ることが懸念された。しかし、最高裁は申し立てを却下してルト氏の当選が確定し、今月13日にルト氏は正式に大統領に就任するなど穏便に政権移行が進められた。政治情勢は落ち着きを取り戻したが、同国は物価高や通貨安に直面しており、今後は対外債務の負担増が経済活動の足かせとなる懸念もくすぶる。新政権は船出早々から経済難に取り組む厳しい状況が続くであろう。
ケニアでは先月、5年に一度の大統領選が実施された。大統領選には計4人が出馬したものの、現実にはケニヤッタ前政権下で副大統領を務めたルト氏と、キバキ元政権下で首相を務めたオディンガ氏による事実上の一騎打ち状態となった。選挙戦を巡っては、ルト氏はケニヤッタ氏の後継者と目されていたものの、政権運営を巡る対立が鮮明になるとともに両者の溝が広がる動きがみられた。他方、過去の経緯からオディンガ氏とケニヤッタ氏は長年に亘る政敵として知られるも、ケニヤッタ氏とルト氏の関係が悪化するなかで最終的にケニヤッタ氏はオディンガ氏を支援する異例の事態に発展した。こうした複雑な事情も影響して、事前の世論調査においてはルト氏とオディンガ氏が接戦を演じることが予想された。事実、選挙管理委員会が公表した大統領選の投票結果は、ルト氏の得票率が50.49%、オディンガ氏の得票率が48.85%となり、僅差でルト氏が勝利したことが示された(注1)。これを受けてルト陣営は勝利宣言を行う一方、選管内部では計7人の選管委員のうち4人が集計結果に責任が持てないとの見解を示したため、オディンガ陣営からも選挙結果の無効を主張して最高裁判所に異議申し立てを行う事態となった。なお、過去には2017年に実施された大統領を巡って、その後に開票作業を巡る不正を理由とする異議申し立てをきっかけに1,000人以上が死亡する暴動に発展するなど治安悪化に繋がった経緯がある。オディンガ陣営による異議申し立てを前に、首都ナイロビや同国西部などでは抗議活動の一部が暴徒化する動きがみられたため、同様の事態に発展することが懸念された。オディンガ陣営は異議申し立ての期限である先月22日に最高裁に正式に申し立てを行い、最高裁は憲法規定に基づく形で14日以内に結論を下すことが求められており、その行方に注目が集まった。結果、最高裁は今月5日付でオディンガ陣営による申し立てを却下するとともに、選管が公表した投票結果を支持したことを受けてルト氏の勝利が確定した。オディンガ陣営は判断内容に対して疑問を呈する一方、結果を尊重する声明を発表したほか、当初懸念された暴動などに発展する事態は避けられるなど、穏便に政権移行が行われることとなった。こうしたなか、13日にルト氏が正式に大統領に就任したほか、就任式においては上述のように大統領選を巡って対立したケニヤッタ前大統領と握手を交わして穏便な政権交代を演出するなど、国内外で広がった治安情勢の悪化懸念に対する『火消し』を思わせる動きもみられた。一方、ルト新政権を巡っては船出早々から厳しい対応を迫られる局面が続くことは避けられそうにない。同国はサブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域ではナイジェリア、南アフリカ、アンゴラに次ぐ4番目の経済規模を有するほか、域内では比較的政治が安定しており、外交面でも重要な役割を果たすことが少なくない。ただし、昨年来の原油や石炭などエネルギー資源価格の底入れに加え、年明け以降はウクライナ情勢の悪化による供給不安を受けて穀物など幅広い商品市況の上振れも重なり、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレ圧力が顕在化している。中銀は5月末の定例会合において約7年ぶりとなる利上げ実施(7.00→7.50%)を決定するなど金融引き締めに動いたものの、その後の国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を理由に米ドル高圧力が強まっており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国で資金流出圧力が強まる動きがみられる(注2)。通貨シリング相場は米ドル高を反映して調整しており、大統領選を経た治安情勢に対する懸念も重なり調整の動きを強めてきたほか、今月に入って以降も政治混乱の収束が期待されるにも拘らずシリング安が収まらない事態に直面している。さらに、ケニヤッタ前政権下では中国からの債務が急拡大しており、返済本格化による負担増に直面するなかで、通貨安は一段の負担増に繋がるなど幅広い経済活動の足かせとなることも懸念される。世界経済を取り巻く状況も厳しさを増すなど外需を巡る不透明感も高まるなか、新政権は早々から難しい対応を迫られることになろう。
注1 8月16日付レポート「ケニア大統領選、ルト副大統領が僅差で勝利も、暴動に発展の可能性」
注2 8月30日付レポート「FRBパウエル議長の言う「何らかの痛み」は新興国にどう影響する?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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